〜 ten years after 〜 10年後の日常

† Reload 2 †





「今の会社を辞める事にした」
「えっ?」
「つまり○○金属の所属を辞める事にしたんだ」
「何故?」
「だからその話をしたいから今晩来て欲しいんだ」
「分かりました」



手塚の泊まっているホテルはJR大阪駅から少し離れたビジネス街の中にあった。
リョーマは地図を頼りにホテルまでなんとか辿り着きあらかじめ聞いていた部屋まで直行した。

「疲れているのにわざわざ来てもらってすまないな」
「先輩の爆弾発言を聞いて疲れがどこかにふっ飛びましたよ」
「まあそれはゆっくりと話す。まずどうだ?」
手塚は部屋の冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出してリョーマに渡した。
「いただきます」
リョーマはプルタブを開けてビールを喉に流し込んだ。独特の苦味が渇いた喉を潤していった。







「○○金属を辞めてアメリカに渡る事に決めたんだ」
「アメリカ!?」
「そうだ、日本ではなく全米でどれだけやれるか挑戦したいんだ」
「・・・今日の決勝が終わった後、音羽さんと少し話をする機会があったんです」
「詩織さんと?」
「先輩、彼女に正式にお断りしたそうですね。それもアメリカに渡る為ですか?」
「そうだ。向こうに行けば今のような安定した生活はできないからな」
「何で?日本にいてもグランドスラム目指せるじゃん」
「俺が欲しいのはテニスのタイトルだけじゃないからだ」
「え?」

「越前、お前も欲しい」

「な、・・・・・・・・・」
リョーマは手からすべり落ちそうになった缶ビールをかろうじて両手で掴んで手塚を見つめた。
手塚は深く掛けていた椅子を浅く掛け直しテーブルに乗り出す形で正面に座るリョーマをじっと見据えた。
「俺が入る予定のアメリカのクラブチームはもう一人日本人を欲しがっている。越前、お前にも来て欲しいんだ」
「そ、そんな急に言われても・・・・・・」
「そうだな、急で申し訳ないと思っている。俺は先にアメリカへ行くが越前、お前はじっくり考えてから決めればいい」
「先に行くって・・・もしかして日本に居られるのって・・・・・・」
「今回の大会が日本での最後の大会だ」
「・・・だから彼女わざわざ大阪まで先輩の試合を見に来たんだ」
「詩織さんは越前のファンでもあったぞ。日本での俺達の試合は今日で最後になるからな、それで見に来たのだろう」
「ちょ、ちょっと最後って!俺やっと先輩に勝って追いついたのに先輩は日本を離れるだなんて!いきなりすぎるよ!」
「俺はアメリカでお前が来るのを待っている」
「何でアメリカなんすか!」
「・・・俺は越前が欲しいからだ」
「だったら日本で別のチームに所属して俺を勧誘してもいいじゃん!」
「・・・・・・勧誘しているわけではないのだがな」
そういうや否や手塚は座っていた椅子から立ち上がってリョーマの腕を掴んで立ち上がらせた。
「ちょっと何・・・・・・」
リョーマが反論する間も無く傍にあったベッドに叩きつけられた。
「い、痛てぇ・・・」
「俺が言う“欲しい”はこういうことだ」
手塚がリョーマに覆いかぶさり無理矢理口付けた。
「て、手塚先輩!!!」
「未練がましいかもしれないが、俺はお前の事をまだ愛している。こんなに誰かを欲しいと思ったのは初めてだ」
手塚の手がリョーマの上着の裾をたくし上げて脇腹をまさぐった。
「あんっ・・・・・・」
「相変らずイイ声出すんだな」
「や、やめて・・・駄目だよこんなこと」
「確かに日本では駄目だな、だが、アメリカでは許される」
「えっ!!!」
「何かを得る為にはそれなりの代価を払わなければいけない。俺は日本を捨ててお前を手に入れる」
「ちょ、ちょっと先輩っ!!!」
「俺はどんな手段を使ってでも越前を手に入れる」
手塚はリョーマのシャツを捲り上げて露わになった蕾に舌を這わせる。リョーマの背中から脳天にぞわぞわとしたものが駆け上り肩を震わせた。
「感じているのか?」
「あ、あん・・・はぁっ・・・・・・」
リョーマは無理矢理与えられる快楽に息を荒げながら手塚を見上げた。
手塚の表情は試合の時に見せる勝利への執念にも似ていた。
しかしこんなに欲望を剥き出しにした“雄”の表情をした手塚をリョーマは初めて見た。
リョーマの右の蕾を口で吸い上げ右手で反対の蕾をつまみあげる、手塚の余った左手はリョーマのモノをズボンの上から掴んだ。
「いやーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
突如大声を上げたリョーマは力の限り手塚を突き飛ばした。
「もういやだ・・・やめて・・・・・・」
呆気に取られた手塚が見たのはベッド上で自分を抱きしめる形で丸くなって震えて泣いているリョーマの姿だった。
「・・・越前?」
「酷い・・・もうやめて」
「・・・・・・すまなかった」
「やめて・・・もうやめて・・・・・・」
「すまない・・・」
「手塚先輩にも危害を加えないで・・・お願いだから・・・・・・」
「え?」
「やめて・・・やめて・・・」
「おいっ越前っ!」
手塚はリョーマを抱え上げて腕にしっかりと抱きしめた。
「放せっ!放せったら!」
リョーマが手塚の腕の中で暴れる。しかし手塚は暴れるリョーマをさらに力強く抱きしめた。
「こら放せっ!」
「越前っ!」
リョーマは手塚に無理強いされてかつて強姦された時のショックが甦って一時的に錯乱状態になってしまったのだ。
「越前、俺だ、手塚だ。もう大丈夫だから・・・」
「いやっ!放せっ!」
「俺を見ろ!俺は手塚国光だ!俺が分かるか?」
手塚はリョーマの頬を両手で包み込んで手塚の正面に向かせた。
「すまない越前・・・辛い事を思い出させてしまった様だ・・・・・・」
リョーマは涙で潤んだ瞳で手塚を見つめた。
「・・・・・・ぶちょ?」
「ああ」
「部長っ、手塚部長・・・」
「ああそうだ」
リョーマは手塚の首に縋り付いて肩に顔を埋めたまま、まだ治まりきっていない錯乱状態の所為で「部長」とかつて呼んでいた名称で呼びながらいつまでも泣いていた。
手塚はそんなリョーマを黙って抱き締め落ち着かせる為に背中を軽く叩いていた。









* * * * * * * * * *





リョーマは窮屈さで目が覚めた。目の前には眠っている手塚。
窮屈な原因はシングルベッドに大の男二人が一緒に寝ていた所為であった。
リョーマは訳が判らずにそっと上半身を起こして辺りを見回した。
知らない部屋。
時計を見れば明け方5時過ぎ。
自分と手塚は服を着たまま寝ていた。
部屋のテーブルに缶ビールの空き缶が置いてあることから手塚と飲んでいる最中に酔っ払って寝てしまったのだと推理する。
「もう少し寝よう」
リョーマが再び横になって目を閉じた時に昨夜の出来事を一気に思い出してしまいリョーマは恥ずかしくなって再び起き上がった。
「・・・ん?起きたのか?」
慌てて起き上がった所為で手塚を起こしてしまいリョーマはあたふたとする。
「・・・すみません」
どうしたらいいものかわからずリョーマは咄嗟にまだ横になっている手塚に向かって土下座をした。
「なんでお前が謝るのだ?」
手塚は不機嫌そうな顔で起き上がった。
「謝らなければいけないのは俺の方だ。お前に無理強いしてしまった。そして結果辛い事を思い出させてしまった。本当にすまないことをした。アメリカチームへの勧誘の件もなかったことにしてくれ」
「手塚先輩・・・」
リョーマはだまって俯いた。
「・・・・・・・・・けど、俺、嬉しかったです。突然でびっくりしたけど先輩が俺をアメリカチームへ勧誘してくれるなんてそれだけ俺のテニスの実力を認めてくれているってことでしょ」
「・・・まあな」
「それに冷静に考えてみたら今でも俺のこと愛してくれているって嬉しい。俺もう先輩の事は殆ど諦めていたけど昨日の先輩の言葉でドキドキしている」
リョーマは左胸にそっと手を当てた。
「先輩が俺のことまだ愛してくれているから見合いを断って会社も辞めてアメリカに渡るんだって自惚れてもいいの?」
「ああ」
リョーマは顔を上げて手塚を真正面から見据えた。そこにはいつものしかめっ面。
「手塚先輩っ」
リョーマは真っ直ぐ手塚の胸に飛び込んだ。
「越前?」
手塚はリョーマを受け止め両手をリョーマの背中に回して抱きしめ直す。
衣類越しでも伝わる手塚の温かい体温が心地よくてリョーマは手塚の胸に体を預けたままそっと目を閉じた。
「先輩、俺を抱いてください」












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