7月の雨なら <前編>
7月ももう半ばを過ぎているというのに梅雨は明ける気配も見せず、相変わらずどんよりとした雲からしきりに雨が降り続いている。
「よりによってゴミ捨て当番の時に雨なんかやだなあ」
俺はゴミバケツを一旦床に置いて傘をさした。その時視界に入った二つの影。一本の傘に仲良く二人で入って帰っていくカップル。
華奢な女の子が濡れない様に傘をさしている男 ――――― 不二周助。俺の親友であり、そして恋人でもあった男。
「あら?あれ不二君じゃないの」
「ホントだ。隣にいる子ってたしか3組の・・・・・・」
「ええー!先月まで1組の子じゃなかったっけ」
「また飽きられちゃったんだ」
「やっぱり不二君って女の子と付き合ってヤッたらおしまいってウワサ本当だったのね」
「でも不二君みたいな格好いい人にヤッてもらえるだけでも憧れなんじゃない」
「私はいくら格好良くてもそんな人パス。やっぱり男ってハートよハート」
俺の後ろにいた同級生の女子たちの会話をこれ以上聞いていたくなくて俺は足早に焼却炉に向かった。
最近特に学内での不二の評判が悪い。
とっかえひっかえ付き合う女の子をコロコロと変えて・・・でもよくよく見てみると不二は遊びの一環みたいだし、また相手も遊びで不二に近づいている奴を選んでいる。だからお互いに交渉成立ってやつじゃないのかな。なのに世間は他人の悪口は言っても良い事は言わないもので「女たらしの不二」という悪評が付けられている。
でも不二をそんな風にしたのって俺が原因なんだから・・・・・・。
でも今の俺にはもうどうすることもできないんだ。
1年前の「あの日」もこんな雨の日だった。
* * * * * * * * * *
俺は薄暗い雨雲をぼんやりと不二の部屋から眺めていた。
「どこ見てるの?僕はここにいるのに」
俺の身体の上に乗っている不二がふいに俺の顎を掴んで視線を窓の外から目の前に居る不二に向かせた。
そう、俺達は今セックスをしている最中なのだ。
不二とこういう仲になったのが中等部2年の春でもうかれこれ3年も続いている。あの頃は俺もまだまだウブで不二にキスを迫られる度に心臓がバクバクしていつも逃げ腰になってるのをいつも不二に捕まえられて無理矢理唇を合わされたものだった。
そんなんだから初めて不二ん家に泊まりに行った時なんか大変で、不二の家族が居ないことをいいことに俺は家中逃げまくってしまって・・・でもやっぱり不二に捕まってしまってリビングでゴーカンされてしまったんだっけ。
あの時の不二って人が変わってたよな。俺が「恥ずかしい」って言ってんのに無理矢理上着の袖で手首縛りあげるし・・・。
高等部2年になってあの頃より大人になってキスも上手くなったしセックスだってこんな真昼間の明るい部屋でしてもなんの抵抗もなくなった。
――――― 本当にナンの抵抗もなくなり、そして何も思わなくなってしまった。
「・・・っ!」
不二が口に含んでいた俺のモノの先端に歯を立てた。
「痛い・・・」
「他所事考えていたでしょ、これはおしおきだよ」
そして再び歯を立てる。
「ああああっ・・・・・・」
痛みは快楽に変わり下肢から背中を通じ脳天まで駆け抜ける。
「あ、ああんっ・・・」
「僕より外の天気の方が気になるんだ」
否定はできなかった。
こんなことしてるけど俺は本当に不二のこと何も感じなくなったからだ。
感じるのはただ身体の快楽のみ。
いつからだろう君への気持ちが薄らいできたのは・・・
自分でも勝手だなあと思う。思うけど後退する気持ちは事実で・・・・・・
「あ、ああん、ふ、不二・・・もうイかせてっ・・・」
「僕の眼も見ずによくそんなことが言えるね」
不二は俺の根元を掴みながら冷ややかな目で言った。
ああやっぱり不二には俺の気持ちがお見通しなんだ。
これから俺たちはどうなるのだろう・・・・・・
「嫌でも僕のこと感じさせるよ」
「えっ!」
言うが早いかまだ慣らしてもいない俺の秘処に不二の猛ったモノが突き当てられた。
「痛いっ!!」
「そう、痛いよね。でもこうでもしないと君は他の事を考えてしまう」
無理矢理不二の腰が進められた。
「ああああっっっーーーーーーー!!!!」
あまりの激痛に自分でも信じられないくらいの大声を出してしまった。
縋るものが欲しくて咄嗟にシーツを掴んだがそれでも我慢しきれなかった。あまりの激痛に後から後から涙がこぼれる。不二を銜えている箇所は火傷をしたみたいに熱くてそれは想像を絶するものだった。
そこからの記憶は確かでない。
ぼんやりとした意識の中、唐突に不二のモノが抜かれていくのだけがわかった。
不二の部屋は心地良い。
外の高い湿度とは裏腹にエアコンでドライ設定された快適な室温。
そしてコンポから流れるヴォサ・ノヴァのゆるやかな音楽。
まるでこの部屋だけが現実世界から切り離された空間のようだ。
でも、現実は違った。
俺は動くこともできずにそのまま寝転がっているとしばらくして不二が部屋に戻って来た。
わしゃわしゃと物音がするので頭だけを不二に向けると不二はバスローブ姿で髪の毛をタオルで拭いていた。
「不二・・・シャワー浴びてたんだ・・・・・・どこに行ったのかと思った」
「―――― 自分で処理してただけだよ」
不二は冷たい口調で言い放った。俺は心の奥で何かがチクリと刺さったような感覚がした。
「英二もシャワー浴びてきたら?そのままじゃ帰れないでしょ」
俺は重たい腰を持ち上げた途端尻に激痛が走りそのまま身体をくの字に折ったままベッドの下へと転がり落ちてしまった。
――――――― まるで奈落の底にでも堕ちる感覚。
そんな俺を不二は黙って見ていた。
「イタタタタ・・・・・・」
なんとかベッドの端に掴まって身体を立て直す。
そしてそんな俺の目に映ったものは・・・・・・・・・
不二に傷つけられ、鮮血だらけになったシーツだった。
「ごめん、シーツ汚しちゃった・・・」
「君も汚れてるよ」
ほら と俺の太腿あたりを指差す。
不二に指摘された箇所を見ると秘部から流れ出た血が太腿を伝い赤黒く乾いてこびりついていた。
「ひっ・・・・・・」
自分の流した血に一瞬怯んだ。
「シーツはいいから君を洗ってきなよ」
その後浴室の全身鏡で見た自分の姿は下肢を血にまみれ、顔は涙の跡が残りまるで強姦被害者そのものだった。
「僕たちは別れた方がよさそうだね」
シャワーを浴びて、とりあえず身をきれいにした俺に不二は静かに言った。
俺は何も言えずにただ黙っていた。
「ここのところマンネリ気味だったからね。君が飽きるのも無理ないよね」
「飽きたってわけじゃないよ。ただ、不二が傍に居すぎて、不二が居るのが当たり前になって・・・・・・」
俺は言葉に詰まる。俺は不二の近くに居すぎたのかもしれない。当たり前の日常に慣れてしまい、そして俺はやっぱり不二の言うとおり"飽きて"しまったのだと思う。なんて自分勝手な感情なんだろう。それでもどこかに不二が好きだという気持ちは残っていて・・・・・・・・・・・・。
俺は窓の外を見た。相変わらず雨は降り続いている。7月も終わりに近づいているのに梅雨明け宣言も出されず、かといって雨が続く日があったりではっきりとしない季節。まるで今の自分みたいだ。
「友達に戻ろうよ、英二」
「え?」
「もう今の関係を続けるのは限界だよね。なら昔の僕たちに戻ろうよ」
俺は黙って不二を見つめた。
そして俺は静かに頭を縦に振った。
* * * * * * * * * *
それからの不二の態度には「切り替えが早いなあ」と俺は驚かされたものであった。
大体あんな別れ方したらやはり心に気にかかるもので俺はやっぱり不二を変に意識してしまっていた。
けど不二の方はクラスでも部活でも今まで通りに接してきて普通の学校生活って感じで・・・ただ二人きりの生活がなくなっただけ。本当に普通の友達に戻ったんだなあと1ヶ月も経つとそう思えるようにさえなってきた。
その頃くらいからだった。不二が言い寄ってくる女の子達と次々と付き合いだしたのは。
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