R35−LOVE 03
成人式の日、俺は全豪オープンでオーストラリアにいた。
そんな時、ブン太からメールが届いた。
「よおっ!相変らず頑張ってんじゃん!テレビで見てるぜ!
大会が終わったら一時的に日本に帰ってきたりしねーの?
成人式で昔の同級生とかに会ったらめっちゃ懐かしくってさ。
幸村君とも一緒に成人式参加したかったぜ。
てなわけで、かつてのテニス部のメンバーで幸村君の成人式パーティーみたいなものやりたいなあって思ったんだけど、帰って来る予定あんなら教えてくれよな。店とか手配ちゃんとしとくから」
嬉しかった。
純粋に海の向こうで俺のことまだ仲間だと思ってくれている連中がいるってことが凄く励みになる。
大会が終わったら一度日本に帰ってみよう。
でも・・・・・・テニス部メンバーが集まるということは、真田も来る。
今までに日本に帰省することは度々あった。
蓮二とは帰省するたびによく会った。
丸井とジャッカルと柳生と仁王と男5人でディズニーランドに行った事もある。
真田とは何故だか会っていない。
皆で会おうと約束しても家の用事が入ったり、俺も日本のスポンサーと会わないといけないとかでお互い擦れ違ったままだった。
ただ、大会前後には必ずメールをくれた。
真田らしく厳格できっちりとした文章を見て「あの機械オンチの真田がメールをね」とそれでも俺の為にメールを打ってくれたことがおかしくて、でも俺は他の激励をくれた人と同じようにありきたりのお礼の返信をするだけだった。
イギリスに渡ってからもう5年だ。
おれの馬鹿げた想いもある程度薄れている。
今ならきっと「あの時は何故だか真田が好きだったんだよな」と思い返して笑えるだろう。
そう思いながら俺は帰省の徒についた。
久々に集まったかつての仲間達は相変らずそれぞれ個性にあふれていてテニス漬けの俺の生活に楽しみを与えてくれた。
それぞれ自分達のやりたいことの為に大学へは行かずに専門学校へ進んだブン太とジャッカルは3月で卒業でそれぞれ就職先が決まったとのことだ。
「ほう、丸井はアントノワールの横浜店でパティシエをやるのか。アントノワールと言えば神戸が本店の全国展開しているかなり有名な洋菓子屋だろう。めでたいことだな」
「参謀の口から洋菓子店に関する言葉が出てくるなんて思ってもみなかったぜい」
「そこのケーキは美味いって有名であろう、洋菓子の街から進出して来たとうちの姉がよく買ってくる」
蓮二と真田はそのまま立海大に進学している。
スポーツ科学を専攻している蓮二は蓮二らしいと思った。
「真田は大学で何専攻してるの?」
「日本史だ」
「あはは、真田らしいね」
俺が言ったことでその場がどっとどよめいた。
俺は真田に普通に声を掛けることができた。
きっと、もう、大丈夫だろう。
真田が好きだった俺がだんだんと遠ざかっていく。
「そういや仁王って何してるの?」
「それは企業秘密ぜよ」
相変らず掴み所の無い不思議な奴だ。
「幸村君、心配しなくてもちゃんと大学生をしてますよ」
柳生がフォローに入る。相変らずいいコンビだ。
「てか、柳生と同じ大学だろ。俺ら聞いたとき吃驚したんだぜ。いつの間にそんなに勉強してたんだよ」
「それも企業秘密ぜよ」
柳生は立海大には進学せずに外部の医大に進学した。
しかし蓋を開けてみれば立海大に進学すると言っていた仁王も何故か柳生と同じ医大に進学していた。
「そのまま内部進学するとばかり思っていたのだが、さすが詐欺師だな」
「真田と大学生活を送るより柳生と大学生活を送った方が面白いと思ったからのう・・・」
なんだかんだ言っても柳生と仁王は仲が良い。仁王が柳生と同じ学校に進学してみたい気持ちも分かる。
「だからと言って医学部だろ、おい・・・」
仁王のとんでもない行動力に俺は軽く眩暈がした。
やはりこのメンバーといると楽しい。
自分の本来の場所に帰って来た気がする。
帰れる場所があるということはこんなに素敵な事だということが今更ながらに身に染みた。
店から実家までの帰り道は蓮二と一緒だった。
「精市の元気そうな顔を見て俺もホッとした」
「俺はいつも元気だよ」
「……そうではなくて」
めずらしく口篭る
「…真田のこと?」
「ああ」
「心拍数、脈拍異常なし。きっともう大丈夫だろう。あれは過去の若い思い出だよ」
そう、もう過去の出来事だ。
もう大丈夫だ。
俺は普通に真田と友達として、過去に一緒に闘った仲間として接する事ができるだろう。
蓮二の安心した顔に俺もホッとした。
だが、その5年後に俺の想いは覆されることになる。
真田が結婚したのだ。
仲間内で1番乗りの結婚に皆も吃驚したらしい。
しかし小さい時から家どおしで決められた相手がいたということ聞いて、今の時代にはかなり珍しい古風な真田家の風習に皆も納得した。
そう、中学3年の時に俺がスタンドに見たあの少女だったのだ。
そんな真田は大学卒業後警視庁に入りエリートコースを着々と進んでいる。
全く真田らしい。
そして真田から婚約報告のメールが届き、結婚式で俺にスピーチが出来ないか打診して来たのだ。
メールの“婚約”という2文字を見て俺は血の気が引いていくのが自分でも分かった。
目の前が真っ白になり、動機が早くなる。
座っているのさえ辛くて、俺はパソコンデスクから離れてベッドに横になった。
体が重くて全身が気だるい。
吐き気がする。
その時俺は気が付いた。
俺はまだ真田のことが好きだったのだ。
真田のことはもう大丈夫だと、これからは普通の友人としてやっていけると思っていたのに・・・
時間が解決してくれたと思っていたのは単なる都合のいい思い込みで、俺は真田への想いを無理矢理忘れるように心の奥底に封印していたのかもしれない。
そして真田の結婚が俺の封印を解いてしまった。
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