〜 ten years after 〜 10年後の日常
† Reload †
「ゲームセット!ウォンバイ越前 7−5」
審判の声がコートに響き同時に歓声が沸き起こった。
「優勝!越前リョーマ!」
「いい試合だった」
決勝で俺の対戦相手だった手塚先輩がネット越しに握手を求めてきた。
「やっとアンタに追いついたよ」
「ああ、これからますます油断できないな」
俺と手塚先輩が一線を越えた関係を止めてからもうすぐ1年になろうとする。
その間に俺は色々な大会に出場して着々とランクを上げていった。
だけど手塚先輩にはどうしても勝てなかった。
それが今日やっと勝つことが出来た。
「おめでとう越前、第一の目標の手塚を倒す事がやっと叶ったな」
「ありがとうございます、乾さん。乾さんのデータもなかなかのものでしたよ。で、大月コーチは?」
「取材陣への対応でどこかに行ったよ。今回は比較的大きな大会だからな、優勝したとなると取材陣がどっとやってくるから越前も覚悟しておいた方がいい。だから明日東京へ帰る予定が明後日になるかもしれないな」
「せっかく大阪まで来たんだからお好み焼を食べて帰りたいな」
「そうだな、時間を作って道頓堀にでも行くか?でなきゃ遠征に来た楽しみがない」
「俺ね、実は今回の大会の場所が大阪だって聞いて密かに本屋で大阪グルメマップをチェックしてたんスよ。そしたら美味そうな店を見つけたんですよ。山手線の高架下なんですけどね」
「越前、大阪は“環状線”だ」
「そうだった」
俺と乾さんがあれこれ話をしていたらこちらをそっと伺っている女性に気が付いた。
あの人は・・・・・・
俺はその人に近づいて行った。
「何か用?」
「越前さん、優勝おめでとうございます」
「ありがと、けどアンタ俺んとこに来ててもいいの?先輩はあっちにいるんでしょ?」
するとその女性。手塚先輩の見合い相手の音羽さんは苦笑した。
「私、フラれてしまったんです」
「え?」
「3ヶ月ほど前になるかしら。国光さんに正式にお断りされましたの」
「・・・何で?先輩言ってたよアンタの事、自分には勿体無いくらい素敵な女性だって」
「やはり国光さんにはテニスが全てだった様ですわ。テニスで精一杯なのでこれ以上お付き合い出来ないと言われました」
「何それ・・・・・・」
初めて聞かされた事実にただ呆然とする。
普通の先輩後輩に戻った俺達はお互いの近況をメールで報告しあったり、乾さんも含めて3人で飲みに行ったり、不二先輩と菊丸先輩がホームパーティーを開いてくれた時もあった。
最初はやっぱり抱かれた時の事を思い出して意識しまくっていたけど半年も経てば結構平気になった。元々普通の先輩後輩をやってた時のほうが長いのだし不二先輩と菊丸先輩の乾さん曰く『諸悪の3−6コンビ』に招待されたホームパーティーで不二先輩におちょくられる手塚先輩を見ていたら学生時代に戻った気分になった。
しかし先月一緒に飲みに行った時も見合いを断ったという話は出てこなかった。
だからてっきり順調なお付き合いを続けているものだと思っていた。
「・・・でもアンタは先輩の事まだ好きなんでしょ!手塚先輩って本当にテニス馬鹿なんだよ!頭の中テニスの事しか考えていない本当にテニス馬鹿なんだよ!だからアンタから先輩の懐に飛び込まなくっちゃ駄目だよ!」
「越前さん・・・」
気が付けばこんなこと口走っていた。手塚先輩とこの女が別れようが俺の知ったことじゃないのに何でこの女の手助けをするようなこと言っているんだろう。
「アンタが本当に先輩の事好きでぶつかって行ったら先輩もきっと解ってくれるから。アンタだってまだ先輩の事好きだからこうやって大阪まで試合を見に来たんでしょ」
「・・・ありがとう越前さん。でも私が国光さんの心に入れる隙間は本当にないんです。そして大阪まで試合を見に来たのはまだ好きだって理由じゃないんです。詳しい事情は私の口からは言えませんがいずれ越前さんにも分かります」
「何・・・・・・」
「越前選手!表彰式が始まります」
何か事情がありそうだけど表彰式だと言われてそれ以上聞くことが出来なかった。
何かあったのだろうということは察しがついたけど表彰式での手塚先輩の表情はいつもと変わらずクールな表情だった。
「越前、ちょっといいか?」
表彰式が終わった後手塚先輩に声を掛けられた。
黙って付いて行くと人気のないところで小声で言われた。
「大事な話があるんだ。今晩俺が泊まっている大阪駅前のホテルまで来てもらえるか?」
「いいですけどどうしたんですか?深刻そうな顔して」
「今の会社を辞めることにした」
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