| 〜 ten years after 〜 10年後の日常
 
 † Eyes †
 
 
 
 
 「コーヒーと紅茶かどちらがいいか?それとも緑茶にするか?」「何でもいいっス」
 「・・・どれかに決めてくれ」
 「じゃあコーヒー」
 
 
 手塚が出て行った部屋でリョーマはぐるりと部屋を眺めた。
 手塚の自宅の手塚の部屋。学生時代に他の先輩たちと遊びに来た事があったけど社会人になってからは初めてだった。
 昔と変わらず壁には山の写真が飾られルアーや釣り道具を入れるガラスケースも置かれていたが、さすがにもう勉強机は置いていなくてパソコンデスクが代わりに置かれている。
 
 
 リョーマが退院して二週間経って今まで通りの生活に戻れて順調になった頃を見計らって手塚が快気祝いだとリョーマを六本木のフレンチレストランに連れて行った。
 手塚にしてはめずらしくレストランをあらかじめ予約してコース料理まで予約していた。
 アベリティフ(食前酒)を飲みながら目の前に差し出されたアミューズグールの野菜の生ハム巻きを眺めてリョーマがぼそりと言った。
 「手塚先輩よくこんなお洒落な店を見つけてきましたね」
 「・・・・・・本当の事を言うと木下さんに教えてもらったのだ」
 「敏腕なマネージャーさんがいて良かったですね」
 「まあな・・・」
 次々出てくる料理に舌鼓を打ちリョーマは満足して食事を終えた。
 時計を見れば8時過ぎだったということもありリョーマは誘われるまま手塚の自宅に招待された。
 手塚の自宅は誰も居なかった。
 
 
 
 手塚がコーヒーを入れたカップを持って部屋に入ってきたのでたちまち部屋がコーヒーの香りに包まれた。
 「家族はいないんですか?」
 リョーマは手塚からコーヒーカップを受け取りながら訊ねた。
 「ああ、両親は温泉旅行に行っている。戻ってくるのは明後日だ」
 誰も居ないと聞いてリョーマの心臓は高鳴った。
 未だ手塚が何を考えているかわからないので期待をするのはいけないのだがシンとした家に二人だけで居るとなると妙に意識をしてしまう。
 「どうした?飲まないのか?」
 コーヒーカップを持ったままじっと水面を眺めているリョーマを不振に思ったのか手塚が声を掛ける。
 「あ、いえ・・・俺、ネコなんです」
 「猫?」
 手塚が怪訝そうな顔をする。
 「猫舌なんです!!!」
 リョーマがあわてて言った。そういや男同士の世界で抱かれる立場は通称ネコだというのだったとリョーマは考える。それを手塚が理解しているのかどうかは不可解だが。
 「・・・そういや越前は猫っぽいな」
 「どーゆー意味です?」
 「大きな目で、それでいて鋭いし、試合中はまるで獲物を狙っているみたいな表情だ」
 「長年猫を飼っているんで似たのかも・・・」
 そう言ってリョーマは携帯電話のディスプレイを手塚に見せた。そこには愛猫カルピンの写真が壁紙設定にされていた。
 「これは越前が飼っている猫なのか?」
 「ええ、もう10数年生きてますよ。さすがに最近は年とった所為で寝てばっかりいるって実家の親から聞いたんですけど・・・」
 「そうか・・・・・・」
 
 
 
 そのまま会話が続かず沈黙が続いた。
 元々饒舌な二人ではない。
 ただコーヒーを飲む音だけが部屋に響いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「見合いをしたんだ・・・」
 「え?」
 突然手塚が口を開いた。
 「所属会社の上役のお嬢さんだったから断れなかった・・・」
 「・・・・・・・・・」
 「何度か会ってみて今もお付き合いが続いている。幼稚園から名門のお嬢様学校に行ってたので俺には申し分ない立派なお嬢さんだ。それでいてお嬢様によくある我侭でもないし控えめで上品だ。ご両親の躾が余程良かったのだろう」
 突然の事にリョーマは頭を強打された間隔に陥った。
 手塚が見合い・・・
 そりゃ手塚のように文武両道で将来性もあって外見もよければ周りの大人たちが放っているはずがないだろう。リョーマは平静を装いながらもカップを持つ手が震えていた。
 「実は今日越前を連れて行ったレストランは木下さんが俺と彼女の為に用意してくれたものだったんだ」
 「え・・・?」
 「けど俺は彼女ではなく越前を連れて行きたかったんだ」
 「・・・・・・・・・」
 「・・・彼女は確かに素敵な女性だ。だが彼女といる時は何故か越前、お前のことばかり考えてしまう」
 「・・・手塚先輩」
 「2年前、俺をまっすぐに見たお前のその目が忘れられないんだ。その、まっすぐ射抜くお前の瞳が・・・俺は気付いた、越前は本当に俺のこと心から愛してくれたんだと、そして人から愛されるということがこんなに胸を打たれるものだと初めて知った」
 「・・・手塚先輩、でも俺は男ですよ」
 「男でも女でも俺は本当に俺のことを愛してくれる人に応えたい。見合いをしてはじめて気付いたよ自分の本当の気持ちが・・・」
 手塚は持っていたコーヒーカップをテーブルに置いてリョーマをまっすぐに見た。
 「越前、俺もお前が好きだ」
 「手塚先輩・・・」
 手塚がリョーマの傍にやってきてそっと軽く抱きしめる。リョーマも両腕を手塚の背中にまわしてぎゅっと抱きしめ返した。
 「嬉しい・・・手塚先輩が、俺のこと・・・・・・」
 全部言い終わらないうちにリョーマは手塚に口付ける。軽くついばむキスから舌を絡めあう濃厚なキスになり二人の舌の絡むぴちゃぴちゃという水音が部屋に響いた。
 「越前・・・」
 手塚は抱きしめていたリョーマを一旦解放するとおもむろに立ち上がって眼鏡を外してパソコンデスクに置いた。
 眼鏡を外した綺麗な瞳の手塚がまっすぐリョーマを見つめている。
 リョーマはその意図を解釈して手塚に微笑んだ。
 「いいっスよ、手塚先輩」
 そしてリョーマは自分が着ている上着のボタンをひとつひとつ外しはじめた。
 
 
 
 
 
 
 
 * * * * * * * * * *
 
 
 
 
 
 
 「あ・・・はぁんっ・・・・あっ・・・」
 手塚がぎこちないが優しいキスをリョーマの首筋から胸にかけておとしていく、そして左胸の突起に到達して軽く歯を立てた。
 「ひゃんっ!!!」
 「随分と色っぽい声を出すんだな」
 「手塚せんぱ・・・ああっ!・・・・・・が出させ・・・てるんじゃ・・・・・・はあっっ・・・」
 2年前のSEXの時はリョーマの一歩通行の気持ちだった。だが今は違う。リョーマは手塚の事が好きで手塚もリョーマのことが好きで、手塚に好かれていると解った今、リョーマは躰だけでなく心でも手塚の愛を感じ取っていた。今のリョーマは手塚と相思相愛になれた喜びで手塚の吐息が躰に掛かるだけで敏感に反応してる。
 リョーマは自分の上で自分の乳首を舌で弄んでいる手塚の髪を撫でながら与えられる快感とともに幸せに浸っていた。
 「手塚先輩・・・俺、幸せ。もう二度と先輩とこんなことできないって思っていたから・・・・・・」
 手塚に与えられる刺激によって下腹部に熱が集中していくのが分かりリョーマは腰をくねらせた。
 「凄いな・・・」
 手塚は腹に当たるリョーマの欲望をそっと見た。それは既に熱を帯びて天を仰ぎ先端の窪みから先走りの蜜をたらしてすでにトロトロになっていた。
 手塚は躰の位置をずらしてリョーマ自身の先端に軽く口付ける。
 「やんっ・・・」
 突然の直接的な刺激にリョーマの腰がうねる。手塚はリョーマ自身をしっかりと握って根元に舌を這わせて舐め上げた。
 「や、やだっ・・・手塚せんぱっ・・・あんっ」
 「眼鏡を外していてよく見えないんだ。よく見せてくれ・・・」
 「やだっ・・・そんなトコ見なくても・・・はあっ・・・は、はずか・・・しい・・・」
 自分でするのとは比べ物にならない快楽にリョーマは頭がぼうっとする。理性を飛ばして身も心も手塚に委ねようとした思ったその時リョーマは自身に手塚の手とは違う別の熱を感じた。顔を起こして下腹部を見るとリョーマに手塚のはちきれんばかりのペニスが添えられていた。
 「手塚先輩・・・?」
 「すまん、お前の勃っているモノを見ていたら我慢できなくなった。一度抜いておくぞ」
 そう言って手塚はリョーマを対面に座らせてリョーマと自分のペニスをまとめて掴んで上下に扱き始めた。手塚の欲を直接感じながらリョーマは快感でぼんやりとした頭で手塚の手の中に収まっている2本のペニスを眺める。
 手塚がこんなに欲にまみれている姿を見せてくれるとは思わなかった。本能のままリョーマを貪り本能のまま躰を反応させている。
 「俺もやります」
 リョーマも自分と手塚のペニスを握りこみ手塚と同じ手の動きを始めた。
 「くっ・・・」
 手塚が苦しそうな声を出した。
 「え、越前・・・出すぞ」
 リョーマの手の中の手塚が一瞬大きく脈を打った。
 「ハア・・・」
 そして勢い良く白濁液を飛ばした。
 「くっ・・・」
 リョーマも少し遅れて射精をした。
 
 
 
 
 
 
 射精後の倦怠感で二人はそのままベッドに横になった。
 お互いの腹や胸に精液が飛び散っているのもお構いなしで横向きのまま抱き合う。
 「手塚先輩がイク顔って格好いいや・・・」
 「そうか?」
 「手塚先輩は眼鏡外しているから俺の顔は良く見えてなかったんでしょ」
 「まあな・・・だから越前の顔をよく見せてくれ」
 そう言った手塚がいきなりリョーマに口付けてきた。
 「あ・・・」
 何かを言いかけたリョーマの口をすばやく塞ぎ角度を変えてしばらくお互いの口を貪りあう。
 「・・・はあ・・・・・・」
 「知らなかった。手塚先輩ってイヤラシかったんだ」
 「お前が煽るからだ」
 「好きな人の前なんだから仕方ないじゃん」
 そして今度はリョーマの方から軽くちゅっと口付けた。
 「ねえ先輩、シテ・・・」
 「ああ、そうだな」
 手塚は起き上がってベッドから降りるとタンスの引き出しから何かを取り出した。
 「へえ〜、用意いいじゃん。俺を抱く気満々で今日誘ったんだ」
 「まあな」
 手塚の手に握られていたのは活性油のクリームとコンドームだった。
 「いくぞ」
 手塚はクリームを手にとってリョーマの後孔に塗りたくった。
 「うあっ・・・」
 まだ一本しか指を入れていないのにリョーマの後孔は手塚を締め付けリョーマも異物感で苦しげな声を出した。
 「力抜いていろ」
 「うん・・・」
 手塚の指が抜差しを繰り返しリョーマもだんだんと手塚の指を感じ始めてきた。
 「あ・・・もっと奥・・・・・・こすって・・・」
 クリームが浸透して段々ほぐれてきたのを指で感じ取った手塚は指を二本に増やした。
 「ひゃんっ!」
 手塚の中指がリョーマのポイントを突いたらしくリョーマが今までにない嬌声を上げる。
 「やあっ・・・んあっ・・・いやっ・・・ちがっ・・・・・・それ、違うっ・・・」
 「痛いのか?」
 手塚が素早く指を抜いた。
 リョーマはふうっと大きく息を吐き出して手塚を睨みつける。
 「痛いんじゃなくてその逆っ!」
 「『それ違う』って言ったじゃないか」
 「指じゃ物足りなくなったんだよ・・・俺が欲しいのはこれっ!」
 言うや否やリョーマは手塚の半勃ちのペニスを引っ張った。
 「痛っ!何をする越前!」
 「早くこれ頂戴!」
 リョーマが引っ張って刺激を与えた所為か手塚のそれはいきなり腹に付く位上を向いた。
 「越前・・・」
 手塚は呆れたような顔で自分の下半身とリョーマの顔を交互に眺めた後コンドームの袋を破って中身を取り出してしっかりと天を仰いでいる手塚自身に被せた。
 「入れるぞ」
 手塚は自分の根本をしっかり握ってリョーマの後孔へあてがった。
 「ひっ・・・」
 先端が入っただけでリョーマが嬌声を上げる。
 「あああああーーーーーーっっ!」
 一気に根本まで突き入れた。リョーマはうっとりとした顔で手塚を見上げた。
 「手塚先輩・・・またひとつになれたね。嬉しい・・・」
 「ああ」
 手塚が躰を屈めて軽くリョーマにキスをした。
 「そういや2年前もこうやってキスしてくれたよね・・・手塚先輩からキス貰えるなんて思っていなかったからびっくりした」
 「・・・あの時はあまりにもお前が一生懸命で可愛かったから・・・つい。いきなりのことで何がなんだかわからないままお前を抱いてしまったが何故だかあの時はお前を見ていたら急にキスをしたくなった」
 「俺、そんなに煽るの上手?」
 「ああ、今などぞくぞくする」
 「ひゃんっ・・・い、今、先輩・・・俺の中で大きくなった。どくどくしているのが分かる」
 リョーマがびくびくと躰を振るわせる。仰向けに寝て大きく広げて手塚を受け入れている足を手塚の腰に絡みつかせる。中心のリョーマ自身は再び上を向いて先端からトロトロと蜜を垂らしはじめた。
 「動くぞ」
 手塚が律動を開始して部屋にぐちゅぐちゅといういやらしい水音が響く、手塚が貫くたびにリョーマのポイントに当たるらしくその度にびくびくと躰をよじらせた。
 「ああっ・・・そこっ、そこっ!・・・ああっ」
 「ここか?」
 「あうっ、あっ・・・」
 「イイトコロに当たっているのか?」
 「いいっ・・・いいよっ・・・あっ、あたるっ・・・あたるっ、よぉっ・・・」
 リョーマは理性を投げ捨て快楽に身を預けた。リョーマ自身ははちきれんばかりに大きくなり先端は先走りの蜜でヌルヌルしながらひくついている。絶頂が近い。
 「越前だって十分イヤラシイじゃないか」
 快楽に身を投じて手塚からの刺激に躰を振るわせるリョーマを見て手塚はリョーマ自身を掴んで先端を親指の腹でぐりぐりと刺激を与えた。
 「あ、だめ・・・いっちゃ・・・っ!」
 リョーマの背中から脳天にかけて電流が走りリョーマは手塚の手の中に二度目の欲を吐き出した。
 「っ、あっ・・・・・・はっ、はっ」
 リョーマが肩で荒い息を吐いて呼吸を整える。手塚は自身を挿れたままそんなリョーマを眺めていた。
 「越前、悪いがもう少し付き合ってもらうぞ」
 手塚が律動を再開した。再び突きあがる快楽にリョーマはぐったりとしながらも手塚を受け入れていた。手塚を受け入れながらぼんやりと考える。このままずっと手塚と繋がっていたい。無理な話だが一秒でも長くこうしていたいと思った。
 「手塚先輩・・・」
 「何だ?」
 「愛してます」
 「俺もだ・・・」
 「『俺もだ』じゃなくてちゃんと言葉で言ってください」
 「愛している、越前」
 「ありがとうございます」
 リョーマは満足げに目を瞑った。
 直後手塚が絶頂を迎えた。
 
 そして二人は朝まで何度も何度もお互いの気持ちを確かめ合った。
 
 
 
 
 
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