〜 ten years after 〜 10年後の日常

† OVERLAP †




今の俺って絶対変だ。
平然と仕事をしているけど同僚に「様子変だぞ?」と言われたり“職場の母”と言われるベテラン経理の年配女性からも「具合悪いの?」と言われたりした。
不二の所為だ。
今晩俺は不二に抱かれる。
『英二、明日の晩楽しみにしてるよ』
昨日の今日って・・・俺にも心の準備ってものがあるだろう!
不二って、以外とせっかちだったんだ。


はっきり言ってまだ俺は不二の事をどういう風に想っているのか判らない。
ホモセクシャルについてインターネットで調べてみたけどホモの人達ってハート、つまり相手を思う心が人一倍強いって事もなんとなく分かった。
ホモ=男同士=気持ち悪いっていう俺の中でいつの間にか出来上がっていた偏見がだんだんと崩れていく。
調べていくうちにホモ=アナルSEXだと思ったけど以外と世間のホモセクシャルの人達の間には体の関係はないってことも分かった。
相手を好きだと思う気持ち。
相手を大切にしたいと思う気持ち。
傍に居てくれればいいと思う。
キスだけで十分だという意見が多かった。

でも、俺は・・・・・・

不二の事は好きだ。
不二の事は大切だ。
不二が傍に居たら安心する。

けどそれって「友情」なのか「愛情」なのか判らない。

だからこそ不二に抱かれてみる。
こういう確かめ方しか俺には出来ない。


3週間前に実家で見た青学中等部の卒業アルバムを思い出した。
体育祭で不二と写っている写真。
テニス部の練習で不二と写っている写真。
中等部3年の時はクラスも部活も一緒だったから不二といる時間が多かったのだ。
その仲良し不二と10年後にこんな関係になるなんて・・・
写真の中のまだ少年と呼べる自分のあの頃では想像もつかなかった。
でもあの頃の不二は既に密かに俺に恋心を抱いていたんだ。
それも想像できない。
不二が俺のことを10年も密かに想っていたなんてとても想像できない。

不二はその顔立ちと知性と人当たりのよさで昔からクラスメートだけじゃなくて学校中の女から人気があった。あいつバレンタインデーの時にはいつもいっぱい貰っていたよな。
けど何故か彼女を作ろうとはしなかった。
それが俺には不思議で仕方がなかった。
でも今では理解できる。
不二はホモセクシャルだから。

大学の時不二が初めて彼女を作った。
合コンで知り合った文学部の土山さん。
おとなしくて目立たないお嬢さん。
何も知らない俺は不二がようやく自分の好みの女性を見つけたと心底喜んだ。
今までは合コンに来ても絶対に彼女を作らなかった不二。
その時参加していた女子の殆どが不二を狙っていたみたいだけど意外な事に不二が自ら土山さんを選んでずっと話し込んでいたので他の女子は悔しそうにしていた。
そして土山さんを引っ張ってきた女子が俺の彼女になった。
彼女は引っ込み思案な土山さんに不二のような素敵な彼氏が出来て良かったと言っていた。
でも俺は気付いていた。
彼女も最初は不二を狙っていたんだ。
でも不二は土山さんを選んだ。

その後不二も俺もユニバーシアード大会に出場したいが為にテニスの練習に明け暮れた。
結果不二も俺もせっかく出来た彼女と自然消滅してしまった。

しかしそれは全部不二の計算上のことだったんだ。

彼女を俺に向かせる為に土山さんを選んだ不二。
その土山さんを泣かせない為にテニスに没頭して自然消滅に持って行った不二。

すべては俺の為に・・・・・・






* * * * * * * * * *




家に帰ると不二が夕食の仕度をしてくれていた。
久しぶりの不二との夕食
けど
どうしても正面に座っている不二を意識してしまう。

なんだか気まずい
というか恥かしい
緊張する

「英二の頬の傷・・・」
「ああ、これ?」
「中等部の頃の英二を思い出す。でも今は外回りの仕事しているんだから早く消えるといいね」
「だいぶ薄くなってるからそのうち消えると思うよ」
「だといいね」
「本店はどうなったの?」
「よく分からない。あれから支店勤務してるから・・・」
「僕がタイに行っている間大変だった?」
「仕事はこんなことだったから周囲の人達がフォローしてくれてなんとかしてくれたけど病院行ったり警察に行ったりしたのが結構大変だった。特に警察、ベンチに座って待っていたら“いかにも今さっき交通事故に遭いました”っていう人が血まみれであちこちに包帯巻いて入ってきたりだとか単にトイレ借りに来ただけのオバチャンだとか色んな人がいるんだわ。まあヒューマンウォッチングと思えば楽しいかもしれないけどね」
「事情聴取ってどんなの?」
「別に、普通に状況説明しただけだよ。あ、本店がある○○区の所轄警察に丁度その時警視庁のエリートらしき人達が来ていたんだわ。その中に真田がいたんだよ!もうビックリだぜ」
「真田って立海大の?」
「そう!あいつ大学卒業後プロとして名前も出てねーしどうしたんだろ?って思ってたけどまさか警視庁のエリートコース辿っているなんて思ってもみなかった」
「そうだね、切原はイギリスに渡ってプロとして活躍してるのに僕らと同級の立海の三強は表舞台に出ていないからどうしたんだろ?って僕も思ってたよ。でも真田が警視庁ってなんだか似合っている気もするけどね」
「その警視庁の研修グループが本店の事件に参加してんだよ。事件の詳細を説明するのにずらっと雁首並べて俺のことじっと睨んでメモとってるしそんなことされたら俺緊張するっての!」
「まるでオーディションみたいだね」
「そんないいもんじゃないって!でも研修グループを引率していた人が俺の親父と知り合いみたいだったんで俺が疲れてきた頃に終わらせてくれた」
「英二のお父さんって警視庁と繋がりあるの?」
「うちの親父、警視庁記者クラブに勤めていた時があったんだよ。で、“菊丸”って珍しい苗字だから覚えていたみたいなんだよな」
「へえ。でもよかったね、手荒な扱いされなくて」



事件の詳細を不二に話している間にだんだん緊張もほぐれてきた。
いつもと変わらない食事風景。

「じゃあ俺、皿洗う・・・」
「いいよ、僕がやるから」
食器を持った手をいきなり掴まれた。
その手の温もりに一瞬ドキリとして俺の手から食器が離れていく。

ガシャーンッ・・・・・・

「あ、ごっごめん!すぐ片付ける!痛っ・・・」
落として割れた食器を拾おうとして慌てていて指先を軽く切ってしまった。
駄目だ、俺不二に動揺している。
不二を意識し過ぎている。
「血が出てるよ」
そう言って不二は俺の指を掴むや否や怪我をした指を口に含んだ。
「ふっ不二!!何やってんだよ////////」
「何って消毒だけど」
俺の傷口を舐める不二の赤い舌が妙にエロい・・・・・・
不二をまともに見られない・・・
不二はきっとわざと俺を煽っているんだ。

「ここは僕が片付けるから英二はお風呂洗ってお湯入れてきてよ。そんで先に入ってね」
「俺、先に入ってもいいの?」
「何なら一緒に入る?」
「ええっ!!いや、いいっっ先に1人で入ります!」

不二って見掛けによらずすっげーエロかったんだ・・・







* * * * * * * * * *








やっぱり落ち着かない。
足元がスースーする・・・

風呂に入る前に不二に「あがったらこれを着てね」とバスローブを渡された。
確かにバスローブって体の表面の水分を吸い取ってくれるからいいんだけど普段バスローブを着る習慣がないからどうも落ち着かない。
下着をつけていないから余計にそう感じるのかもしれない。
自室で髪を乾かすのに鏡を見たら白のバスローブ姿の自分がまるで別人に見えた。
風呂場からは不二がシャワーを浴びている水音が聞こえてくる。
いよいよこれから俺は不二とSEXするんだ・・・
不二と・・・
親友の不二とそんなこと・・・
やっぱりそんなこと考えられない。
俺はCDコンポの電源を入れてできるだけ賑やかな音楽をかけた。

賑やかなポップスが部屋に響いているのに不思議と俺の聴覚は不二が奏でる生活音の方ばかり耳につく。
風呂のドアを開ける音。
廊下を歩く音。
そして隣の不二の部屋に入ったドアの音。

隣の部屋からドライヤーの風の音が聞こえる。
この音が鳴り止んだらいよいよ・・・

俺はベッドの端に腰を掛けた。
緊張する・・・
そして俺はどんな顔して不二を迎え入れたらいいんだろう。

不二がこの部屋に入ってきたら・・・「こんばんわ」はおかしいな。
じゃあ「お疲れ様!」は・・・仕事じゃねーんだ。
つーかこれからもっと疲れることするんだよ!!!
「やあ・・・」もなんだかなあ。

悶々と考えているうちに不二の部屋から聞こえるドライヤーの音が止まった。
心臓が高鳴る。

不二の部屋のドアが開いて閉じられた音が聞こえる。

そしてこの部屋に近づいてくる足音。

コンコン・・・

来たっ!!!!!


「ど、どうぞ・・・」
「お邪魔するよ」
不二もバスローブ姿だった。
そして手に何かを持っている。
「何それ?」
「活性油のクリームとコンドームだよ」
「・・・・・・・・・」
俺は生々しさに唾を飲み込んだ。
佐伯との時は薬の所為でそんなもの見る余裕がなかった。
こうやって間近で見るとやっぱり生々しい。
俺、これから不二と・・・・・・・・・

不二はベッドのヘッドボードに取り付けられてある棚にそれらを置くと俺の横に腰を掛けた。
「・・・じゃあ始めるよ」
不二の腕が伸びて座ったまま俺を抱きしめる。
心臓が高鳴る
いよいよ不二と・・・・・・

「ま、待って電気消して・・・やっぱ恥かしい、不二の顔まともに見れない」
「いいよ」













暗闇の中、ベッドに横たわった俺に不二が覆い被さる。
両手で頬に手を添えられてゆっくりと優しいキスをされる。
唇を啄ばまれて舌を入れられて・・・

いつも使っている歯磨き粉の味がした。

きっと不二は今日一日、いや昨晩から煙草を吸っていない。
不二の体からも煙草の臭いを感じない。
俺の為に禁煙してくれたんだ。

角度を変えて何度も何度も軽く唇を吸われる。
まさに不二は俺とのキスを味わっている。
そんな気がした。

「英二、愛している。ずっとこうしたかった・・・今すごく嬉しい」
耳元で囁かれて更に心臓が高鳴る。
俺達は世間一般常識ではありえないことを始めようとしている。

不二の手が俺のバスローブの腰紐をそっと解いた。
暗くて見えないから不二は俺の体を確かめるかのように撫でまわす。
その手の動きが少しくすぐったい。
「んっ・・・・・・」
自然と息が漏れる。
俺は不二の愛撫の妨げにならないように不二のバスローブの腰紐を解いた。

お互い身に纏うものがなる。
ぱさりと不二が二人分のバスローブをベッドの下に落とす音が暗闇の中に響いた。
重なり合うお互いの躰。
胸に感じる不二の体温が心地よくて俺は不二の背中に腕をまわした。
「英二、そんなぎゅっと抱きしめたら僕動けないよ」
「今だけ・・・今だけこうさせて」
「英二・・・」
不二の体温が心地よい。
不二も俺の背に手をまわしお互いの躰をぴったりとくっつけて抱きしめ合う。
不思議と嫌な感じはしない。
むしろ心地よい。
不二に縋り付いてるのが
不二に包まれているのが
不二の体温が
何だかとても安心する。
俺は腕に力を込めて更に不二の体をぎゅう〜っと抱きしめた。
「英二・・・」
「こうやっているととても安心する。しばらくこうさせて」
それはまるで大地に包まれている感覚
広くて、温かくて、そして心安らかになる。


俺は不二に抱きついたままそっと目を閉じた。






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