〜 ten years after 〜 10年後の日常
† shocking †
目の前で何かが弾け一瞬頭が真っ白になる。
そして僕は荒い息を吐き出しながら少年の白い躰に覆い被さった。
密着するお互いの熱い躰は鼓動が早くどちらのものか判らない心臓の波打つ振動が全身に伝わってゆく。
「不二さん・・・」
「何?」
「・・・良かった」
「ありがとう」
「やっぱり不二さんが一番いいや。他の人じゃあ駄目。不二さんとヤるのが一番気持ちがいい」
「僕もだよ、潮也君」
僕の下で満足げに微笑む少年の額に軽くちゅっと口付けをして僕は少年の躰から萎んだペニスを引き抜いた。そしてベッドから降りて被せてあったゴムを引き抜き傍にあるゴミ箱に投げ入れる。
「ねえ不二さん」
背後から急に抱きつかれて僕は瞬間ドキッとしたが表面的には何事も無いように平静を保つ。
迂闊だった。人の気配には敏感な筈なのにさすがに欲望の処理をしている時は無防備だったらしい。
「何?もう一回シたいの?」
僕に抱きついている少年の熱くなった欲が僕の腰に当て付けられる。
少年は僕を煽るように熱くなったモノをぐりぐりと擦り付けて僕のお腹に回されていた腕が徐々に下に下がっていき僕の前を弄り始めた。
「元気だね」
僕は溜息をつきながら後ろを振り返る。
「不二さんだからだよ・・・」
さっき放ったばかりの僕のペニスが再び首を持ち上げ始める。
僕は黙ってその様子を見ていた。
好きでもない相手に弄られて頭を上げ始める僕の欲望。
まあ性欲処理だけの相手だから出るものは出してしまうに限る。
「ねえ不二さん・・・」
「何?」
「・・・僕とステディな関係になってほしい」
「・・・・・・・・・」
「僕、不二さんの事が好きになってしまったんです」
「・・・・・・・・・」
「不二さん・・・?」
「・・・ごめん、僕は誰ともステディな関係にならないと決めているんだ。だから君とは何回もヤッてきたけどあくまでも“劇場”で掴まえてきただけでその場限りの関係を保ってきたんだ」
「じゃあ、いつでも会える様に携帯の番号教えて・・・」
「それも駄目だよ。だいたい携帯は殆どが仕事で使う事ばかりだからね。僕に会いたいのなら“劇場”に来るんだね」
「でもいつ不二さんが来るか判らないじゃない」
いつの間にか僕のペニスを弄っている彼の手は握ったまま止まっていた。代わりに微妙にその手が震えている。
「僕は誰のものにもならない。そして誰も僕のものにしない。そう決めているんだ。だから悪いけど君の気持ちは受け取れない」
「じゃあせめて“劇場”で鉢合わせた時は僕を最優先に誘ってほしい」
「・・・そうするよ」
「不二さん・・・もう一回抱いて・・・」
まるで縋るように少年は僕を後ろから力いっぱい抱きしめてくる。
僕は躰を反転して少年をこの腕に抱きしめて彼の首筋に唇を這わせた。
* * * * * * * * * *
取引先のいわゆる“お得意さん”が引越しをした。
俺は地図を片手に引越先の事務所へ向かった。
駅から大通りを通るより裏路地を突っ切って行った方が近道。
そう楽観的に考えたのがいけなかったのかもしれない。
何も知らずに入り込んだ裏路地はいわゆるエッチなホテル街だった。
平日の昼間だからサービスタイムをやっているホテルが結構あるみたいで大学生カップルがちょろちょろしているのが嫌でも目に入る。
なんだか“これからヤります”とか“今ヤッてきました”っていう人達とすれ違うのってこっちの方が結構恥ずかしいんだよなあ。
そんなこと考えながら歩いていたらあるホテルの駐車場から出てきた車にうっかりはねられそうになってしまった。
『昔取った杵柄』とはよく言ったもので俺は未だ有り余る運動神経をもって瞬時に車をかわした。
車の運転手も俺に気付いたみたいで咄嗟にハンドルを切って急停止した。
その時俺はその車が非常に見覚えのある車だということに気が付いた。
そして俺を危うく轢きそうになった運転手と目が合ってしまった。
そこには予想通り俺が今最も良く知っている人間がハンドルを握っていた。
不二周助
そして助手席にはかつて俺が渋谷で見掛けた“不二の親戚の専門学校生”がいた。
可愛い顔をしているなあと思ったけど女の子だったのか!?
いや、不二は親戚の子は男だと言っていた。
何故不二が親戚の男の子とファッションホテルから出てくるんだ?????
男装をしていた女の子だったのだろうか?
それで不二はあの子のことを隠すような態度をしていたのか?
俺がボーゼンと立っていると俺が無事なのを確認したのか車は再びエンジンをふかして去って行ってしまった。
何が何だか判らなくなってきた。
しかしこれだけは言える。
俺は見てはならないものを見てしまったのだ。
* * * * * * * * * *
少し残業して帰宅すると焼き魚に大根おろしに肉じゃがに味噌汁にごはんという完璧な夕食が食卓に並んでいた。
「おー!すげーじゃん不二。なんだかお母さんみたい」
「僕だって気合入れればこれくらい作れるよ」
「あー、今日不二は休みで時間あったしな」
俺は何気に言ってしまって後悔した。
昼間の不二のこと。
しかし不二は俺の口を滑らせた台詞が聞こえないフリをしているのか何の反応も無く電気ジャーからごはんを茶碗によそっている。
「ハイ、ご飯はこれくらいでいい?」
「あ、ああ」
ご飯の茶碗を渡されてそのまま受け取る。
「いただきます」
不二も俺も黙々と食事をしている。
LDKは茶碗とお箸のカチャカチャという音だけが響き俺はあまりの沈黙になんだかご飯が喉を通らない。
「あ、あのさ・・・不二・・・・・・」
「英二、食事が終わったら話があるんだ。時間いい?」
「あ、ああ」
沈黙に耐え切れなくなって話を切り出してみようとしたけど逆に不二のペースに引きずり込まれてしまった。でもここは不二が話してくれるまで俺がとやかく言わない方がよさそうだ。
俺の目の前の不二は背筋をピンと伸ばしたきれいな姿勢で黙々と食事をしている。
一見何気ない夕食風景なのだが空気があまりにも重い。
重く感じるのは俺が必要以上に変に意識し過ぎている所為だと判っているのだけどそれを俺自身がどうすることもできなくてだんだんと食べるペースがおちていく。
純日本の家庭料理だというのになんだか勿体無い・・・
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