〜 ten years after 〜 10年後の日常
† 再会 †
日曜日の朝、窓の外を見れば雲一つない晴天。
こんな日は洗濯日和だと思い溜まっていた洗濯物を洗濯機に詰め込む。適当に洗剤を放り込みスイッチを押すと機械音が流れ出す。僕は機械音をBGMに中途半端に荷作りされた部屋の中を眺めた。
R・R・R・R・R・R・R・R・R・・・
「はい・・・」
「ああ不二さん、居たんだ。良かった」
「大家さん、どうかしましたか?」
「アンタの部屋なんだけどね。アンタの後の入居希望者が今不動産屋に来ていて部屋を見たいってんの。今から行ってもいいかしら?」
「別に構いませんけど」
「じゃあ今から連れて来るわね」
15分後、大家と不動産屋が一人の男を連れてきた。
「バルコニーは南向きで日当たりも良く・・・・・・」
不動産屋の営業台詞に一生懸命耳を傾けている男。
僕が立っている位置からは後ろ向きなので良く判らないが多分年齢は僕とそんなに変わらないだろう。
一通り部屋の説明を聞いた男は部屋中をきょろきょろと見回した。
ジーンズにカステルバジャックのパーカーを来てラフな格好だが落ち着いても見える服装につい目が行ってしまう。しかし服装とは裏腹に顔は童顔で・・・・・・えっ
「英二?」
「ふ、不二、不二じゃん!」
* * * * * * * * * *
「日本に居たんだ」
「行ったり来たりの生活だから日本に居る時もあるってば」
僕はミルクティーの入ったカップを英二に渡した。
「しかし表札を見た時に『もしや』と思ったけどまさか本当に不二が住んでるとは思わなかった。不二にしては簡素過ぎる部屋じゃない」
「寝るだけの部屋だからね」
「それで生活観が感じられないんだ」
英二は青学の大学部経済学部卒業後、都内の信用金庫に入社して営業職に就いている。僕はと言えば大学部商学部卒業後、商社に就職し入れられたチームが日本とヨーロッパを行ったり来たりする仕事だったので就職してからは殆ど学生時代の中間達と会う機会がなくなってしまった。
「で、英二は何で部屋探ししてるの?たしか上のお兄さんと2人暮らししてなかったっけ?」
「あー、兄ちゃん結婚するんだ。それで俺は単身用の部屋探してるんだ。俺が部屋見つけたら兄ちゃんは新居に荷物運んで今住んでいるマンションを引き払う予定なんだ」
「そうなんだ。じゃあこれから本当に"一人暮し"になるんだね」
「うん、それより不二は何処に引越すの?」
「僕は実家に戻るんだよ」
「何で?」
「先月異動で新しく出来たプロジェクトチームに配属されたんだ。そこの仕事が殆どタイに行きっぱなしで下手すると2ヶ月くらい日本を離れることになる時もあるらしいから、そんな時やっぱり冷蔵庫の中身とかサボテンの水やりとか気になるし。居ないと気付かれて空き巣に入られるのも嫌だし。だから実家に戻ることにしたんだ」
「不二の勤め先ってたしか○○通りじゃなかったっけ?」
「そうだよ」
「げっ、不二ん家から遠いじゃん!」
「入社1年目は家から通勤してたよ。それに今度はあんまり日本に居なくなるから別に遠いとか関係なさそうなんだけどな」
「ところでさあ・・・俺の顔、何か付いてる?」
「何で?」
「何かさっきからずっとジロジロ見られている気がするから・・・・・・」
「ああ何だ、似合わない服着てるな〜って思って」
「ハッキリ言うなあ・・・不二ってば学生時代と変わってないや。やっぱ似合わないか、これ兄ちゃんの服なんだ。俺の服みんな洗濯しちゃってさあ・・・」
「あっ!」
「何?」
「洗濯機忘れてた・・・・・・」
僕は洗濯機を置いている洗面所へ向った。英二も持っていたティーカップをテーブルに置いて後ろから付いて来た。
「駄目じゃん不二」
洗濯籠に脱水済みの洗濯物を放り込んでいる僕の後ろから英二が覗き込むようにして言った。
「ワイシャツの袖や首ぐりの汚れが取れてないじゃん、専用の液体洗剤をかけてから洗濯機へ入れなかったの?」
「・・・・・・そんな洗剤があったんだ」
「不二・・・今まで一人でどんな生活してたんだよ。」
「洗濯は面倒だから下着以外は全部クリーニングに出してた。今日は天気がいいから自分で洗濯してみようって気分になったからしてみたんだよ」
「不二・・・」
英二は僕の肩にポンと手を置いた。人懐っこい英二の特徴、さすがに成人して中学の時みたく「ひゃっほうっ♪」と抱きついてきたりしなくなったけどやっぱり人間の性格って大幅に変われるもんじゃないんだなと思ってしまう。
「何だい?」
「悪いことは言わない。お前実家に帰った方がいいと思う」
「だからそうしているんじゃない。この部屋は英二が住めばいいじゃないの」
「んー、そうだけどさ・・・・・・」
英二はぽりぽりと頭を掻きながら窓の外の青空を見上げた。
「あのさ・・・・・・」
急に英二は何か言い辛そうに小さな声で話し出した。
「不二さえ良ければ・・・・・・の話だけど・・・」
「何?」
「俺と一緒に住まない?兄ちゃんの出て行った後の部屋でよければの話だけど」
「何処に住んでたっけ?」
「S町。駅から10分程歩くし築15年のマンションだけど2LDKでそこそこ広いよ」
「英二、それって僕へのプロポーズ?」
「何で俺が不二にプロポーズだよっ!!」
「あははは、だって英二は家事全般得意できっといいお嫁サンになれると思ったから」
「何で俺が不二の嫁サンだよっ!家事は分担!でも不二が海外出張の間はちゃんと俺がハウスキーパーやるからさ」
「サボテンの面倒も見てくれる?」
「もちろん」
そして僕らの共同生活が始まった。
続き>>
パラレル小説部屋へ
お聴きの曲はヤマハ(株)から提供されたものです。 Copyright(C) YAMAHA
CORPORATION. All rights reserved.
|