〜 ten years after 〜 10年後の日常
† dinner 1†
俺は今とんでもない光景を目の当たりにしている。
こんなことがあってもよいのだろうか?
不二はリビングのソファーでくつろぎながらその光景をにっこりと微笑みながら見ている。
悪魔の微笑だ。
「英二、ぼーっと突っ立っていないで座ったら」
「あ、う・・・うん。でも先に着替えてくるから」
俺はスーツの上着を脱ぎながら自室へ入った。
何だったんだ!今の光景は!!!!!
手塚が台所でクマのエプロンで晩飯作ってたぞ!!!!
とりあえず部屋着に着替えて二人のいるLDKに戻った。
手塚はキッチンで料理をしていて不二はリビングでくつろいでいる。
不二はこの10日間タイに行っていて今日帰国予定だった。
だから不二が帰って来ているのは解る。
しかし・・・
しかし・・・
何で手塚まで連れて帰ってるんだよっ!!!
今の言い方では御幣があるな
手塚を連れてきているのはいい。俺も大歓迎だ!
青学時代の仲間内でプロに進んだのはやっぱり手塚だけで大学卒業後は他の仲間達と同じように飲みに行ったりして会うことがほとんどなくなってしまった。
あ、不二も外国に行きっぱなしだったからほとんど会えなかったけど・・・それにおチビ、もとい越前もプロになったんだよな。
俺はダイニングの椅子に座って手塚の料理姿を見る。
「手塚うまいじゃん。すげー包丁さばき」
「そうか、料理の得意な菊丸にそう言ってもらえてよかった」
手塚は料理の手を休めることなく返事をした。
「手塚も自炊してるんだ?今どこに住んでるの?」
あまりにも慣れた手つきだったのでてっきりどこかで一人暮らしをしているんだと思ってしまったんだ。
手塚はするめいかの足をひっぱって内臓を取り出しながら顔だけ俺の方を向けた。
「住んでいるのは卒業名簿に記載されている実家のままだ。ただ去年から母親が体調を崩しがちになったので俺が家にいる時はできるだけ俺が家事をしている。だから料理はかなり出来るぞ」
「そーなんだ・・・ええぇっっっ!!じゃあこんなとこで晩飯作ってる場合じゃないじゃん!早く家に帰れよ!」
俺は慌てて立ち上がった。勢いあまって今まで座っていた椅子が後ろに倒れた。
「慌てるな菊丸。お前のその性格直ってないな・・・」
「だって、手塚っっ!」
「母は入院中だ。もう良くなっていてじきに退院できる。父は出張中だから今日は誰も家に居ないんだ」
「そうだったんだ。大変だったんだね。で、何でここで晩飯作ってんの?」
俺は椅子に座り直した。
「・・・不二に来いと誘われたからだ」
俺はリビングのソファに座っている不二を見た。不二はこっちを見て相変らずニコニコしている。
「手塚もタイに行っててさあ、偶然帰りの飛行機で隣になったんだよ。なんか隣にごつい男が座ったなあと思ったら手塚だったんでびっくりしたよ。で、連れて帰ってきちゃったわけ」
「不二・・・お前はお客さんにクマのエプロン着せて飯作らせるのか・・・・・・」
俺は溜息をついた。手塚は黙々と鍋にいかの輪切りと酒と塩を入れて煮ている。
「手塚がゲームに負けるからだよ」
「手塚・・・本当は不二に嵌められたか弱みを握られたんじゃないの?」
「何故そう思う?」
「手塚をおちょくれるのって不二だけだもん」
「ちょっと英二!僕のことそんな風に見てたんだ」
「大きめの皿を貸せ」
俺は食器棚から大きめの皿を出して手塚に渡した。手塚は輪切りにしたトマトを敷き、その上にサニーレタスをのせた。
「サラダ作ってんの?」
「するめいか和風サラダだ」
既に出来ている料理を見てみるとたこ酢・しいたけミンチのせ焼き・豆腐田楽・ほたて貝柱バターフライ・エリンギの網焼き・・・・・・
「ええと、手塚・・・なんだか和風居酒屋みたいなんだけど」
「不二の注文だ」
不二よ、一体どんなゲームをしたんだ・・・(ひょっとしたら脅したのかもしれない)
クマのエプロンをつけていかをサラダに盛り付けしている姿の手塚に俺は心底から同情した。
「でもすっげー美味そう!」
「出来たぞ」
手塚はお役御免というふうにクマのエプロンをはずした。
「しかし手塚も丸くなったもんだな〜、学生時代ならいくら罰ゲームでもこんなエプロンとかしたりしなかったじゃん」
「社会に出ると色々と視野が広がるものだ。ほら」
そう言って手塚は俺にクマのエプロンをよこした。
「えっ?」
「不二が今後はこのエプロンを菊丸に着せると言っていたからな」
「不二ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
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