〜 ten years after 〜 10年後の日常
† lunch †
「それで、君は手塚の写真を携帯の壁紙にしてるのかい」
「ああ、越前も冷めたこと言っていたが写真を転送してくれと言ってきたので転送してやったんだ。だから時々こっそり見ては笑っているかもしれないな」
手塚を僕たちの夕食に招待(?)してから3日後、僕は懐かしい旧友と再会するためにこのレストランへやって来た。僕も彼もたまたま仕事が休みだったのだ。
「不二も英二も元気そうで何よりだ」
「乾は最近英二に会ったのかい?」
「いや、全然だな。メールでやりとりをしているだけで実際にはここ1年半くらい殆ど会っていない」
「社会人生活にはもう慣れた?って野暮な質問だったかな?なんだか君の顔はとてもいきいきしていて“毎日が楽しい”って感じだよ」
彼はエビフライを切っていたナイフの手を止めて僕を見つめた。その分厚いレンズ越しの表情は一見わかりづらいものだが彼のナイフとフォークを動かす小さな動きから喋った時の口元の微妙な角度や彼全体からいきいきとしたオーラが伝わってくる。
「そう言う不二も楽しそうな顔をしてるよ。まあ同居人が同居人だしな」
「まあね、僕も家事が上手くなったよ。今のところ平日が休みの時が多いから平日の昼間って家事の裏技とかをやっているTV番組とかがあって普通に洗濯しただけでかなり漂白できる技とかシンクを簡単に掃除する方法とか結構覚えたよ」
「・・・・・・まるで主婦だな」
「独身貴族だって言ってほしいな」
「・・・・・・・・・」
「ところでよく手塚にあんな格好させたな」
「ああ、ゲームに負けたからね」
「ゲーム?」
「パーティーゲームというか宴会なんかで使う小ネタのゲームだよ」
「・・・・・・まるでオヤジだな」
「独身貴族だって言ってほしいな」
「いつもそんなもの持ち歩いているのか?」
「出張の時はね、一緒に行った職場の人とか仕事で接する現地の人とかとコミュニケーションをとるには手っ取り早い方法だからね」
「すっかり商社マンしてるな」
「まあね。で、帰りの飛行機で隣に座ってたのがたまたま手塚で夕食を賭けてゲームをして手塚が負けたの。エプロン持参でって言ったら『持ってない』なんて言うから用意したんだよ」
「しかし手塚があれをよくつけたな」
「『二度とはないぞ』って言ってた。それに僕が『英二にも着せたいからまずお手本に手塚が着てよ』って言ったんだ。そしたら着てくれた」
「手塚も大人になって丸くなったものだな」
「ああ、僕もびっくりしたよ。中等部のころから今ぐらい人間に丸みがあったらよかったのにね」
「そうだな」
僕は乾の皿をちらりと見た。既に食事は終わっている。
「ちょっといい?」
僕は彼に白地に赤のマルボロのボックスを見せる。彼は一瞬驚いた表情をしたが黙って頷いた。
「意外?」
「いいや、不二が煙草を吸うと絵になるな」
「ありがと」
僕は彼に煙がかからないように上を向いて煙を吐き出した。白い煙は同じ色をした天井に軽やかに吸い込まれていく。
「英二は煙草駄目なんだよね。酒はいけるけど僕ほど強くないし・・・」
「それは英二が酒に弱いっていうのじゃなくて不二が底なしなだけだろ」
「酷い言い方だな」
「正直に述べただけだ」
乾は僕の抗議をあっさりとかわしてウエイターに食後の珈琲を注文した。
「越前も元気そうだね。英二が病院で会ったと聞いたよ」
「ああ、あの病院はうちの会社の系列病院だからな。越前は定期的にバイタルチェックしているんだ。」
「外科と整形外科と形成外科の設備がしっかりしてるとの評判だよ。流石だね」
「まあな、先輩プロ選手には有名な選手が多いからな」
「越前もいずれそうなるんだろうね」
「ああ……」
「楽しみだね」
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