〜 ten years after 〜 10年後の日常
† 再会 side‐E †
越前リョーマはランニングマシーンの電源を切りタオルで程よくかかれた汗を拭いながら窓の外の雨雲を眺めた。
リョーマが今いる場所はとあるスポーツメーカーのトレーニングルーム。
この春に青春学園大学を卒業したリョーマは声を掛けられていた幾つかの企業の中から今の企業に入り、プロプレイヤーとしての道を着々と進んでいた。
声を掛けてきた企業の中には手塚が所属している企業もあった。
しかしリョーマはあえてそこを1番に断った。
手塚を超えたいから―――――。
中等部1年の時からずっと近くで見てきた手塚にリョーマは他の先輩とは違う感情を抱いてきた。
父親以外に初めて負かされた人。
そして父親以外に初めて追いつき追い越したいと思った人。
だからあえて近くではなく別の企業に所属して勝負を挑みたいと思った。
それがリョーマの決意だった。
「やあ越前君、外は嫌な天気だね」
会社の上役がやってきた。人の良さそうな紳士で他人と必要以上に接しないリョーマの事を思ってか必要最小限の用件しか言わず、かと言って冷たい人でもなく言うべきところではリョーマに注意もするし飲みに連れて行くことだってある。リョーマがこの企業を選んだのもこの上役がリョーマをスカウトに来た時に「この人なら」と思ってのことだった。
「田崎課長、何か用ですか?」
「新しいトレーナーを紹介するよ。いずれ越前君専属になるだろう」
そして田崎の後ろから長身の男が現れた。
「やあ、久しぶり」
「乾、先輩・・・・・・」
* * * * * * * * * *
「あの・・・先輩・・・・・・」
「ここでは先輩後輩の間柄じゃないだろ」
「じゃあ乾さん」
「何だい」
「俺、またあの変な汁を飲まされる日々を送らないといけないんでしょうか?」
「それは君次第だね」
リョーマはがっくりと項垂れた。
乾は高等部卒業後別の大学に進学した。乾が大学でスポーツ科学を専攻し、その後大学院に進んだというのをかつて乾と同級生だった先輩から聞いたことがある。
「俺もこの春マスターコース(修士過程)を終えて越前と同じ社会人1年生の身分だ。あんまり最初から無茶なことはしないよ」
「頼みますから無茶しないで下さい」
「はははは。それに俺は君の目標の手助けをしたいからね」
「俺の目標!?」
「そう、『手塚を倒すこと』だよ。俺がどんなに足掻いても出来なかった目標。しかし越前なら出来る」
「それってアンタの出来なかった目標を俺にやらせている訳。まるで出来の悪い親が自分が出来なかったことを子供に押し付けているのと一緒じゃん」
「そう取るのなら取ればいい。ただ俺は君のように表舞台ではなく縁の下で支える道を選んだというだけなんだがな。俺は別に越前を思い通りにしようなんては考えていない。トレーナーとして常に越前がベストな状態を保てるように越前に最適なやり方で一緒に上を目指したいと思っているだけだ」
「ふーん、面白いこと言うじゃん」
「じゃあ、今夜は新たな目標に向っての景気付けに飲みに行こうか?」
「・・・・・・・・・飲むのは野菜汁なんかじゃないですよね」
「あたり前だ。生ビールの旨い店がある。生ビールは適度に飲むと麦芽の成分が体内血流の活性化の手助けをする。ただし飲む前には枝豆を胃に入れておく事。アルコールが胃に負担がかからなくなり・・・・・・」
「頼みますから静かに飲ませて下さい」
そして二人の奇妙な二人三脚の社会人生活が始まった。
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