| 〜 ten years after 〜 10年後の日常
 
 † SWEAT&TEARS †
 
 
 
 
 薄暗く誇りっぽい部屋の天井を見上げてリョーマは自分が何故このようなところで仰向けになっているのかぼんやりとした頭で考える。小さな窓からわずかに光が差し込み目が慣れてくると周囲に清掃用具やら丸められたネットやボールの入った籠が置かれてあるので倉庫らしいと判断した。
 でも何故自分が倉庫で仰向けに寝ていなければいけないのだろう。
 
 ここは横浜で菓子メーカー主催のフューチャーズの大会会場。
 リョーマは順調に勝ち進み遂に後は決勝を残すのみとなった。
 決勝での対戦相手は手塚国光。
 いよいよ手塚と対戦できるのだ。2年前のあの約束をようやく果たせる時が来る。
 
 決勝まで時間があるのでチームコーチの大月とトレーナーの乾と軽く食事をしようということになって食事の前に顔を洗ってくると二人をロビーに待たせてリョーマは洗面所へ走った。
 そこからの記憶が無い。
 
 
 
 
 「よう、目覚めたか」
 頭上から落ちてくる見知らぬ男の声。
 「なっ・・・!!!」
 リョーマは体を起こそうとしたが力が入らずに再び床に倒れこんだ。
 「少々、痺れる作用の薬も含まれているんでね。無駄な抵抗をしない方がいいぜ」
 先程の男とは反対側から別の男の声が降ってきた。
 そうだ、洗面所へ向かう途中で後ろから何者かに薬を含ませたタオルをかがされて急に力が入らなくなって・・・・・・
 リョーマの脳裏につい数分前の記憶が甦る。
 「どういうつもり」
 リョーマは仰向けになったまま二人の男を睨みつけた。
 「出る杭は早い事打ってしまうに限るってことさ」
 「何っ・・・」
 そういや乾から聞いたことがある。この業界には新人の注目選手をターゲットにして芽を摘んでしまおうとする輩がいるということを。自分の所属企業の先輩プレイヤー達も今までにラケットのガットを切られたりウエアを隠されたりと散々な目に遭った。
 だから今回の大会では業界誌の取材がリョーマ目当てで多く来ていることもあってチームコーチの大月がリョーマの持ち物は常に乾に預けろと指示を出したのだ。
 あれこれ対策をしたのにまさかリョーマ自身がこのような危険に晒されるとは迂闊だった。
 大月と乾には直ぐに戻ると言ってある。自分がなかなか戻ってこなかったら乾が探しに来てくれるだろう。それまでなんとか無傷でいられるように時間を稼がなければならない。
 
 「越前選手よ、お前の試合見せてもらったぜ」
 「・・・それはどうも」
 「試合中のお前の顔ってホントいい顔しているよな」
 「・・・ありがとうございます」
 「ぎゃははははっ!何が『ありがとうございます』だよ!そーゆー意味で言ってんじゃねーっての」
 一人の男がリョーマに跨ってリョーマの顎を掴んだ。
 リョーマは咄嗟に顔を背けたがもの凄い力で顎を掴まれて再び男の正面を向かされた。
 「汗まみれになって息があがってハアハア言っているお前の顔って見ていて凄くそそられるだよ。お前は自分では解っていないみたいだがお前の顔って凄く男を誘う顔してんだよ。特に試合中はな」
 「俺はお前の試合のビデオや載っているテニス雑誌をおかずにして抜いているぜ」
 もう一人の男がいつの間にかリョーマの足元に跪いてリョーマの膝から足首にかけてそおっとなで上げた。
 「さっ!触るな!」
 リョーマを見下ろす二人の男は既に欲が表情に表れていてリョーマは背中に冷や汗が吹き出すのを感じた。
 本能的に身の危険を感じるが躰の自由が効かない今となればせめて大声で叫べば外に聞こえるかも知れない。リョーマは大声を出すべく口を開けた。
 「うぐっ・・・」
 「おい、大声出して助けを求めようとしたって無駄だぜ」
 「う・・・」
 リョーマの口にタオルがねじ込まれて大声どころか呼吸すらままならなくされてしまう。
 “こいつら手馴れている”そう思ったときには既に遅く、リョーマのウエアはビリビリに引き裂かれていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 わき腹から胸にかけて摩り上げる男の巧みな指使いはリョーマの性感帯を確実に擽るもので初対面の何も知らない、それも無理矢理やられている男にここまで感じてしまう自分が嫌になりリョーマは大きく頭を振った。
 「イイ躰にイイ感度してるね、越前選手よ。ひょっとして男にヤラれるのって初めてじゃないんだ」
 ハッとしてリョーマは自分の上に跨っている男を睨んだ。
 「・・・図星だな。おもしれえな、テニス業界で今一番の注目されている期待の新人越前リョーマに男色のケがあるとはね」
 「ほう、確かにおもしれえぜ、こいつ確か可愛い彼女がいなかったっけ?かつての恩師の孫の女の子。越前選手はバイセクシャルだということだったんだな」
 自分の躰を弄びながら好き勝手言う男たちにリョーマの目尻にうっすらと涙が浮かび上がる。男に抱かれたのはただ一度だけ。しかもずっと憧れてずっと世間に言えない想いを曝け出してようやく抱いてもらったのだ。ぎこちないSEXだったけどリョーマにとって一生忘れる事のない大切な思い出を軽々しく言ってほしくなかった。
 それに竜崎桜乃はリョーマにとって大切な友人。中高とよく同じクラスにもなったし恩師の竜崎スミレの孫ということもあって元々友好関係があった上に大学で同じ専攻だったのでたまに食事に行ったり飲みに行ったりするが二人の間には男女の関係はなかった。否、高等部卒業の祭にリョーマは桜乃に告白されたのだがリョーマはテニスに専念したいから誰とも付き合わないと断り以後“大切な友人”として普通に仲良くしている。
 男と女が仲良くしているとどうしても世間には恋人のように映ってしまいがちなのは仕方がないことだがこんな形で巻き込んでほしくなかった。
 
 
 
 
 
 
 「くっ・・・うぐっ・・・」
 胸の突起を執拗に舌と歯でいたぶられて背筋を走る快感にくぐもった声が出て神経の全てが下腹部に集中して熱くなっていくのが嫌でもわかる。
 「おい、これ見ろよ。ココ、まだ触ってもないのにこんなにビンビンに勃って先っぽからいやらしい汁垂らしてびくびくしてるぜ」
 胸だけの刺激ですっかり勃起したリョーマのペニスの先端を男が指で弾いた。
 「お、ぷるんぷるんして可愛いの。これ写真撮っとこう」
 もう一人の男が携帯電話を取り出してリョーマに電話機本体についてあるレンズを向けた。
 リョーマは羞恥で顔を背ける。
 色々な角度から撮影されリョーマは身じろいだが薬の所為か躰が思う様に動かない。
 「おっと逃げようったって無理だぜ。躰が痺れて動きが鈍っている上にお前さんのウエアはもうないんだぜ。その格好で外に飛び出す気か?」
 リョーマは悔しくて咥えさされているタオルを噛み締めた。ウエアは上下とも男たちの手によって切り裂かれていて原型を留めていない。
 「いい写真が撮れたぜ。切り裂かれた服を纏わらせて汗まみれでチンポおっ勃てて横たわる越前リョーマって高く売れそうだな」
 「こいつの喘ぎ声なんか録音したらもっと売れるんじゃねえのか」
 「そうだな、この携帯って録音機能もついててなかなか便利だぜ」
 言うや否やリョーマの口からタオルが引き抜かれた。ようやく呼吸が楽になると思う前に男の骨ばったごつい手がリョーマのペニスを握りこんだ。
 「あ、あああーーーーーーっ!!!!」
 「お、やっぱイイ声してるじゃん。ソソるねえ」
 「シッ黙ってろ!お前の声まで録れてしまう」
 「おっとすまねえ」
 リョーマはうっすらと目を開ける。涙でぼやけた視界の中で男がリョーマの目の前で携帯電話をかざしているのが見える。“そんな手には乗るもんか”と歯を食いしばってなんとか声を出さないように抵抗してみるがもう一人の男によって与えられる快感にリョーマの理性がだんだんと削られていった。
 「・・・・・・ああぁぁぁぁ・・・・っん・・・・んあっ・・・」
 男の手がリョーマの裏筋からゆっくりと先端にかけて撫で上げて先端の割れ目に爪を立てた。
 「ひゃんっっ・・・・・・や、だ・・・や・・・めて・・・」
 
 「う・・・ぁ・・・はぁっ」
 
 「ああああああっっ・・・・・・ああん、んあっ・・・いやぁ、あっ・・・」
 
 「あああぁん・・・んっ・・・あんっ!」
 
 「い・・・や・・・ぁぁぁ・・・・・・はぁっ・・・あんっ・・・・・・」
 
 静かな部屋にただリョーマの嬌声だけが響き渡る。脳天まで駆け上がる快楽の波の中でふと我に返った。
 「あ・・・試合が・・・あんっ・・・・・・け・・・けっしょ・・・て、づか・・・」
 「決勝だぁ?そんなもんには出れねーよ!お前はここで俺達の相手をしてりゃいいんだ」
 「そういや決勝であたる○○金属の手塚国光ってお前の学生時代の先輩だそうだな。あいつも綺麗な顔してんじゃねーか。二人まとめてここに連れ込むべきだったぜ」
 「おいおい、俺はあんなごつい男は御免だね。いくら顔が綺麗でもな。あいつはあいつで別の手で打ちのめしてやればいいじゃねえか」
 男たちの容赦ない言葉にリョーマはぼんやりとした頭で考える。手塚が危ないと。
 
 
 「そろそろ突っ込んでやったらどうだ」
 「そうだな」
 リョーマは再びタオルを咥えさせられて躰を反転させられて腰を抱え上げられ尻だけ突き出す形になる。
 「///////・・・・・!!!!」
 突然の恥ずかしい体位に言葉を発しようとしたがタオルを咥えさせられていてはままならない。
 
 「んんんんんーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
 
 何の前触れもなく男の誇張したものが突き入れられた。
 受け入れる準備もされていないソコに無理矢理挿れられミシミシと鈍い音が聞こえる。
 「んんーっっっ!!!んんーーーーっ!」
 激痛のあまりなんとか逃れようと痺れる腕を床に這わせて腰をくねらせる。
 「おっと、今更逃げ出そうなんて無駄だぜ」
 男の手ががっちりとリョーマの腰を掴んで無理矢理律動を開始した。
 男が突き入れるたびにメリメリと鈍い音が背中からリョーマの脳内に響き結合部分がだんだんと熱くなっていくのが自分でも分かる。
 『痛いーーーもうやめて』
 リョーマの声にならない声が咥えさせられているタオルによって阻まれる。
 『イヤ・・・』
 痛みと羞恥と嫌悪でリョーマの目から涙があふれる。
 涙は頬を伝わって下に落ちてゆき床に染みを作りはじめる。
 「おいおい、こいつ泣いているぜ」
 「泣くほどイイのかよ」
 リョーマは否定するように必死で頭を振った。
 突き上げられるたびに内臓をえぐられる感じがして何とも言えない不快感と吐き気がこみ上げる。
 『いっその事意識を失くしてしまえば楽になれるのに・・・』
 確か昔の女性は男に陵辱された時に舌を噛み切ったという話をぼんやりと思い出す。
 しかし今のリョーマの状態は咥えさせられているタオルの所為でそれすらも出来ないまさに四面楚歌だった。
 それならばこの地獄のような時間が早く終わってくれるように抵抗せずにされるがままにしてみようと考える。
 床に額をつけて黙って男を受け入れる体制をとると男が突き入れている部分から熱い液体が太ももを伝って流れ落ちる感触がして同時にツンと錆びたような鉄の匂いがした。
 「やっぱり慣らさずに挿れちまったから裂けてしまったな」
 「でもイイ眺めだぜ」
 リョーマの尻から太ももを伝わる血の筋が男達の欲をさらに掻き立てたらしい。
 皮肉な事に裂けて出た血が活性油の代わりになって今まで以上にスムーズに抜き入れできるようになりリョーマにとっても先程までの挿入時の激痛がなくなっていった。
 「お前、早くイッて俺と交代しろよ」
 「ああ待ってろよ、もうすぐイきそうだからな。なあ越前選手よ、中出しと顔射とどっちがいい?」
 「おいおいこいつタオルで口塞がれていんのに答えられねーのに何言ってんだよ」
 「ぎゃははは、そうだったな。くっ・・・こいつ結構締りがいいぜ。時間かけてたっぷりと可愛がってやりたかったけどもうもたねえ・・・」
 男はリョーマの中に精を放った。
 腹の最奥に感じる熱いものとようやく男のモノがリョーマの中から抜けていくのを感じながらリョーマは床に崩れ落ちた。
 
 
 
 
 
 
 「おい、まだ終わってねーぜ」
 息をつく間も無くもう一人の男がリョーマに突き入れた。一人目の男の所為で慣らされたこともあってそこはすんなりと男を受け入れた。
 「おいおいこっちの後始末もしてもらおうじゃないか」
 ふいに髪の毛を掴まれて顔を上げさされると目の前には血にまみれて真っ赤になった男のペニスがあった。
 「こいつをきれいにしてもらわねーとな」
 言うや否や男はリョーマの口からタオルを引き抜いて代わりに自分の萎んだ血と精液にまみれたペニスを突っ込んできた。
 口内に広がる錆びたような鉄の味と独特の青味のある苦い味にリョーマは咽かえった。
 「ケホッ・・・ケホッ・・・」
 「おいおいちゃんと舐めて綺麗にしてくれよ」
 リョーマは背後で律動を開始した男のモノを感じながら目の前のモノに舌を這わせる。
 早くこの男たちが満足してここから立ち去ってほしかったから。
 自分の持ち物が無くなったり故意に怪我をさせられるよりも辱められたこの仕打ちは許されないことだが今のリョーマは抵抗するよりも早くここから去ってくれる事を望んだ。
 「うくっ・・・こいつのフェラ凄くいいぜ。やっぱり初めてじゃないんだな」
 リョーマの頭上から降ってくる下賎な笑い声。それに構わずにリョーマは早く男がイクように先端をしゃぶり続けた。
 2年前のあの時もリョーマは手塚に口で施しをした。
 純粋に手塚に気持ちよくなって欲しかったから。
 好きな人だから気持ちよくなってほしくて無我夢中で手塚自身に歯を軽く立てたり強弱付けて吸い上げたりした。その甲斐あって柔らかかった手塚のモノはだんだん固くなって質量を増していった。
 「手塚さん・・・すごく大きくなった」
 リョーマがそう言うと手塚は眼鏡を外した切れ長の綺麗な裸眼で恥ずかしいのか一瞬ムッとした怪訝な表情でリョーマを睨んだ。
 近視の人は瞳孔が開いている所為で目が綺麗だというがまさに至近距離で見た手塚の裸眼は綺麗なものだった。
 中学からずっと好きで憧れ以上の後ろめたい想いを抱き続けた自分の我侭に付き合って肌を重ねてくれた手塚。そんな手塚にはただSEXをしているというだけでなく本当に気持ちよくなってほしくて抱かれながらも身体よりも心の方が先行していた。
 だが今は違う。
 見知らぬ男たちと身体だけの行為。
 しかも強姦。
 後ろから攻めている男が先程からリョーマ自身を掴んで扱いているのでリョーマ自身もはちきれんばかりに質量を増していた。
 「あ・・・あうっ・・・」
 「おいおい、こいつホントいい顔していやがるぜ。こいつがイク瞬間も写真撮ってやろうぜ」
 恥ずかしい言葉攻めにリョーマが顔を上げる。
 途端口に入っていた男のペニスが引き抜かれて・・・
 リョーマの顔面で射精した。
 「あっ・・・」
 リョーマは額から滴り落ちる白い液体の熱さに暫し何が起こったか分からずに放心する。
 しかしすぐさま後ろをいたぶっていた男に躰を抱え上げられて座位の体制をとらされた。
 「もっと足広げてそいつの勃っているモノと繋がっている部分を見せるんだよ」
 「こうか?」
 リョーマに挿入している男がリョーマの太ももに下から手を入れて足を開かせる。リョーマは羞恥のあまり顔を背けた。
 「そうそう、いいねえ元気だね越前選手のココ」
 先程リョーマに顔射した男が携帯電話のカメラでリョーマと男が繋がっている部分やリョーマの勃起した自身を撮影し始めた。
 「おい、準備はいいぜ」
 男がレンズを向けたまま数歩離れた。
 途端リョーマの後ろの男がリョーマ自身の先端を爪で引っかいた。
 「やあああああぁぁぁぁん・・・」
 どぴゅっとリョーマ自身の先端から精液が勢い良く飛び出して胸を濡らす。
 「ハア・・・ハア・・・」
 「そうそう、その顔だよ。試合のときも同じような息のあげ方だよ。やっぱイク時も同じだったな」
 そう言って目の前の男は携帯電話のディスプレイをリョーマに見せつけた。
 そこには精液にまみれた顔で後孔に男のペニスを咥えたまま射精をする瞬間のリョーマの動画が映っていた。
 「・・・ひどい・・・もうやめて・・・・・・」
 リョーマの目から大量の涙が溢れ出した。
 「俺がまだイッてねーんだよ。やめられるかよ」
 後ろの男がリョーマを激しく突き上げた。
 「ひゃんっ・・・」
 座位の所為か男のモノが最奥のリョーマの感じるところに当たってリョーマは自分でも信じられない声を出した。
 「今ものすげーイイ声だしたよな。ココがいいのか」
 「あぁぁっ・・・い、いやっ・・・あんっやめっ・・・ああぁぁぁ」
 下から突き上げられる激しい快楽の中でリョーマは悔し涙を流した。
 手塚の時は初めてだったし痛さしかなかった。それでも大好きな手塚と繋がったのだからそれでもよかった。なのに今見知らぬ男に挿れられて後ろだけの快楽ポイントを見つけられてしまいあられもない姿を晒している。
 「余程気持ちいいみたいだな。こいつまた勃ててやがるぜ」
 リョーマの視界の隅に映る勃起した自分自身。先程精を放ったばっかりだというのに再び頭を持ち上げて先端から体液をにじみ出させている。
 「い嫌だっ・・・もうやめてっ!」
 リョーマが叫んだのと同時だった。
 
 「「お前ら何をしている!」」
 倉庫の扉が開かれて数人の男たちがバタバタと入り込んでくるのが見えた。大月コーチを先頭に乾に続いて見知らぬ男、そして最後に入ってきたのが他ならぬ手塚だった。
 「て、手塚先輩危ないっ!来ちゃだめだっ!」
 リョーマは渾身の力を振り絞って叫んだ。こんな姿を一番見られたくない人に見られたというよりも手塚にも危害を加えると計画を立てている男たちに自ら飛び込んでほしくなかったのだ。
 「越前、大丈夫か?」
 大月が男達を払いのけ素早く自分の上着をリョーマに被せた。
 「ええ・・・」
 安堵で一気に力が抜けてリョーマは大月の腕の中で意識が遠のいていった。
 薄れゆく意識の中で見たものは男を背負い投げする手塚の姿だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 * * * * * * * * * *
 
 
 リョーマが次に目を覚ましたのは病院だった。
 いつもリョーマがバイタルチェックをしている勤め先と同系列の病院。
 「助けが遅れてしまって申し訳ない」
 ずっと付いていたのだろう。ベッドの傍に乾が座っていた。
 少しして落ち着いてからリョーマは乾から事の顛末を聞いた。
 あの男たちはリョーマが準決勝の際に完膚なきまでに叩きのめした選手の所属企業の関係者から金を貰ってリョーマを陵辱したということ。
 男たちの携帯電話を取り上げた乾がすべてのデータを抜き取った事。
 リョーマが一人で歩いているのを偶然手塚のチームマネージャーが目撃して声をかけようかどうしようか迷いながらリョーマの後を追っていたらリョーマが二人組みの男に薬品をかがされて傍にあった倉庫に連れ込まれたのを目撃したこと。裏に回って窓から中をそっと伺ったらリョーマが強姦されていたのであわてて手塚に報告しようとしたが手塚がなかなか見つからなかったこと。
 しばらくしてやっとこさ見つけて手塚が乾の携帯に連絡を入れて合流してあの倉庫に4人で飛び込んだということ。
 手塚を見た男の一人が手塚に襲いかかったが逆に柔道の段有者である手塚に投げ飛ばされてしまったこと。
 そして騒ぎを大きくしたくない大月の判断でリョーマは体調不良の為に棄権と大会事務局に届けられて大月の車で病院に運ばれたのだ。その間に会社にいた課長の田崎に連絡をとって田崎から病院のドクターに事前に連絡を入れて細かい根回しが行われたのだということ。
 結局リョーマの棄権によって手塚が優勝したということ。手塚はリョーマと勝負をしていないので辞退しようとしたが周囲に不振がられるという乾の言葉によって納得したということ。
 
 
 
 「そいうや手塚先輩ってお祖父さんが柔道の師範をやっていましたよね。それで手塚先輩も柔道の段をもっているんだ・・・」
 「あの男、手塚に背負い投げをされて腰を強打して動けなくなったんだよ」
 「あいつら手塚先輩にも危害を加えるって言ってたから・・・よかった」
 
 「ところであの男たちの携帯電話に入っていたデータを抜き取ったのだが実はここにある」
 そう言って乾はSDカードを差し出した。
 リョーマはじっとSDカードを見つめた。この中に自分のあられもない姿の写真や映像や声のデータが入っているのだ。
 「これ・・・見たんですか?」
 「・・・ああ。俺は越前に関することはできるだけ知っておかないといけない。今後のトレーニング方法やメンタル面の事等・・・・・・・・・」
 乾が途中で言葉を詰まらせて俯いた。
 「乾さん・・・?」
 「・・・越前を大変な目に遭わせてしまった。あの時俺も一緒に行って越前を一人にさえしなければこんなことにならなかったのに・・・本当にすまない・・・・・・」
 乾は俯いたままなかなか顔を上げようとしなかった。それはまるで泣いているようにも見えた。
 「乾さん・・・乾さんが悪いわけじゃないんです。俺の不注意なんです。だからそんなに自分を責めないで下さい。で、そのSDカードをどうするんですか?」
 暫らくの沈黙の後、乾が口を開いた。
 「このような事件だから実はまだ警察には届けていないんだ。越前が構わないのなら警察に被害届けを出すし嫌なら内々でカタをつけるがどうする?幸いここはうちの息の掛かった病院だから根回しをちゃんと田崎課長がやってくれているから外部に情報が漏れる心配は無い。このSDカードは警察に被害届けを出す時の証拠品にもなるし内々でカタをつけるなら逆にこれを使って○○物産の関係者に犯罪者がいると○○物産をおとなしくさせるなりゆするなりの方法もある」
 リョーマは黙って目を瞑った。
 準決勝で対戦した○○物産所属の御木本選手を思い出す。
 人当たりの良さそうな柔らかい物腰の青年でリョーマに惨敗しても試合終了後に握手をして「また戦いたい」とリョーマに言ってきた。
 あの選手が人を雇って自分を陵辱するだろうか。とても信じられなかった。
 「あの二人の男って○○物産の関係者から金を貰ったって言っていましたよね」
 「ああ」
 「御木本選手が直接あいつらを雇ったわけじゃないでしょう?」
 「おそらく御木本選手とはなんら関係はないな。○○物産の関係者だと言っていたからな」
 「俺が警察に被害届けを出したら御木本選手は選手生命を絶たれてしまうんじゃないスか?あの人は何も関係ないのに・・・あの人の知らないところで会社が勝手にやったことなのに・・・」
 リョーマは悔しくて唇を噛んだ。自分を陵辱した男たちは絶対に許せない。しかしあの男たちを法で裁くとなると世間にこの事件を公開することになるしテニス協会にも報告しなければならないだろう。そうなるときっと御木本選手は関係者として扱われ何らかの処罰を受けなければならないだろう。
 「そうだな実質は御木本選手は何ら関係はない。しかし○○物産に所属している以上は何らかの責任は取らされるだろう」
 「あの人いい人でした。初対面なのになんでだろ・・・・・・あ、菊丸先輩に似ているなあと思ったんです」
 「菊丸に?」
 「純粋でがむしゃらに突っ込んできて“負けて悔いなし”って感じだったんです。俺ももう一度戦いたいって思いました」
 「そうか・・・あの男たちは裁きたいが御木本選手にまでとばっちりがいくのは避けたい。難しいかもしれないな。でもできる限りのことはやってみよう。内々でなんとかできるよう大月コーチと田崎課長に報告してくる。越前、後は俺たちがなんとかするからお前はゆっくり休んで一刻も早く身体を回復させるんだ。しばらく戻ってこれないから具合が悪くなったら枕もとのブザーを押して看護士を呼ぶんだぞ」
 そう言って乾はリョーマの髪を優しく何度か撫でて病室を出て行った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 * * * * * * * * * *
 
 
 乾が病室を出て行ってそんなに時間が経たないうちに誰かが入ってきた。
 リョーマは巡回の看護士だろうとそのまま目を瞑っていたのだが
 「・・・越前」
 枕元に立って呟いた声は手塚のものだった。
 「て、手塚先輩!」
 リョーマはあわてて起き上がり途端身体中に激痛が走る。
 「つ〜、い痛ぇ〜」
 「おい、無理するな寝ていろ」
 「い、いや大丈夫です」
 リョーマは激痛に耐えながらもベッド上で身体を起こした。
 「手塚先輩、ありがとうございました。マネージャーの方にもよろしく伝えて下さい」
 リョーマは手塚に頭を下げて礼を述べた。その瞳から自然を涙がわき上がる。
 「あ、あれ・・・」
 頬を伝う涙は止まる事を知らないかのように次から次へと溢れ零れ落ちた涙が次々と布団に花を咲かせていった。
 安堵感、いやあんな姿を手塚にみせてしまった羞恥、そして果たせなかった約束。何とも言えないやるせない気持ちは表現しようがなくて、乾の前では自分をしっかり保てて気丈にいられたのに手塚を前にすると今までの複雑な想いもあってそれが堰を切ったように溢れてくる。
 手塚はそんなリョーマを見下ろしそっとベッドの横に腰をかけると
 「もう大丈夫だ」
 とリョーマの頭を抱えて自分の懐に引き入れた。
 「手塚先輩・・・」
 リョーマは手塚の胸へ顔を押し当てて次から次へと溢れる涙を自然に任せた。
 手塚の腕がそっとリョーマの背中にまわされてやさしく自分を包み込んでくれる。
 こうやって自分を抱きしめてくれる手塚の真意はわからないが今だけはこうしていたい。
 リョーマはその心地よさにそっと目を瞑った。
 「越前、2年前のあの約束を破棄してもいいだろうか?」
 「な、何っ・・・」
 リョーマは手塚の腕の中で手塚を見上げた。
 そこには厳しい表情をした至近距離の手塚の顔。
 「何で・・・俺がこんな目にあって試合できなかったから?」
 「違うっ!」
 手塚はリョーマを抱きしめている腕に力を込めた。
 「いっ痛いっ!!」
 「すまない」と手塚は腕の力を緩めた。
 「俺だって試合直前にこんなことになってしまって悔しく思っている。だがあの約束に縛られて見舞いにも来れないのが俺には辛い。だから一度破棄してほしいんだ」
 「手塚さん・・・」
 手塚の腕の中で以前大石が話した手塚の過去を思い出す。手塚の祖父の死。
 そしてそこから学んだ事。
 見舞いに来たいから約束を破棄したいなど今までの手塚では絶対に言いそうにない台詞だ。
 そして破棄してまで見舞いに来たいと言ってくれた手塚に期待してしまいそうにさえなる。
 「分かりました。一度破棄しましょう。でも俺、まだまだ手塚先輩との直接対決を諦めたわけじゃありませんから」
 「待っているから。早く上がって来い」
 リョーマの手が手塚の背にまわり縋るように手塚を抱きしめる。
 その力の弱々しさに手塚はリョーマの状態が良くない事を察しリョーマをそっとベッドに横たえた。
 「手塚先輩・・・?」
 「もう休め、休んで早く回復させるんだ」
 「あ、もう暫らくこうさせて・・・」
 手塚の服を掴んで離さないリョーマに苦笑しながらも手塚はそっとその掴んでいる手を離させて代わりに自分の手を握らせた。
 「ほら、こうやって手を握っていてやるから安心して眠るんだ」
 「ありがとう・・・ございます・・・・・・」
 リョーマは掌に感じる手塚の温もりを感じながら静かに眼を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
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