| 〜 ten years after 〜 10年後の日常
 
 † Sunday Morning †
 
 
 
 
 英二との共同生活をはじめて1ヶ月半が経った。共同生活といっても英二はきっちりと土日祝日が休みのごく普通の生活をしているけど僕は週末に海外出張することが多く平日に振替休日を取る日々で、二人とも結構帰りが遅かったりで朝とか夜に一瞬顔を合わす程度だったりで本当に二人暮ししているのかと思うことさえある。
 
 けど今日、僕は英二と暮らし始めて初めて休みの日の日曜日を迎えることになった。
 
 特に予定はない。
 一日中英二とのんびりと過ごすのだろうか。
 そういや英二は何か用事でもあるのだろうか。
 昨晩は何も言っていなかった。
 ただ「二人揃って休みなんだから朝はゆっくりしよう」とだけ言った。
 
 ゆっくりと朝寝をしようと思っている時に限って早く目が覚めるものだ。
 時計を見ると5時半。
 朝日が昇りかけている。
 僕はベッドからゆっくりと起き上がって壁に掛けてあるスーツの胸ポケットから赤いマルボロのボックスとライターを取り出してバルコニーに出た。
 
 
 「ふう・・・・・・」
 口から紫煙を吐き出すと不思議と気分が落ち着くものだ。
 バルコニーに置いてある灰皿に灰を落とす。
 そういやここに来てから煙草の本数が減った気がする。
 英二が煙草を吸わないから。
 英二は僕に気を遣ってか何も言わないけど煙草の煙が苦手な様だ。
 だから僕も家の中では吸わない。
 これが僕の英二への礼儀。
 吸いすぎは体に良くないから良い傾向だと思う。
 
 
 一服するとますます目が冴えてきた。
 3階のバルコニーから眺める街の景色がだんだんと色付いてくる。
 そういや僕はこの町のことを殆ど知らない。
 僕は灰皿に煙草を押し付けて部屋に入ってカメラを取り出した。
 
 
 
 
 
 
 
 * * * * * * *
 
 
 日曜日の朝にしてはめずらしく早くに目が覚めてしまった。
 そういえば今日は不二も休みだと言っていた。
 特に予定はない。
 一日中不二とのんびりと過ごすのだろうか。
 そういや不二は何か用事でもあるのだろうか。
 昨晩は何も言っていなかった。
 だから「二人揃って休みなんだから朝はゆっくりしよう」と言った。
 時計を見たら6時半。
 とりあえずトイレにだけ行ってまた寝なおそう。
 俺はゆっくりと体を起こした。
 
 「あれ?」
 キッチンのテーブルの上に紙が置いてある。昨晩はなかったのに。
 近づいてみると紙に不二からのメモが書かれていた。
 
 『なんだか早くに目が覚めたので散歩に行ってきます』
 
 
 
 
 
 * * * * * * *
 
 
 腕時計を見る。まだ7時過ぎ。
 英二が寝てるかもしれないのでそっとドアを開けて家に入った。
 ドアを開けた瞬間香ばしいコーヒーの香りがした。
 
 「おかえり〜、不二」
 「英二、起きてたんだ」
 「なんだか早く目が覚めてさあ、でも起きたら不二いないんだもん」
 英二はコーヒーをドリップしながらトーストを焼いていた。
 「不二は玉子どうする?」
 「じゃあスクランブルエッグにしてもらおうか」
 「OKぇ〜」
 英二は器用に片手で玉子を割ってスクランブルエッグを作りはじめた。
 僕はキッチンのテーブルに座ってそんな英二の背中を眺めた。
 「フフッ・・・・・・」
 自然と笑みがこぼれてしまう。
 「何が可笑しいの?」
 「あはは、ごめんごめん。なんだかこうしているとまるで新婚さんみたいだなんて思っちゃってさ」
 英二はフライパンを持ったままゆっくりと振り返った。
 「だからなんで俺が不二の嫁さんなんだよ。お前そんなこと言うならさっさと結婚しちまえば?」
 「相手がいないよ」
 「・・・・・・うそ?」
 「ホントだよ」
 「合コンでもお見合いパーティーにでも行けば?不二ならすぐに相手が見つかるよ」
 「いや、女性は当分勘弁だね」
 「ふ〜ん」
 英二は白いお皿を食器棚から取り出してスクランブルエッグを盛り付けてくれた。
 「はい、できたよ。コーヒーも出来たみたいだから」
 「ああ」
 「マーマレードがきれてたんだけど昨日スーパーでブルーベリージャムが特売だったからそっちを買ってきたんだ。別にブルーベリーでもいいよね?」
 「ああ」
 検索好きな英二が別に何も突っ込んで聞いてこず目の前の朝食のセッティングをやってくれている。というか話題を変えたいか終わらせたいという感じだったな。珍しい。
 そういや大学時代は僕も英二に引っ張られて無理矢理合コンに何度か参加させられたことがあるけれど最近の英二はどうみても家と会社を往復しているだけのように見える。付き合っている人とかもいなさそうだ。
 「そういや英二は休日には何をしているんだい?」
 「別に、掃除に洗濯にレンタルで借りてきたビデオみたりだとか。あとはジムに行ったり」
 「そうか英二は駅前のスポーツクラブの会員だったね。泳いだりランニングしたりしてるんだ」
 「まあね。不二もやれば?体なまるよ」
 「僕は休みが一定してないしね。またしばらく海外に行ったままになるかもしれないし」
 「そっか・・・」
 「テニスはしてる?」
 「あ、俺言ってなかったっけ?会社のテニス部に入っているんだ」
 「テニス部があるんだ」
 「テニス部っていっても月に一度集まってお遊び程度でやる程度だよ。あちこちの支店の人らが集まるからなんつーかテニスをやるっていうより懇親会みたいなもんだよ」
 「じゃあ本気でやってないんだ」
 「当たり前だよ。支店長相手に菊丸ビームとかできないってば」
 「じゃあ支店長とかは英二がかつてテニスで全国に行ったとか知らないんだ」
 「言ってない、言ってない」
 「なんか勿体無いね」
 「テニス経験のある普通のお兄サンやってまーす」
 英二はおどけた様に言ってみせた。
 
 大人になればかつての栄光も努力も"就業"の前では表に出てくることはなくそれぞれの胸の内に"思い出"として残るのみになってしまう。
 でも僕は君と過ごしたあの努力の日々を忘れることはないだろう。
 
 僕はそんなことを考えながら英二が焼いてくれたスクランブルエッグを口に運んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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