| 〜 ten years after 〜 10年後の日常
 
 † ignite 1 †
 
 
 
 
 実家から家に戻っていつも通りの日常が始まった。
 仕事や家事に追われているうちに不二の事も落ち着いて考えられるようになった。
 不二が三週間いないのははっきりいて有り難かった。
 ひとりで考える事ができる。
 
 俺の気持ちは以前と変わらない。
 ホモは嫌いだけど不二は嫌いじゃない。
 だから友達でいる。
 
 俺に対して特別な気持ちがあるとのことだけど
 でも俺は不二を一線を越えた関係として受け入れることはできない。
 友達のままで・・・
 
 だから不二が日本に戻ってきたらきっぱりと言うつもりだ。
 「気持ちは有り難いけど俺は男を恋愛対象で受け入れられない。だから今まで通り友達でいてほしい」
 
 
 不二が日本に戻ってくるまであと3日―――
 
 
 そんな時佐伯から電話があった。
 
 「よお、菊丸。不二どうしてる?」
 「不二ならタイに出張中だよ」
 「なんだ〜、出張中かよ。ボジョレーが入ったら飲ませろって言ってたくせに連絡繋がらねーんだよな」
 「不二の携帯って海外対応なんだけどな」
 「違う、向こうがずっと電源切ってるかマナーモードにしてるみたいで留守電入れてもメール送っても返事ないんだよ。きっと忙しいんだな。じゃあ菊丸お前1人で飲みに来るか?不二は後回しにして菊丸の快気祝いやってやるぜ」
 「今年のボジョレー!さっすが佐伯!行く!」
 
 
 
 
 
 
 
 * * * * * * * * * *
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「今年はフランスは酷暑だったんだ。でも葡萄にとってはその酷暑で糖分が多くなって甘くてまろやかなボジョレーが出来たんだ」
 佐伯の説明を聞きながらグラスに注がれた赤ワインを一口飲んでみる。
 「美味い!」
 「だろ。今年の夏は暑かったけどこういう楽しみもあるんだぜ」
 「じゃあ菊丸の快気祝いに乾杯!」
 「サンキュ」
 俺は差し出されたグラスに自分のグラスを軽く当てて応えた。
 「しかしなあ・・・・・・」
 佐伯が俺の顔をまじまじと見つめた。
 「何?」
 「右頬の傷、切り傷に見えるな。とても銃弾を掠ったなんて見えないや」
 「だろ?」
 「その傷、残るのか?」
 「判らない」
 「オトコマエの顔が台無しだな。お前外回りの仕事しているんだから顔も重要だぜ。今は形成外科もある病院があるから傷が残るなら形成外科に行ったらいいんじゃないのか?」
 「形成外科?」
 「TVでラグビーの選手が言ってたけど。ラグビーの試合で傷だらけになっても形成外科に行って怪我のあとをなくしてくれる外科だとさ。それくらいの切り傷ならきれいに治してくれるだろうぜ。その選手○○製鋼の選手だったんだけど○○製鋼の系列の病院に形成外科があるらしいぜ」
 「そっか。そんな外科があるんだ。そういや今のサッカー選手やラグビー選手って激しいスポーツの割りに傷もなくきれいだなって思ったんだよ」
 「でもそうしてると昔を思い出した」
 「昔?」
 「そ、中学3年の関東大会の時、お前不二とペア組んで俺たちと対戦したじゃん。あの頃の菊丸ってアクロバティックな動きの所為か生傷多くて確か同じ場所にバンソコウ貼って出てきたよな」
 そうだった。昔の写真を見たら俺はいつもどこかにバンソコウを貼っている。
 そしてそれがいつの間にかトレードマークになっていた。
 「あー、ついでに不二に負けた事も思い出した!悔しいぜ。シングルスならともかくダブルスで負けるなんてさ。しかし菊丸、よく不二なんかとダブルス組んで勝てたよな」
 「不二とは同じクラスだったしどんなプレイスタイルなのかという以上に不二の事理解してたから組めたと思うよ」
 そうだ、不二のことは大石並に理解していた。それに不二は“天才”だから俺だって安心してプレイ出来たんだ。
 安心して任せられたんだ・・・・・・
 「どうしたんだ?急に黙ってしまって・・・?」
 「あ、いや・・・何でもない」
 不二の話題を言われるとどうしても告白された時のことを思い出してしまう。
 意識しないようにと思っても佐伯から「不二」の名前を言われると無理矢理押し込めていた言われようのない感情が湧き上がってきてしまう。
 不二とは友達なんだ。
 
 
 
 
 「・・・る、菊丸ってば!」
 「あ、・・・佐伯?」
 「どうしたんだ?上の空で?何かあったのか?」
 「いいや、何でもない」
 「ひょっとして・・・これか?」
 と佐伯はニヤリと笑って小指を立てた。
 「合コンで狙ってた女を逃してしまったとか?」
 「違うよ・・・」
 俺は溜息ついた。そういや大学時代って佐伯に合コンでの失敗談とかよく聞いてもらったな。
 「そっか・・・俺でよけりゃ話くらいは聞いてやるぜ」
 「あのさ、中等部の話なんで佐伯は知らないけど同じクラスだった人に最近偶然再会したんだ。で、実はその人に告白されてしまったんだ」
 「いいじゃん、お前モテるじゃん」
 「でもさ、俺はその人のこと友達としか見れないんだ。友達以上にはとても考えられない」
 「ふ〜ん、その人って可愛い?それとも綺麗系?」
 「・・・・・・どちらかと言えば綺麗、かな?」
 「綺麗な人なら別にいいじゃねーか、何悩んでんだよ、とりあえず付き合ってみたらどうだ?」
 「顔で判断するなよ!」
 「悪い、顔で好きになったらいけないよな、やっぱハートだよな」
 「ああ」
 「で、菊丸は何でその美人のことを友達としか見れないんだ?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 
 
 やっぱとても言えない。
 その相手が不二だなんて。
 
 
 
 「別のボジョレー・ヌーボーを飲んでみるか?」
 しばらく沈黙が続いた後、佐伯が湿った空気を一掃するかのように言ってくれた。
 「ありがと、頂くよ」
 今度のボジョレーはさっき飲んだのより酸味があった。
 
 
 「菊丸、さっきの話だけどとりあえず友達としてから付き合ってみるのもいいんじゃないのかな。いきなり告白されていきなり恋愛しましょうってのも無理あるだろ」
 「・・・・・・・・・」
 もう既に友達だよ!と言いたいのをかろうじて堪える。
 佐伯は何も知らないから好き勝手言えるんだ。
 しかしなんだか顔が火照ってきた。
 俺、顔が真っ赤かもしれない。
 
 
 「菊丸、もうまどろっこしいのはやめにしよう」
 「へ?」
 「その、さっきのお前に告った同級生って俺も知っている人だろ!?」
 「・・・それは」
 「お前そんなに不二のことが嫌なのか!?」
 「え・・・?」
 その名前を出されて心臓を鷲掴みにされた感覚がした。
 呼吸が苦しくなる。
 そして体が熱い・・・・・・
 
 「そうか、あいつやっと告白したんだな」
 「佐伯・・・知ってたんだ」
 「伊達に幼馴染みはやってないぜ」
 「なら話は早い。不二に告白されたよ。でも不二は男だ」
 「不二は好きだけど友達としての好き。不二がいくら愛してくれようが男だから菊丸は不二を恋愛対象として受け入れられないってことなんだ」
 「そうだよ。俺はホモじゃない」
 「ホモとかゲイとか抜きにして“不二周助”として見た事はあるのかよ」
 「・・・ダメだ!不二とあんなこと・・・・・・・・・」
 キスされて押し倒された記憶が鮮明に甦る。
 男にあんなことされて・・・
 「あんなこと?」
 「あ、いや何でもない」
 「押し倒されたのか?」
 「・・・・・・・・・」
 「図星だな。不二もヤルときはヤルもんだな」
 「最後までヤッてないよ。未遂だよ」
 「つまり菊丸は不二を受け入れる事が怖いんだろ?」
 「そんなことない!大体男同士であんなことなんて・・・俺には理解できない」
 「じゃあ理解してみるか?」
 なんだか頭がボーっとしてきた。
 佐伯は一体何を言っているんだ。
 幼馴染みの不二を庇う気持ちは解るけど・・・・・・
 
 「一度ヤラれてみたら考え方変わるかもしれないぜ」
 
 頭と体が熱い。
 風邪でもひいたのかな?
 佐伯が言っている事が解らない。
 
 「そろそろ効いてきたみたいだな」
 「効いてきたって何が?」
 「さっきのワインに薬を混ぜたんだ」
 「薬?」
 「そう・・・媚薬をね」
 
 び、媚薬!?
 佐伯が立ち上がって上着を脱いだ。
 何故だかわからないけど本能で危険だと思った。
 佐伯が近づいてくるけど体が思うように動かない。
 そして佐伯は俺の正面に座るとゆっくりと顔を近づけてきた。
 唇が重なる。
 吸い上げられ舌を差し込まれて絡めとられた。
 
 「佐伯、何を!?」
 「俺もなんだよ」
 「え?」
 「今まで黙っていたけど俺もホモだったんだよ。そして菊丸、お前を狙ってた。不二がいたから諦めていたけど考えが変わった。お前の初めては俺が頂く」
 
 えええええーーーーーー!!!!
 ちょっと待てっ・・・
 
 佐伯もホモ!?
 
 
 そして俺を頂くって・・・・・・
 
 
 
 
 
 
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