| 〜 ten years after 〜 10年後の日常
 
 † Ich liebe dich. †
 
 
 
 
 「俺を抱いてください」
 リョーマは手塚の腕の中で呟いた。
 「いいのか?」
 「俺を先輩のものにして下さい。身も心も・・・・・・俺もアメリカに渡ります」
 「越前」
 「俺はアメリカ生まれだし青学へ入るまで向こうにいたからアメリカで生活するのに抵抗はありません。家族と遠く離れることになるけど俺の親父だって単身でアメリカに渡ったんだから俺もアメリカに行かせてくれると思う。ただ今の会社の所属を辞めるのに時間がかかるかも・・・」
 「じっくりと会社側と話し合ってお互いすっきりとして辞めるようにしないといけないぞ。後々尾を引くようなことがあるとそれがテニス界での命取りになるかもしれん。俺はいつまででも待っているから気にするな。会社を後腐れないように辞める事が先決だ」
 「わかりました」
 
 どちらからともなく重なった唇は1年の空白を埋めるかのごとく長い時間お互いの唇を啄ばみ合いまるでお互いの気持ちと存在を確かめ合うかの様だった。
 久しぶりに重ねた唇に絡めあった舌に手塚は背中をゾクリとしたものが這い上がって行くのを感じた。
 好きだとか愛しているとか抱きたいとかはかつて伝えた言葉。
 今はそれ以上の想い、そして独占欲。
 ただ、もう手放したくないと思った。
 日本を捨ててリョーマを手に入れる。それが手塚の出した結論。
 「もう絶対に手放したりしない」
 手塚はリョーマの躰を力強く抱きしめた。
 「俺も離れないから」
 回されたリョーマの両腕の温度を手塚は背中に感じる。
 
 
 
 
 
 
 
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 雷が落ちたらこんな感覚がするのだろうか。
 背筋を電流が走りぬけ全身が震えた。両手が掴んだシーツは更に皺が増え、指先は体温をなくして白く冷たくなっていく。
 「やぁ・・・んっ」
 自分でもみっともない声が出てしまう。
 先輩の与える刺激がどんどん俺を高めていく。
 首筋に、鎖骨に、胸に唇を這わせる先輩の動きにあわせて俺の腰も自然とくねってしまい、背中を仰け反らせた。
 「ね・・・ねえ、先輩。お、俺・・・・・・もう、余裕ないんだけど」
 1年ぶりの逢瀬は優しくそれでいて激しく情熱的で手塚先輩が本気で俺を求めてくれているのを全身で感じる。
 先輩は日本を捨ててまで俺が欲しいと言ってくれた。一度は別々の道を歩んだけど諦めきれないと言ってくれた。
 あまりにも自分にとって都合が良すぎて一瞬これは夢ではないかと錯覚したけどこの躰に圧し掛かる重み、体温、そして与えられる快楽が夢でない事を教えてくれる。
 既にお互い全裸になっているので俺の昂ぶりが嫌でも先輩の腹に当たっていてそれが微妙な摩擦となって更に俺を昂ぶらせている。
 「もう少し我慢しろ、久しぶりなんだからお前を堪能したいんだ」
 「ひゃぁぁぁぁんっ・・・」
 執拗に胸の突起を吸われ舐められ歯を立てられてあられもない嬌声が上がってしまう。
 その度にますます下半身に熱が集中して猛り狂う。
 「あっ・・・やっ、もう・・・だめっ触って」
 「何をだ?」
 「・・・意地悪」
 「何をどこをどのように触って欲しいのだ?言ってみろ」
 先輩が意地悪そうな表情を浮かべて俺の顔を覗き込む。この人こんな表情もするんだったんだ。ん・・・?
 「あーーーーーーー!!!!!!」
 「何だ、越前?」
 俺が突然大声を上げたので先輩は驚いた表情で心配そうに俺を覗き込んだ。
 「手塚先輩、眼鏡掛けたままじゃん!」
 「そうだ。何が悪いか?」
 「って俺のことモロ見えじゃん・・・」
 なんだか急に恥ずかしくなった。今更何なんだと言われても仕方ないけど今まで眼鏡を外してヤッていたし今は朝だから部屋だってそこそこ明るくなってきているし・・・
 「俺は越前の全てが見たいし手に入れたい。お前がよがる姿、なかなかよかったぞ。お陰で俺も余裕がなくなってきた」
 「ちょっとそんな恥ずかしい事言わないでよ//////じゃあ今から眼鏡外してよ!」
 「それは出来ないな」
 「酷い!」
 「越前だって俺の全てを見ているじゃないか。お互いハンデなしってことだ」
 「俺は視力いいんだもん仕方ないじゃん」
 「そんなに見られるのが嫌か?」
 「嫌じゃないけど・・・なんかこっ恥ずかしい」
 「それならこれでいいだろう?」
 手塚先輩は俺を抱き起こして躰を反転させて背後から抱きしめた。同時に項に先輩の唇がそっと触れられる。
 先輩の唇は項から肩のラインに沿って動かされ歯を立てる。姿は見えなくなったけど背中に伝わる体温、項にかかる興奮した吐息、そして腰に当たる先輩の昂ぶりに俺の躰も反応する。
 「・・・はっ・・・あっ」
 堪え切れなくて自分の昂ぶりにそっと手を伸ばすと先端から先走りの液体が溢れていてシーツにまで染みを作っていた。
 「-----っ」
 無意識に上がる声、聞こえたのか先輩が手を伸ばしてきて俺の手ごと熱塊を握り込んだ。
 「・・・ふあっ・・・」
 粘液でぬめる指先で執拗に攻め立てられものすごい刺激が全身を駆け抜ける。躰全体から力が抜ける感覚がして背後の先輩に凭れかかる。
 「も・・・もう出るっ!」
 先輩は器用にも俺を触っていない方の手をサイドテーブルに伸ばして備え付けのティッシュを数枚掴んで俺の先端を包み込んだ。
 「出していいぞ」
 耳元で囁かれた言葉に全身が脈を打つ。躰の一点に熱が集中するのが自分でも分かる。そして目の前が一瞬真っ白になって俺は吐精した。
 「はあぁっ…」
 大きく息を吐いて力なく先輩に躰を預けると先輩はそっと俺の躰を横たえて自分は俺の出したものを包んだティッシュを丸めてゴミ箱に放り投げた。そしてご丁寧に新しいティッシュでまだ濡れたままの俺のペニスを拭いてくれた。
 「ここは普通の宿泊用のホテルだからな。あんまりこういう汚し方はできいないだろう」
 「律儀だね」
 俺は寝転がったまま先輩を見上げた。ヤルことをヤッておきながらちゃっかりと状況判断するところが手塚先輩らしい。
 
 
 
 
 額にキス、鼻にキス、頬にキス、唇にキス、首筋にキス、胸にキス・・・先輩の唇が射精後の脱力した俺の全身にやさしいキスの雨を降らせる。
 「キスマークつけてよ」
 「・・・いいのか?」
 「今日はいいよ。先輩のものになったという証を付けて欲しい」
 「じゃあ遠慮なくいくぞ、前は目立たないところにしか付けられなかったからな」
 「・・・それでも乾さんには見つかってしまったけど」
 「今日は乾にも見せ付けてやるんだ」
 そう言って先輩は俺の首筋を吸い上げた。
 「ひゃっ・・・」
 「越前、お前はもう俺のものだ。何があってももう手放さない」
 「俺も・・・何が起こっても傍を離れないから・・・たとえ離れる事があっても俺の身も心も先輩だけのものだから」
 「ありがとう、越前」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 * * * * * * * * * *
 
 
 
 
 
 久しぶりに侵入した越前の中は熱く、そして俺の指を締め付けた。
 「つっ・・・」
 「辛いのか?」
 「大丈夫・・・」
 大丈夫だと答えた越前の指はシーツに爪を立てて食い込んでいる。俺は一度指を抜いて活性油のクリームを大量に付けて再び埋め込んだ。
 「ひゃんっ・・・」
 指先が越前のポイントを点いたらしく越前の躰が跳ね上がり背中が弓なりに反り返る。同時に埋め込んでいる俺の指が締め付けられる。その締め付けがまるで自身を締め付けられている錯覚を起こさせてますます下肢に熱が集中した。もうこれ以上は我慢が出来ない。
 「越前、すまないがもう限界だ。挿れさせてもらうぞ」
 俺は素早くコンドームを装着して越前に挿入する、もう手加減する余裕は残されていなかった。
 「うあっ・・・」
 「くっ・・・」
 1年ぶりの感覚に快楽の波が電流のように背筋を走った。
 そしてまるで越前に思い出させるかの如くゆっくりと腰をまわして中に挿れているものの形を教えるように内壁に擦り付けた。
 「あっ・・・お、大きい・・・・・・」
 俺は越前の腰をがっしりと掴んで固定させて律動を開始した。
 「やっ!あっ、ん、っあ、ああっ…っ」
 揺さぶりをかける度にあられもない声を出す越前。既に解っている快楽ポイントを点いてやればますます嬌声を上げる。
 初めて眼鏡越しに見た越前の快楽に歪んだ顔を綺麗だと思った。
 「・・・っ!」
 越前の内壁が俺の欲望に反応して絡み付いてきて俺の熱塊を締め付ける。もう長くは持ちそうにない。越前の欲望も再び首を持ち上げていて先端から先走りの透明の液体を滲ませている。俺は越前にもコンドームを被せてやった。
 「随分と・・・余裕じゃん・・・」
 越前が息も絶え絶えに見上げてくる。そんな顔で見られたらますます堪らなくなってしまう。
 「余裕ではないのだがな・・・できるだけ長くお前を堪能したいんだ」
 やっと手に入れたのだ。じっくりと愛したい。
 久しぶりに抱いた躰に自分がどれだけ飢えていたか思い知る。
 俺はますます激しく越前を貫いた。
 「うぁっ・・・あっ!ああっ・・・っんあっ」
 越前の嬌声もますます激しくなる。
 越前の腕が伸ばされて俺の首筋に纏わりつく
 「ね・・・もういちど・・・言って、あの・・・ドイツ・・・語」
 荒い息を上げながら越前は俺をまっすぐ見つめて言ってきた。
 1年前、別れの電話を切る際に俺が呟いた言葉。
 「愛している」とはっきり告げることが出来ずに逃げで使った言葉。
 あの時越前には伝わっていたのだ。
 俺は嬉しくなる。
 胸の奥が熱くなる。
 心が満たされる。
 こんなに幸せでいいのだろうか。
 「・・・ねえ?」
 越前が催促をする。
 
 「Ich liebe dich.」
 
 「嬉しい・・・」
 越前はうっとりとした顔で目を瞑った。その唇に自分のを重ねる。
 そして越前の唇を堪能しながら自分の奥底に溜まっていた熱を解放した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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 二人で入るには少々狭いバスルームに無理矢理入り込んでシャワーを浴びて部屋に戻ると俺の携帯電話が不在着信のサインランプを光らせていた。
 「やばっ・・・乾さんからだ」
 ディスプレイに表示された番号と登録している名前を見て先程の夢心地から一気に現実に引き戻された。
 「俺のとこに来るって乾には言っていなかったのか?」
 「一応言って出たけど・・・先輩会社辞めるなんて言い出すし・・・乾さんも驚いてた」
 俺は携帯を持ったまま直ぐに乾さんに電話を掛け直すべきかどうか迷っていた。
 この状況をなんて説明すればいいだろう。
 会社には誤魔化しがきくかもしれないけど乾さんは誤魔化せない。
 「とりあえずビールを飲んでいるうちに寝てしまったと言えばいい。アメリカ行きのことは今じゃなく直接会って話する方がいい」
 俺は手塚先輩の助言で少し気持ちが軽くなって携帯の発信ボタンを押した。
 
 「越前か?」
 「・・・すみません連絡が遅くなってしまって」
 「今どこだ?昼から取材が3本入った。昼までに戻って来れるか?」
 「まだホテルにいますよ」
 「・・・手塚の話は聞けたのか?」
 「ええ、詳細は戻ってから報告します。昨日はビール飲んでいるうちに寝ちゃってて、今から朝食摂ってそちらに戻ります」
 「・・・」
 「あ、ちょっと!」
 乾さんが何か言いかけた時、俺の携帯は手塚先輩に奪われていた。
 
 「乾か?手塚だ。悪いが越前は俺が貰った。もう誰にも邪魔はさせないからな。越前は俺のものだ、覚えておけ」
 
 電話の向こうで乾さんが大声で何かを言っている声が聞こえたけど先輩は無視して通話終了ボタンを押した。
 「余計な事、だったか・・・?」
 「・・・いいえ」
 俺は首を横に振って携帯電話を受け取った。
 
 
 俺の為にここまでやってくれた先輩が愛しおしく思う。
 一度は諦めた道だけど舞台を変えれば再び歩める道だと教えてくれた。
 テニスも愛する人も手に入れる。
 欲が深いかもしれないけどその為に俺達は日本を離れる。
 何かを得る為にはそれなりの代価を払わなければいけない。
 俺はテニスと手塚先輩を手に入れられるのなら日本を捨てても構わない。
 元々アメリカで生まれ育ったんだ。今更日本に未練もない。
 日本に居る家族や知人と遠く離れるのは少し寂しいけど一生会えなくなる訳じゃない。
 でも手塚先輩は―――
 「先輩は本当に日本を離れてもいいの?俺の為にそこまでして本当にいいの?」
 「何度言わせる気だ。俺はお前とテニスのタイトルが欲しい。テニスはどこででもできるがお前を得るのは日本では難しい。ならば日本を離れるまでだ。俺は本気で越前リョーマという人間を愛してしまったんだ。これが俺の本気だ」
 綺麗な切れ長の目でじっと見つめられると鼓動が跳ね上がる。
 胸の奥が熱くなる。
 嬉しい。
 青学に入ってからずっと憧れて追いかけて、憧れ以上の感情を持ってしまって苦しんだけどやっと想いが実って手塚先輩に愛してもらえるようになった。
 嬉しくて涙が出た。
 「・・・越前?」
 「嬉しい、本当に嬉しい。有難う先輩。俺も先輩の事愛している。これかもずっとずっと先輩だけを愛するから」
 「ありがとう」
 先輩の腕が伸びてきてその胸に引き寄せられる。
 
 
 
 
 
 
 俺の腕の中で歓喜に涙する後輩を見てふと昔を思い出す。
 出合った頃の小さい躰で不敵に相手を睨みつける鋭い眼差し。
 そしてその強さ。
 青学を託すのに相応しい男だと思った。
 そして期待に応えてくれた。
 きっとあの頃から俺は越前に惹かれていたのかもしれない。
 愛情だの友情だのとは別の意味で人間的魅力に惹かれていたのだろう。
 今はその気持ちに愛情が加わった。
 男とか女とか関係ない。
 生まれて初めて心の底から欲しいと思った。
 
 
 
 
 
 これからは愛する人と共に歩く、そして同じ夢を見る。
 それは決して穏やかな道程ではないけれど。
 二人一緒なら歩いていける。
 それが二人の生きる道。
 二人でいられる為の道。
 
 
 
 
 〜 ten years after 〜 10年後の日常・塚リョ編 完
 
 色々大変な目に遭ったリョーマ君への応援ありがとうございました。
 よろしければ感想など頂けると嬉しいです。
 
 
 
 BGM:
      「Ich liebe dich.」 曲:Beethoven
 MIDI提供「ぴあんの部屋」様
 
 
 
 
 
 続き(不二菊編へ)>>
 
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