〜 ten years after 〜 10年後の日常
† confession †
我ながら馬鹿なことをやってしまったと思う。
英二はノーマルだとわかっているのに押し倒してしまった。
幸い未遂に終わったけど最後までヤッてしまったら強姦だ。
あの夜は結局英二は何も喋らないままとりあえずの着替えを持ってさっさと実家に帰ってしまった。
あの時の英二はとても険しい顔をしていた。
あんな表情をする英二を初めて見た。
きっとものすごく怒ってる。
英二が本気で怒るのをほとんど見たことがない。
英二が本気で怒るのはコート上でだけだった。
対戦相手が手を抜いたり真剣じゃない時。
それは英二がテニスに本気だという証。
プライベートでは本気で真剣に怒ったり怒鳴ったりすることはなかった。
喜怒哀楽がはっきりしている英二だけど英二の怒りは修羅や羅刹と表現できるものではない。
だからこそ本気で怒らせると怖いのかもしれない。
僕は英二の親友だとか理解しているとか言ってるけど英二の知らない面がまだまだあるのかもしれない。
僕は知ったかぶりをしていたんだ。
きっと英二を本気で怒らせると怖いと思う。
タイに来てから仕事が立て込んでいたので仕事に没頭する事で英二の事は忘れる事ができた。
しかし出張も今日で終わり。
明日の朝の飛行機で帰国する。
午後に日本に着くけど金曜日なので会社には戻らず家に直帰して土日休んで週が明けたら再び日本での仕事が始まる。
日本での仕事に戻るということは英二との生活に戻ること。
僕はどんな顔をして英二の元へ帰ればいいのだろう。
後悔している時間はもうないんだ
言い訳するのもかったるい
帰ったら素直に英二に土下座をして謝ろう。
なるようになるさ・・・・・・
後は天に任せよう。
僕はホテルのベッドで仰向けになって目を閉じた。
RRRRR〜♪RRRR〜♪
サイドテーブルに置かれた携帯電話が着信のメロディーを奏でた。
この着信音は・・・家から
つまり、英二から
明日帰国するのに一体何故・・・
何かあったのだろうか
それとも僕、三下り半突きつけられるのかな・・・
あの家を追い出される覚悟くらいしておかないといけないかもしれない。
おそるおそる着信ボタンを押す
「もしもし・・・・・・」
「あ、不二・・・もう寝てた?ごめんこんな夜遅くに」
「タイはマイナス2時間だからそんなに遅くないよ」
「あ、そっか・・・今電話大丈夫?」
「ああ、どうしたの?」
「ええと・・・明日帰ってくるだろ、空港まで車で迎えに行くけど・・・・・・」
「有り難いけど14:30頃到着予定の全日空なんだ。英二は仕事中だろ、だからいいよ。成田エクスプレスで帰るから」
「そっか。じゃあ気をつけて帰って来いよ」
「有難う。それにしても英二が自らお迎えなんてめずらしいね。何かあった?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
途端沈黙が訪れた。
空気が重くなる。
英二が空港まで迎えに来るというくらいだから悪い話じゃないと期待してしまうのだけど急に沈黙されると僕も戸惑ってしまう。
「・・・やっぱりはっきり言っておいた方がいいよな」
「何が?」
「俺、佐伯に抱かれた」
僕の目の前で一瞬時間が止まった
抱かれた!?
佐伯に!?
英二が佐伯に抱かれた!?
「ちょ、ちょっと英二!いつの間に佐伯と!?!?!?」
「ま、待て不二。そんな大声出すなって!耳が痛い」
「これが落ち着いていられる訳ないだろう!佐伯とはいつからなの!?」
「・・・一昨日。でも俺たちは愛人とか恋人とかいう訳じゃないから」
「抱かれておいてどういうことだよ」
「・・・佐伯んとこで今年のボジョレーを飲んでたんだよ。その時に不二に告られたこと相談したらいきなり媚薬飲まされてヤラれてしまった」
佐伯、僕の居ない間によくも英二を・・・
僕は血が上昇するのが自分でも分かった。
「佐伯の事は怒らないでやってほしいんだ。佐伯のお陰で俺の考えが変わったから・・・」
「英二の考え?」
「俺、不二が帰ってきたら『不二は男だから受け入れられない、今まで通り友達のままでいよう』ってきっぱりと断るつもりだったんだ。けど不二が今まで俺の為に合コン付き合ってくれたり陰で色々やってたって佐伯から聞いて、そんで一度男にヤラれてみたら考え変わるんじゃないかって媚薬飲まされて・・・それで・・・なんていうか・・・その時は薬の所為で何が何だかわからなかったけど・・・その・・・・・・うまく言えないんだけど・・・俺、不二の事まだどう思っているか自分でも分からない。でも最初から突き放す前に一度不二を受け入れてみようと思う」
「英二、それって・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
電話の向こうの英二は黙っている。きっと照れているんだ。
英二の言いたいことは解った。
つまり一度僕に抱かれてみるということ。
僕に抱かれてみてから僕の愛情を受け入れられるかどうか判断してみるということ。
「フッ・・・」
僕の口元が無意識に上がり軽い溜息にも似た笑いが漏れた。
佐伯やってくれるじゃん。
英二の頑なな『男同士なんて』という拒否の心を見事に溶かしたんだね。
英二の初めてを無理矢理奪ったのは気に食わないけどそのお陰で英二の考えを変えてくれたから許してやろう。
「英二、本当にいいの?」
思い出すのはタイに出発する前日の英二の険しい顔。
「僕が日本を発つ前の夜の事。あの時怒ってたみたいだし・・・」
「・・・・・・怒ってたよ。俺何も悪くねーのに銀行強盗は襲ってくるし人質にされてしまうし発砲されるし挙句の果てに友達だと信じていた不二に強姦されそうになるし」
「・・・ゴメン」
「だけどさ、不二だから許したんだよ」
「英二?」
「不二はずっと信じていた友達で大切な仲間だから。これが知らない奴ならめちゃくちゃ怒ってる。不二だから、まあ・・・その、いいかな?なんて考えになったんだよ」
胸の奥が熱くなる。
何故僕は今タイにいるんだろう。
英二の傍に居たら間違いなく今すぐ抱きしめてキスをしただろう。
「英二、明日の晩楽しみにしてるよ」
「ええっ!明日の晩って//////」
英二が顔を真っ赤にしているのが電話越しでも伝わってくる。
「当たり前じゃない。善は急げって、というか僕がもう我慢し切れない」
「え、・・・ああ、まあ・・・・・・じゃあ明日の晩ってことで」
「楽しみだよ。フフッ」
「あ、ちょっと待てよ!1つ条件がある」
「条件?」
「その・・・煙草、止めてほしい。禁煙しろとは言わない、でもせめて俺の前では止めてほしい」
「分かったよ。でも僕は英二が禁煙しろというのなら禁煙だってするよ。今までずっと我慢していたんだね。ゴメンね」
「我慢とかそういうんじゃなくて・・・・・・お前とのキス、すっげー不味かった」
僕は携帯を持ったまま大爆笑した。
とりあえず一度英二を抱いてみたとしても今後僕を受け入れてもらえるか否かどうなるか分からない。
愛してもらえるように仕向けようかと思ったけど英二にはそんな小細工したくない。
僕が真剣に英二を愛しているのだということが英二に理解してもらえればいい。
そう、ありのままの僕をぶつけよう。
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