〜 ten years after 〜 10年後の日常
† 真実はひとつ †
「だいぶ顔色が良くなったな」
手塚が病室に入るや否やリョーマの顔を見て言った。
「ええ、一昨日から普通食になったんスよ。自分でも良くなってるって思います。もう母さんも乾さんも付きっきりじゃなくても大丈夫なんです」
「それで今日は付き添いが誰もいないんだな」
「そうなんです」
「そろそろこうやってベッドにいるのが退屈になってきたのじゃないのか?」
「天気のいい日は屋上に出るんです。ここ比較的高台だから眺めがよくて、羽田空港へ離発着する飛行機とか眺めてたりするんです」
「そうか」
宣言とおり手塚はリョーマの見舞いにちょくちょく来た。一度手塚のチームマネージャーでリョーマを一緒に救出した木下を連れてきたときもあった。
「退院したら快気祝いに食事に連れて行ってやろうか?」
「ええっ!まじっすか?行きます!連れて行って下さい!」
リョーマは嬉しさで精一杯微笑んだ。
* * * * * * * * * *
「不二、今ヒマ?このまま喋ってもいいか?」
「暇なわけないじゃない。僕は兼業主夫なんだよ。もうすぐ僕のマイスィートハニーが帰ってくるから夕食の準備で忙しいんだ」
「菊丸に手も出せていないくせに何言ってんだよ。ってことは今は菊丸はいないんだな。丁度いい、不二に聞いてほしい話があるんだ」
佐伯は僕の言う事を頭から無視して喋りだした。僕は携帯を片手に買ってきたばかりのスーパーの惣菜を冷蔵庫に詰め込む。
「朝霧に聞いた話だけどインターネットでとあるホモの交流掲示板で妙な噂が飛び交ってるんだ」
「朝霧って君の最近の愛人だよね」
「そう、あいつネット好きでさ、学校やバイトに行ってない時はずっとネットやってるんだ。それで見つけたらしいんだけどさ。それが最近『抱いてみたい男』っていうテーマで盛り上がっていてさ、大概そういうのって有名俳優とかが話題になるのが普通なんだけどそこの掲示板はマイナー路線でまだそんなに売れていない新人俳優や舞台俳優とか駆け出しのスポーツ選手の話題で盛り上がるらしい」
「ふ〜ん、それで」
確かにテレビを見ていて『この俳優好みかも』って思うことは僕にだってたまにある。しかし僕が本当に抱いてみたい男はこの世にただ一人だけだからネットで盛り上がっている話題なんてあまり興味ない。
「それが越前リョーマが話題になってるんだよ」
「越前が!」
僕はびっくりして携帯を握り直した。
言われてみれば越前も英二みたく目がくりっとしていて可愛い顔をしている。日頃無愛想だから僕はそんな対象で見たことなかったけど。
「越前の所属している会社のホームページを見たことあるか?」
「ないけど」
「俺も昨日はじめて見たんだけど所属の選手の写真が掲載されているんだ。それが試合中の写真なんだけど汗かいて息が上がっている状態でショットを打っている瞬間の腹チラ写真なんだぜ。まともにみたら普通のスポーツ写真なんだけど俺たちみたいなのが見たらかなりそそられる写真なんだぜ」
「君もそそられたんだ」
「バカ、大学時代に普通の後輩としてしか見てないからそそられるもんか!それに他にそそる奴がいたからな」
「君をそそった張本人はノーマルでホモは嫌いだって言ってたよ」
「それお前もしかして・・・・・・」
「バレたんだよ、僕がホモだってこと。たまたま劇場で潮也君を掴まえてホテルから出てきたところを英二に見つかってしまってね」
「不二・・・」
「でも英二はホモは嫌いだけど僕の事は嫌いじゃないから今まで通り友達でいてくれるって言ってくれたんだ。それに僕の英二への気持ちと君の事は言っていないから僕がホモだってことだけで今まで通りの生活だよ」
「・・・良かったな」
「ああ」
「で、話は戻るけど越前の事だ。掲示板に根も葉もない噂を書かれているけど無視できないような事書き込まれているんだ」
「どんな事?」
「それが・・・越前の奴が最近強姦されたって・・・」
「それは酷過ぎるね」
「俺、あんまり新聞とかテニス雑誌とかチェックしていなかったから詳しくは分からないんだけどあいつ最近の大会途中で体調不良で棄権したんだろ」
「みたいだね。新聞に書いてあったのを読んだよ」
「その体調不良も強姦された影響だって書かれてた」
「好き勝手書いている奴がいるんだね。あくまでも噂だろ?そんな書き込みは無視するに限るよ」
「ああそうするよ。ただ俺達の後輩の事だから一応不二には知らせとこうと思ってさ」
「それは貴重な情報をありがとう」
僕は一度見てみたいと越前の事が書き込まれている掲示板のURLを佐伯から聞いて電話を切った。
佐伯には無関心を装ったけどこれは真実かもしれない。
火の気のないところから煙は立たない。
インターネットにおける不特定多数が読んで書き込める掲示板を僕もいくつか見たことあるけどそこに僕の勤め先の会社が裏で悪どい事をやっていると書かれてあってよく見たら表沙汰にしていない本当にやっていた事だったので驚いた。きっと元社員か現役社員が暴露したんだろう。“あくまでも噂”を侮ってはいけない。真実が隠されている事だって中にはあるのだ。
それに乾のあの態度。
あくまでも“胃痙攣だ”と言い張りながらも辛い顔をしていた。
佐伯が言っていたことが事実ならつじつまが合う。
それで乾や越前が苦しんでいるのなら僕は彼等を助けてあげたい。
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