| 〜 ten years after 〜 10年後の日常
 
 † dinner 2 †
 
 
 
 
 いつものように社員寮の食堂で夕食を摂っていたら目の前で食っていた俺の専属トレーナーのポケットの携帯電話の着信音がが短く鳴ってすぐに切れた。「乾さん、電話鳴っていましたよ」
 「ああ、電話じゃないよメールだよ」
 俺の専属トレーナーであり、中学高校時代のテニス部の先輩でもあるこの長身の男はそれなのに携帯を無視して黙々と食事をしている。
 「メール見なくていいんですか?急ぎの用事かもしれないしアンタのことだから誰かからの重要な情報かもしれないじゃないですか」
 「越前、心配は無用だよ。急用ならメールじゃなくて直接電話を掛けてくるだろうし俺は相手によって着信音を変えているんだ。だから着信音で誰からのメールか分かる。このメールなら別に急ぎの用じゃなさそうだから後でゆっくり見ることにするんだ」
 「へえ、急ぎじゃないってことまで分かるんスか?」
 「ああ、今の着信音は菊丸からのメールだからな。あいつのメールは日常報告とか何か街で面白いものを見かけたらすぐに携帯に内蔵されているカメラで撮影して送ってくる写真付きメールばかりだからな」
 「へえ・・・、そういや菊丸先輩に今日会ったんですよ。病院で」
 「病院に?あいつ具合でも悪いのか?」
 「菊丸先輩が病気なわけないでしょう!会社の健康診断だって言ってましたよ」
 「そうか、確かにあいつが病気するわけないな」
 「俺、先輩が大学卒業してから全然会っていなかったんでいきなり病院で声掛けられてびっくりしましたよ。菊丸先輩ったらスーツ着てネクタイ締めてるし、知り合いにこんなリーマンいたかなあって思いましたよ」
 「そうか、越前は菊丸のスーツ姿を見たことがなかったんだな」
 「いや、大学の卒業式に着てたの見ましたよ。つーか先輩達皆スーツじゃないですか日頃見慣れないもの見たので違和感ありましたけどね」
 「ほう、でも越前だって大学部の卒業式はスーツだったんだろ?後輩達に同じこと思われているんじゃないのか?」
 「そおっすね・・・大学部の入学式もスーツ着ましたよ。そしたら菊丸先輩に『七五三』だって言われちゃいましたけど・・・今では笑い話ですけどね」
 「ハハハハハ、『七五三』とは菊丸らしいな。じゃあこのメールは久々に越前に会った感想でも書かれてあるのだな、どれどれ今見てみようか」
 乾さんは携帯を取り出して画面を見た途端いきなり口を押さえてテーブルに突っ伏してしまった。
 「ちょっ、ちょっと乾さん!大丈夫ですか!」
 俺は椅子から立ち上がって慌てて様子を伺ったが目の前のこの男は単に笑いを堪えているだけだった。
 菊丸先輩は一体何をメールしたのだ・・・・・・。この人をここまで笑わせるとは。
 乾さんの珍しい行動に周囲の入寮者達も不審な顔をしてこちらを伺っている。
 「越前、こ、これを見ろ・・・・・・」
 俺は渡された彼の携帯電話の画面を見た。
 菊丸先輩が送ってきたのは写真付きメールでよく見るとその写真は・・・・・・
 
 
 「何やってるんスか?この人?」
 
 写真に写っている懐かしい人物を見て一気に腰がくだけた。
 
 
 「越前、よくそんな平静でいられるな、手塚がクマのエプロンして料理している写真だぞ、こんなのもう2度と見れないぞ」
 「つーか、手塚先輩何でそんなことやってるんでしょうね?」
 「お前よくそんな平然としていられるな。この手塚を見て何とも思わないのか!?」
 「・・・・・・コメントのしようがないッス」
 「率直な感想だな」
 
 乾さんはまだ笑いを堪えている。まあ同級生でかなりのライバル意識があるんだからその反動だろう。たしかにあの「鬼部長」だった手塚先輩を知る人間が見たらこの写真は大笑いだろう。
 けど、送ってきたのは菊丸先輩だ。今日病院で会ったときにそういや最近不二先輩と同居するようになったと言っていた。おそらく不二先輩が手塚先輩を嵌めたか何かをしてこういう事態になっているのだろう・・・。
 不二先輩も相変らずだね。
 それに従う手塚先輩も先輩だけどね。でもやっぱり大人になって手塚先輩って多少丸くなったんじゃないかな。こんな格好してるし・・・・・・それに
 
 
 それに、2年前のあの日、俺を受け入れてくれたんだから・・・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
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