| 〜 ten years after 〜 10年後の日常
 
 † 友達のままで †
 
 
 
 
 妙にすっきりとした朝だった。
 十分休養が取れたという感じで気持ちよく上半身を起こしてはじめて佐伯のマンションに泊まった事を思い出した。
 「ぐえっ・・・」
 ベッドから降りようとしたらベッドの下にあった物体を踏みつけてしまった。
 否、物体じゃなくてベッドの下で寝ていた佐伯を僕が踏みつけてしまったのだ。
 「佐伯、居たんだ」
 「ここは俺ん家だ!居てあたり前だろう。それに起きるなら足元よく見ろよ」
 佐伯は踏みつけられたわき腹を押さえながら起き上がった。
 
 「君には色々と迷惑かけたね、すまなかった。これに懲りて僕も男遊びを控えるよ。潮也君とはもう二度と会うつもりないから」
 「不二・・・」
 「朝霧君と関わっているから君の方がこれから大変だね。なんだか僕の尻拭いさせちゃったみたい。ホントゴメン」
 「・・・いや俺はこれくらい別に構わないさ。それより不二、お前の方こそ大丈夫か?何かあったら俺でよけりゃ話くらいは聞いてやるからいつでも来いよ」
 「ありがとう佐伯」
 気持ち悪いくらい佐伯が優しい。いや佐伯は元々優しい奴なのだ、だから千葉に居る時は地元の仲間達の間では人望も高く皆から信頼されていた。
 そして大学で突然青学に入ってもその人当たりのよさで僕らエスカレーター組ともすんなり馴染んでテニス部でも大石が抜けた穴を見事に埋めてくれて手塚のサポートをして副部長職を見事にこなしたのだ。
 僕らはすっかり馴れ合いになってるから毒舌ばかり言いまくっていたんだ。
 
 
 
 
 
 
 自宅に帰ると英二はTVゲームに熱中していた。
 僕が勝手に外泊した事を詫びると英二はTV画面を見たまま僕の方は見ずに
 「俺だって昨日は飲み会だったしお互い様じゃん。それに佐伯のところだから逆に安心したよ」
 と言った。
 佐伯のところだから安心・・・か。
 
 
 
 
 自室に入ってお気に入りのヴォサ・ノヴァのCDを聴きながらベッドに仰向けになる。
 ぼんやりと白い天井を眺める。
 自分でも気付いていなかったけどいつの間にかここが僕が本来居るべき場所であり、一番心地よい場所になっていた。
 『いっそ菊丸に告ってしまえばどうだ?』
 佐伯の台詞が脳内に響く。
 そんなつもりは毛頭もない。
 この空間が僕は好きだ。
 今こうやっているのが一番心地よい。
 だから友達のままでいる。
 
 
 
 
 
 
 
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