〜 ten years after 〜 10年後の日常

† 僕が僕であるために †



熱いシャワーを頭から浴びて意識を無理矢理軌道修正させてみる。

僕は英二にキスをしてしまった後、我に返りしばらく自己嫌悪に陥っていた。
しかしいつまでも助手席で熟睡している英二の横でハンドルに顔を突っ伏して凹んでいるわけにもいかなくて・・・
眠っている英二を起こさなければいけないという使命のある僕は叩き起こすという古典的手段を使い部屋に戻ってもまだ眠そうにリビングのソファでうつらうつらしている英二に「シャワーを浴びてくる」と言って今に至る。

幸いにも英二は僕にキスされたと気付いていない。


僕は自分の指先を軽く自分の唇に当てる。

さっきこの唇が英二の唇に触れたんだ。
改めて思い返すとなんだかドキドキしてきた。
僕の頭の中の英二はまだ眠ったまま
僕は再び唇を重ねる。
今度は強く吸い上げる。
強く吸い過ぎた所為で英二の瞼が揺れ始める
そして
ゆっくりと目を開ける。
眠そうにとろんとした目で僕を見上げるその視線は誘いの視線
僕はそれに答えるかのように今度は英二の口に舌を差し入れる。
二人の舌は腔内で絡み合い、まるでお互いを求めるかのように激しく吸い上げる。
やがて酸素を求める為に一度離れた二人の唇の間には銀に輝く糸を曳き、濡れた英二の唇と潤んだ英二の瞳は淫猥さを含んでいる。
僕は英二のシャツのボタンに手を掛け確かめるように英二を見下ろした。
英二は何も言わず僕の瞳をただじっと見つめている。
これは承諾のサイン。
すべてのボタンを外し、僕は露わになった英二の胸についている飾りを口に含む
感じているのか英二は背中を弓なりに反らせる。
僕はお構いなしに舌先で突起をつついたり歯を立てたりしながら空いているもうひとつの胸の飾りを指でつまみあげる。
余程胸が感じるポイントなのか英二は躰を激しくよじらせる。
そんな英二を楽しみながら僕は英二のズボンを下着ごと下ろした。
露わになった英二の秘処にローションを塗りたくって指を差し入れると今までより激しく身を仰け反らせる。
やっぱり思ってた通りに躰は柔らかいんだね。
僕はもう限界まで来ている自分自身を掴んで英二に突き入れた。
激しく僕を感じたのか英二が腰を振りはじめる。
僕は英二の腰をしっかりと掴んで抜き差しを繰り返す。


風呂場の壁に取り付けられたタオル掛けに左手でしっかりと掴まって身体のバランスを保ちながら右手で欲にまみれて天を仰いでいる自分自身を握って扱き始める。
頭の中で英二を犯すことを想像しながら

想像の中の英二の秘処は僕を難なく受け入れて僕を快楽の高みに昇らせる。

僕はボディソープを手にとって再び僕自身の根元を握り締める。
石鹸で滑りがよくなって僕の背中に快楽の電流が走り抜ける。
「・・・英二」
脳内で英二を組み敷きながら現実は僕の右手が僕自身を絶頂へ向かわせる。

そして英二の中に僕は欲望を解き放つ












壁についた精液をシャワーで洗い流す。
排水溝に消え去る僕の欲望の証。
そして僕の脳内からも英二は消え去った。
頭からシャワーを浴びて僕の身体も流し清める。
でも清められるのは外観だけ
この渦巻く心の奥の醜い欲までは決して清められることはない。
それでもこの消えない何かを流し消し去りたくて
僕はシャワーを浴び続ける。


襲ってくるのは射精した後特有の激しい倦怠感。
脳内とはいえ英二を犯した罪悪感も重なり僕はその場に膝をついた。
頭上から降り続ける熱めのシャワー。
だんだん息苦しくなることもお構いなしで僕は今日一日分の反省をする。
英二を誘ったのは僕
自分を試そうとしたのは僕
結果、自我をコントロールし切れなかったのも僕
視界が揺れて咄嗟に手を伸ばしかけたが結局何も出来ずにただ手先に当たった洗面器が大きな音を立てて転がった。
側頭部に衝撃を感じ目を開けると視界が反転していた。
顔面に向かって容赦なく降りつづける熱いスコール
だんだんと息が出来なくなっていく
息苦しいのは顔面にお湯を被っている所為
それよりもこの吐き出せない想いを抱えて自分がいっぱいいっぱいになっている所為
自分が想像していたよりも想いは膨れ続け飽和状態を超える
理性で抑えきれなくなるくらい僕は英二を好きになってしまった。
抑え切れない感情の波は僕を縛りつけ苦しませる。
そして何かに押し潰されるかのような錯覚

胸が苦しい・・・




そして意識が薄れていく中でぼんやりと考える




僕はこのまま死んでしまうのだろうか・・・




溺死する人はこうやって酸素が欠乏していく中で生きることを諦めるのだろうか?
特にやり残したとこの世に執着するものはない
それよりもあんな形でだけど最後に英二とキスできて良かったと思う。





もういい・・・・・・
もう何も思い残すことはない。

そうすれば僕はこの欲と理性の葛藤の渦から解放される。


ハヤク僕ヲ楽ニシテ・・・・・・




僕は流れ去ろうとしている意識に身を任せることにした。

































「不二っ・・・・・・」




「不二ってば!」


「この馬鹿不二っ!」

「おいっ!目を開けろよっ!」

「不二ぃぃぃぃっっっ・・・・・・」

遠くで聞こえる声と肩を揺すぶられるような感覚がする。
うっすらと目を開けると眩しいばかりの世界が飛び込んできた。
「不二っ!気が付いた!?」
「・・・・・・・・・・・・」
「大丈夫?救急車呼ぼうか?」
僕は風呂場で裸のまま英二に肩を抱かれていた。
そうだ、僕は風呂場で倒れたんだ。
シャワーは英二の手によって閉められている。
そして僕は再び酸素を吸い込み始める。
「不二、聞こえる?救急車呼ぼうか?」
僕は英二に横抱きにされた状態で英二をゆっくりと見上げる。
そして黙ったまま首だけ横に振ってNOのサインを送る。











僕は死を選ぶことさえ許されなかったようだ。
欲にまみれたままこうやってまだ生き永らえている。



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