7月の雨なら <後編>  








とりあえず俺は焼却炉にゴミを放り込んで校舎に戻ってきた。
雨なので運動部の練習がなくなり帰路につく生徒達で玄関先は一杯だった。
俺は人波を逆流しながらふとさっき不二の横にいた女の子のことを思い出した。


「ああ、不二とうまくいってるんだ」











* * * * * * * * * *




1ヵ月ほど前の昼休み、図書委員の昼当番で書庫の整理をしていたら同じ当番の斉藤が近づいてきた。
「ねえねえ菊丸、ちょ〜っと聞きたいことがあるんだけどさぁ」
俺の横に立って俺を見上げながら小声で言ってくるこの女子は小学校からの馴染みで家もそこそこ近所だ。
「なんだよ斉藤、改まって。お前が改まると気持ちが悪い」
「誰が気持ち悪いのよ!」
「じゃあお前の言うことなんか聞かにゃい」
「・・・・・・私が悪うございました」
斉藤はおどけた様にぺこりと頭を下げた。
「で、何だよ」
「んー、ちょっと待っててね。涼子、いいわよ!」
斉藤が書庫の扉の影にいた女子に声をかけた。
「あれ・・・谷崎、さん・・・?」
「菊丸君、お久しぶり。覚えててくれたんだ」
「んー、中等部3年の時同じクラスだったね。で、どうしたの?」
俺がそう言ったとたん谷崎さんは顔を真っ赤にして俯いた。
なんか可愛い
ふとそんなこと考えた。谷崎さんは清楚でおとなしくてホントにお嬢様ってタイプ。何で斉藤のようなバスケ部レギュラーで男勝りなオンナと仲がいいのか解らない。
「ふ、不二君のことなんだけど・・・・・・」
谷崎さんはそう言ったまま俯いて黙ってしまった。
「不二がどうかしたの?」
その途端俺は斉藤に思いっきり足を踏まれた。
「いでー!!!斉藤っ!何すんだよっ!」
「オンナゴコロくらい理解しろっ!」
そう言われて初めて気がついた。
ああそうか、そうだったんだ。
「そうか・・・たしか不二って今フリーになったんだよね」
「不二君って最近変わったよね・・・・・・」
俺の胸に突き刺さる彼女の何気ない言葉。
「菊丸は不二君と仲いいでしょ。不二君が付き合う相手をコロコロ変えるって本当なの?」
彼女たちにとって俺と不二は"親友"のように映っているらしい。
実際そのように振舞っているのだからそのように見えて当然なのかもしれないけど。
谷崎さんは不安げな顔で俺をまるで救世主か何かのように見上げている。
今の不二にとってはこんな無垢で純粋な谷崎さんのような人がひょっとしたら救いになるかもしれない。俺は賭けに出ることにした。
「谷崎さんは本当に、中途半端な気持ちじゃなくて不二のことが好きなんだね」
彼女は黙って頷いた。
「不二が相手を変えているのは今まで不二に言い寄ったやつが遊び目的で近づいたからなんだよ。だからオンナも不二も遊びだったんだよ。お互いにね。だから谷崎さんのような純粋に想っている人ならそれなりの態度で接してくれるよ。不二は本来は優しい奴なんだから。だから思い切って不二に告ってみなよ」
「ありがとう、菊丸君」
そういって微笑んだ彼女の顔は本当に"恋する少女"だった。


その後谷崎さんから「不二と付き合うことになった」と礼を言われた。





* * * * * * * * * *




「谷崎さんが不二にとって癒しになればいいな・・・」
俺は教室で帰り支度しながらそう思った。
結局俺は他人任せにしてしまった。俺では不二を救えない。
「どうか新しい恋をして下さい」
俺は祈った。























「ほら、上がってよ。僕の部屋2階だから」
「お邪魔します」
"広い家だなあ"と涼子は不二の家の中を見まわした。
誘われるまま黙って不二の家に付いて来た。
この広い家には誰も居なかった。二人だけなんだと思うとなんだか心臓がバクバクしてきた。
「あ、あの〜」
「何?」
「お母さんとかは・・・?」
「母さん?いつもは居るんだけどな。買い物にでも行ったのかな、そのうち帰って来るから紹介するよ」
涼子は少し安堵した。不二と先月から付き合いはじめたがデートでも手を繋ぐことさえしなかった。ごく清らかな交際。菊丸の言うとおり遊びじゃないんだと思った。
不二の部屋に入ると不二はクローゼットの中からタオルを取り出した。
「ほら、制服が雨で濡れてるからこれで拭きなよ」
「ありがと」と涼子はタオルで雨飛沫のついた箇所をタオルで拭き始めた。
「キャッ・・・不二君、何やってるのよ!」
「何って、雨で濡れたから着替えているんだけど」
不二はクローゼットから私服を取り出して涼子の前で堂々と着替えていた。涼子が気が付いた時には不二はトランクス1枚の状態だった。
「わ、私後ろ向いてるから早く着替えてよねっ」
涼子は慌てて不二に背を向けた。そんな涼子の態度に不二はクスっと笑う。
「何も後ろ向かなくたっていいじゃない」
そう言うや否や不二は涼子の腕を掴み自分の方を向かせた。そのまま有無を言わせず後方のベッドに押し倒し涼子の身体に覆いかぶさる。
「ちょ、ちょっと〜!!イヤ〜ッッ!!!不二君何するの〜!」
不二に身体を押さえつけられて唯一自由な口で叫んだ。
「何純情ぶっているのさ。男の部屋に来たら何するか分かってるだろ」
「い、いやぁ〜!」
「煩い口だね」
不二は自分の唇で涼子の口を塞いだ。そのまま噛み付くようなキスをして舌を差し入れる。
「ん、んんんー!!!!」
涼子の眼から一筋の涙が頬を伝った。
初めてのキス。それも相手は中等部の頃からずっと憧れていた不二なのに。何故人が変わったような不二にこのような手荒な扱いをされなくてはならないのか。
不二の手がセーラーのリボンを乱暴にほどき胸元のファスナーを降ろした。
「やっ!!やだやだヤメテッ・・・」
セーラーの前を肌蹴させられて胸をブラジャーの上から鷲掴みにされて涼子は羞恥で泣き叫んだ。
「ふ〜ん、やっぱり胸小さいや。あお向けだから余計に無くなってるよ。まるで男の胸みたい」
不二は涼子のブラジャーを上にずり上げて露になった白い胸に顔を埋めた。目の前のピンクの乳首をぺろりと舐め上げる。
「ひゃっっっ・・・・!!!」
「こうしているとホントに男を抱いているみたいだよ。もっとも僕が抱いた男は感度も良かったし、君なんかよりずっと色気もあって好かったけどね」
涼子はハッとして不二を見上げた。開眼している不二の瞳は情欲を含んでいて、それでいて自分を軽蔑している眼差しで見下ろしている。
こんな不二は初めて見た。いやこれは自分の知っている不二ではない。涼子の身体から力が抜けた。
「どうしたの?さっきまでの勢いなくなった・・・・・・うぐっっっ!!!」
涼子の蹴りが不二の鳩尾に見事に決まった。























涼子はどうやって不二の家を飛び出してきたか覚えていない。
不二の鳩尾に蹴りを食らわして不二がひるんだ隙に逃げ出してきたことだけは確かだ。
気づけば斉藤の家の近くにまで来ていた。










Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi
「あれ?涼子じゃん、どうしたの?」
「・・・・・・・・・」
斉藤は何も言わない電話の相手に戸惑った。
携帯電話のディスプレイに表示されているのは間違いなく涼子の携帯番号。
「涼子?」
「斉ちゃん・・・近くまできてるの。今からそっちに行ってもいい?」
「いいよ。近くなの?迎えにいくよ」
斉藤は涼子の涙声にただならぬものを感じた。










「雨の日は本当に身体がなまるよな〜」
俺は一向にやみそうにない雨空を見上げた。見上げた途端冷たい雨飛沫が顔にかかる。
「うわっ、思ったより雨きついじゃん」
俺はズボンのポケットに手を突っ込んだ。しかしどちらのポケットにも何も入っていなくて・・・
「やべ、ハンカチ忘れてるよ。まあいいか。もうすぐ家なんだし」
しょうがないので俺は濡れた顔のまま帰ろうとした。すると角から急に飛び出してきた何者かが勢い良くぶつかった。
勢い良くぶつかった割りに俺はどうってことなくて逆に飛び出してきた奴の方がアスファルトに転がっていた。その転がっているのが青学のセーラーを着ていて・・・・・・
「た、谷崎さんっ!ごめんっ大丈夫!?」
とりあえず俺は転がっている谷崎さんを起こそうとした。その時
「こらー!菊丸、涼子に何やってんのよ!」
背後からの怒鳴り声。後ろを振り返ると仁王立ちの斉藤がいた。


「・・・斉ちゃん、私が前を見ずに走っていただけだから。菊丸君は悪くないから」
そう言ってのろのろと立ち上がった谷崎さんの姿は泣きはらした真っ赤な眼でセーラーのリボンはよれよれになっていて・・・・・・俺のとなりで斉藤が息を飲むのが分かった。これってもしかして・・・・・・
「涼子、遅くなってごめん。もう大丈夫だから。さあ私ん家にいこ」
斉藤は谷崎さんを抱きしめてなだめた。
「菊丸、見てんじゃないわよっ!とっとと帰った帰った」
シッシッとまるで害虫を追い払うかのように斉藤は俺を追い払おうとした。こんな場合俺も見なかったことにしてさっさと帰るのがいいんだろうけど俺の足は逆に二人に近づいていた。
「・・・・・・不二なのか?」
俺がそう言った途端谷崎さんはわあっと泣き出して斉藤にしがみついた。
「こら菊丸っ!」
斉藤がキッと俺を睨む。
「ごめん、辛いだろうけど本当のことが聞きたいんだ。本当に不二がやったのなら俺が今から不二んところに行って話つけてくる」
斉藤の首にしがみついて泣いていた谷崎さんが僅かに顔をあげて斉藤の耳元で何かを囁いた。
斉藤が辛そうな表情でゆっくりと俺の方を見た。


「菊丸も私ん家に来なよ」


























斉藤から温かいロイヤルミルクティーを貰って一口すする。事の成り行き上、斉藤の自室に3人でいるがさっきから誰も何も言わずにただ沈黙の時間が流れている。
何か気まずいよな、こーゆーのって・・・・・・。

「なあ斉藤」
「何?」
「お前の部屋って男の部屋か女の部屋か解らん・・・うがっ!」
途端クッションが俺の顔に顔面ヒットした。
「どーゆー意味よ!」
「暴力反対!なんか殺伐としててさ、かわいいキャラクター商品とかも置いてないし」
「ほっといてよっ!そーいや菊丸ん家には小学生のころに行ったことあるけどたしか大きなテディベア置いてあったよね」
「大五郎だよ」
「ふふっ、今でも置いているとか?」
「置いてるよ」
「ええーーーーっっ!!!ウッソー!信じらんないっ、高校3年男子がテディベア置いてんのっ!」
「放っといてくれよ、捨てられないんだよっ!」

「あはははははははっ・・・」

俺と斉藤は笑い声の方を見た。さっきまで黙ってミルクティーのカップを両手で持って涙を一生懸命押しこらえていた谷崎さんが俺たちのやりとりを見て声を出して笑ったのだ。
「斉ちゃんも菊丸君も面白い・・・ありがとう・・・」



そしてようやく落ち着いた谷崎さんからつい先程不二の家での大まかな話を聞かされた。
まさか不二がそんなことしたなんて・・・・・・俺は頭を鈍器で殴られたみたいにしばらく呆然とした。
目の前の斉藤は握った拳と肩が怒りで震えている。

「・・・谷崎さんごめん、俺が不二は大丈夫だなんて言ったばかりに・・・」
「そうだよ菊丸、何が本来は優しい奴なのよ!嘘ばっかり」
「・・・嘘じゃないよ。言い訳になるけど本来のあいつはこんな奴じゃないんだ。ただ俺は不二には新しい恋をしてほしくって・・・遊びじゃなくて、だから谷崎さんだったらきっと大丈夫だと思った。けどあいつ・・・」
「菊丸君、昔の不二君はあんなのじゃなかった、私が知っている不二君は何故あんな風になってしまったの?菊丸君なら何か知っているんじゃないの?」
「・・・あいつ、好きな人がいて中等部のころからずっと付き合っていたんだ。けど去年別れてしまったんだ。不二は悪くないよ。付き合っていた相手が身勝手な奴で不二のこと好きじゃなくなったんだ。それからだよ不二が次々と付き合う相手を変えてるのは・・・あいつ何も言わないけどきっと付き合う相手を次々と変えてそいつのことを忘れようとしてるんだ。不二が苦しんでいるのは解ってるけど俺にはどうする事もできないんだ。だから谷崎さんなら不二を癒してくれると思った。それがこんなことになるなんて・・・ごめん、谷崎さん」
俺は谷崎さんに向かって深々と頭を下げた。謝って済むとは思っていないけどそれ以外の方法を俺は知らない。
「中等部の頃すでに付き合っていた人がいたんだ・・・気づかなかったな。その頃の不二君ってテニステニスして菊丸達とふざけあったりしててそんなそぶりみせなかったよね」
普段元気な斉藤も俯き加減でつぶやいた。そりゃそうだ、付き合っていたのが俺なんだから傍から見たらただの仲良しテニス部員なんだろう。不二が女連れで歩いていたらそりゃ目立つって。
俺は意を決意して立ち上がった。
「不二君のところに行くの?菊丸」
「ああ、男女が同意の上での遊びなら不二の勝手なんだろうけど・・・もう谷崎さんみたいな人を増やしたくないし・・・それにこんなことしてても不二は救われないよ。だから俺行って来る」
「行ってどうすんのよっ!涼子に謝れとか言うの?」
「謝ってもらってそんで二度とこんなことをしないでくれと頼むよ」
俺はそのまま斉藤の家を飛び出そうとしたがその腕を谷崎さんの手によって掴まれていた。
「谷崎さん・・・」
「斉ちゃんごめん、ちょっと菊丸君に聞きたいことあって・・・二人にしてくれるかな」




斉藤が出て行った部屋で俺と谷崎さんは向かい合って座った。
「ごめんね菊丸君、さっきの不二君の中等部の話聞いていたらなんとなく頭の中のジグソーパズルが次々とはまっていっちゃって・・・それで・・・」
「ジグソーパズル・・・?」
「不二君に押し倒されたときに不二君がかつて男を抱いたことがあるって言ってた。すごく良かったんだってその男が。それで菊丸君のさっきの話でずっと付き合っていた人のことが忘れられないっていうので不二君の忘れられない人ってのがその男の人かなって思ったの・・・違う?」
不二が谷崎さんにそんなこと言ってるなんて思ってもみなかった。不二がそこまで重症だったなんて・・・・・・。
「谷崎さん、口外しないって約束してくれる?」
「勿論、私のことも口外しないよね?」
「ああ。ぶっちゃけた話、不二が言ってた男って俺のことだよ。俺たち中等部2年の頃から付き合っていて、でも俺の身勝手で去年の今頃別れたよ。それからはごく普通の友達。付き合ってた頃は俺、何度も不二に抱かれたよ。あ、軽蔑した?別にいいよ。俺男なのに同じ男の不二に抱かれて好かったのは事実だから」
俺は洗いざらい谷崎さんに話した。谷崎さんはただ黙って話を聞いていた。
「不二君と菊丸君の話にはびっくりしたけど・・・・・・けど不二君は今でも菊丸君のことを想っているわ」
「でも俺はもう不二の気持ちに応えることできないんだ」
「・・・難しいね。人の想いって」


















「どうしたんだい英二?改まっちゃってさ」
俺は不二の部屋で正座をしてベッドに座っている不二を見上げた。
「さっき・・・谷崎さんに偶然会った」
「へえ〜、で、泣きつかれたとか」
俺は何も言わずに立ち上がって勢いよく不二の首筋に抱きついた。そのまま転がり込むように二人してベッドになだれ込む。
「俺はもうこれ以上不二が学校で悪く言われるのを聞いていたくない。だから女の子を遊びの対象にしたり性欲のはけ口にするんなら俺を抱けよ!」
「英二、自分の言っている意味解ってるの?」
「解ってるさ!学校の女の子をおもちゃのように扱うなら俺の身体をおもちゃにしろよ。俺の身体ならいつでも貸してやるからさ」
「いつからそんなフェミニストになったのかな英二は?」
「違うよ、これ以上不二の悪い噂を聞きたくないんだよ」
「ふ〜ん、僕のこと好きでもないのによくそんなこと言えるね」
「・・・友達として"好き"だからさ。大好きな友達が悪く言われるのは聞きたくない」
「じゃあ、君の友情にちょっと甘えさせてもらおうかな」
言うが早いか、不二の冷たい手がカッターシャツの裾から入ってきて俺の胸元を弄りはじめた。
「あっ・・・・・・」
「触っただけで感じてるんだ。相変わらずイヤラシイ身体だね」
不二の両手がシャツの中に入り込んできてそのまま中から無理矢理シャツを左右に開いた。
パラパラとボタンが弾ける音を聞きながら俺は胸元を肌蹴させられて只だまって不二のされるがままになっていた。
「痛いっ・・・・・・」
胸の突起を思いっきり噛みつかれて俺は大きな声を出してしまう。
「痛いの?でも君は僕のおもちゃになってくれるんでしょ」
そうだった。今の俺は不二のおもちゃ、性欲処理の道具にしか過ぎないんだ。
「綺麗な身体だね。誰としてるの?」
「え?」
不二が俺の顎を掴んで俺の顔を覗きこんだ。
「ねえ、誰とSEXしてるの?」
「し、してないっ!誰ともしてないよ」
「ふ〜ん、そうなんだ。てっきり大石あたりが手を出してると思ったけどなあ」
「大石とはそんな関係じゃ・・・あ、ああっっっ!!!」
不二の空いているほうの手が俺のズボンの中に滑り込みまだ反応していない俺自身をきつく握りこんだ。
「あっっ・・・ああっっっ、不二っ、て、手を動かしてっ!」
握ったままで何もしない不二に痺れを切らして俺は不二に懇願した。すると不二は俺のズボンのベルトを外し、ズボンを下着ごと足から抜き取った。
「うつ伏せになってお尻だけこっちに向けてよ」
「え?」
「え、じゃないよ。君を気持ち良くしてどうするんだよ。僕が気持ち良くしてもらう立場なのにさ」
そうだった。俺が不二に好くしてもらってどうするんだ。俺は中途半端に煽られた身体をうつ伏せにして腰を不二に突き出した。
「あああああああっっっっーーーーーー!!!!」
何の前触れもなく不二のモノが俺の秘部に突き入れられ俺はあまりの激痛に目の前にあった枕を掴んだ。
慣らされていないせいか結合部分からめりめりという嫌な音が背中を伝って脳に響いてくる。
「そんなに締め付けたら痛いじゃない」
不二の冷ややかな声もどこか遠くで響いているようにすら感じてくる。まるで全身の血の気が失せた様な感覚になり頭がぼうっとしてくる。なのに無理矢理不二を受け入れている箇所だけは熱くって、裂けて流れ出た血が皮肉なことに潤滑油の役割をして、激しく抜き差しする不二の腰の振動がぼんやりとした頭にダイレクトに響いて・・・・・・
「・・・ふ、不二は気持ちいい?」
気を抜けば飛んで行きそうになる意識を必死で繋ぎとめて俺は不二に問うた。
「ああいいよ。でも君ももっと腰を振ったら?そしたらもっともっといいのに」
俺は力の殆ど入らない身体を起こして腰を振った。不二が感じられるように。不二がもっと気持ちよくなれるように・・・・・・
「どう?不二、気持ちいい?」
「ああ、いいよ」




そしてそのまま俺は意識をなくしてしまった。













身体が少し宙に浮いた感覚で俺の意識は戻った。けど全身がだるいし頭はぼうっとしてるわでうっすらと眼を開けることしかできなかった。そのうっすらぼんやりした視界に映ったものは至近距離の不二。不二は意識のなくなった俺をベッドの上で座ったまま横抱きに抱いていた。
「・・・英二、ごめん」
え、何今の?不二が謝った・・・?
俺は不二のひざの上で黙って聞いていたら今度はぎゅううって抱きしめられた。
俺を抱きしめている不二の身体は小刻みに震えていて・・・これってもしかして・・・不二って・・・
不二が俺に口付けてきた。とてもやさしいキス。
昔よく不二がしてくれたキス。
「・・・英二、ごめん。今でも君が好きだよ。・・・とても忘れることなんかできないよ・・・」
不二の声が震えている。
「・・・こんな風に君を傷付けたいわけじゃないのに・・・・・・」
俺の顔に水滴が落ちてきた。
だんだんとはっきりしてくる俺の視界。
不二は泣いていた。



「不二、泣かないで・・・」
俺はやっとこさ口を開くことができた。
「英二!?」
重い身体を起こそうと身をよじったら不二が起こしてくれた。
そのまま俺は不二に抱きついて首に縋りついた。
「英二、英二・・・ごめん・・・」
不二が俺の肩口に顔を埋めて泣いている。
不二が泣くのを俺は初めて見た。


















「どう?不二、気持ちいい?」
「ああ、いいよ」
一心不乱に腰を振る英二。久しぶりに見たその姿が艶かしくて僕はすぐに英二の中で達してしまった。
英二は役目を終えたと云わんばかりに身体をシーツに沈め、そのまま意識をなくしてしまった。
僕は英二の中から自身を引き抜いた。
英二の秘部からは僕の精液とともに血が溢れ出てきた。その生々しさに僕も一瞬怯む。そして僕の陰茎も英二の血で真っ赤に染まっていた。
英二は血の気を失った青い顔で倒れている。
英二は何故僕に身体を預けてきたの?
たしかに学校で僕の評判が悪くなってるくらい知っている。
でも、だからって、たかが"友達"の為にそこまで出来るの?
僕は英二を抱きかかえた。
「・・・英二、ごめん」
そして僕は英二にそっとキスをした。
行為の最中にはしなかったキス
何故か英二の唇だけは神聖な気がして触れられなかった。
こうしてキスをして、こうして僕の腕の中にいる君なのにそれでも君の心はここにはない。
「・・・英二、ごめん。今でも君が好きだよ。・・・とても忘れることなんかできないよ・・・」
他の誰と付き合っても他の誰をこの手に抱いても、想うのはいつも英二のことばかりだった。
「・・・こんな風に君を傷付けたいわけじゃないのに・・・・・・」
視界がだんだん霞んでくる。
胸の奥の熱いものがこみ上げてきて目の前で弾けた。
頬を伝う涙は僕の胸に抱いている英二の顔に落ちていく。

「不二、泣かないで・・・」

英二のか細い声が聞こえた。ひょっとして起きてたの!
英二は身じろきをした。どうやら起きようとしているらしい。僕がそっと起こしてやると英二は僕に抱きついてきた。
「英二、英二・・・ごめん・・・」
無意識のうちに僕は英二の肩口に顔を埋めて泣いていた。

こんなに悲しくてこんなに涙を流したのは初めてかもしれない。


英二は黙って僕の頭と背中に手をまわしてまるで包み込むかのようにそっと抱き寄せた。
今の君にはそんな力も残ってないのに・・・・・・
何故君はこんなにやさしいの?
僕にこんなにひどい目にあわされているのに。
僕が惨めに思えるじゃない・・・・・・



英二はただ黙っている。
けど僕を包んでいるその腕は温かくて

何故こんな僕を許してくれるの?

静かな部屋には僕の嗚咽と外の雨音だけが響いている。
僕の涙も外の雨同様止みそうにもなくて
僕だって解ってるよ。
このままでは救われないことぐらい。
それが解りながら同じ場所を堂々巡りしているのは単なる僕の甘え。
でも・・・今だけ君の身体で泣かせてよ。
君への想いはこの涙と共に全部流してしまうから。


「7月の雨は梅雨明けを告げる雨」

こんな表現を聞いたことがある。
僕の涙が7月の雨なら、僕にも"梅雨明け"はやってくる。
梅雨明けの後に待っているのはきっと眩しいばかりの夏の空。



7月の雨なら一人歩き出せるかも―――――


























他人は自分を救えません。
だから他人に救ってもらおうと思っても思うようにはいきません。
他人の言葉や行動が癒しやきっかけになることはあったとしても、
結局前に進むのは"自分の足"なんです。














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