〜 ten years after 〜 10年後の日常

† Necessary 2 †



不二の携帯に電話をするともう退社してたらしくすぐに出てくれた。
そして俺は簡単に状況を説明してタカさんの店に行ける状態でないことを伝えると病院まで迎えに行くから待合室で待っていろと言われた。
言われたとおり入り口すぐの会計の待合室のベンチで座っていたらなんと不二はタクシーで駆けつけてくれて俺はそのまま不二にタクシーで連れて帰られた。
そこまで重症じゃないんだけどな・・・
「大丈夫だ」って言ったけど不二の奴はさあパジャマに着替えてベッドで横になれだのやれ熱を測れだのとなんだか過保護だ。
けど熱を測ってみたら37度ちょっとと微熱が出ていた。確かにあんな血の海の現場を見てまるで1年分働いたみたいにどっと疲れた。
不二が用意してくれた氷枕が心地よい。
「大変な一日だったね」
不二が水に浸したタオルを絞って額に乗せてくれた。
「ごめんな、せっかくタカさんとこ行く約束してたのに」
「タカさんとこはまた今度でいいじゃない。それよりも英二はゆっくり休みなよ。支店長さんにも休むように言われたんだろ」
「・・・うん」
ホント言うと正直自分が情けなかった。何も出来なかった自分。見ているだけしか出来なかった。救急車を呼んだり窓を開けたりしたけどそれはすべて長田さんの指示によるもので俺が自ら動いたわけじゃない。下手すると俺は人一人を見殺しにしてたかもしれないのだ。
「長田さん、カッコ良かった」
「ふ〜ん」
「最初は固まってたけどすぐに我に返って空気入れ替えたり止血したり救急車呼んだり・・・生きてると分かったら現場保存しなくてもいいからって仲間を呼んで床を拭いたり。俺まで具合悪くなっちゃって迷惑かけたのに病院でずっとついていてくれて俺の職場にまで電話してくれたりして・・・やっぱり福祉の仕事してる人って凄いや。人に優しいし人を助けられるなんて凄いや」
「・・・英二だって人に優しいじゃない」
「ダメダメ、俺はあんな風に人を助けられないよ」
「・・・何も福祉の仕事をしている人が優しいってことないんじゃないの。それが仕事なんだから」
「何て物の言い方するんだよ。長田さんは凄かったよ」
「福祉の仕事をしている人が人の世話をして人を助けて素晴らしい?それ本気で言ってるの、英二」
「本気だよ!不二こそどうしたのさそんなこと言うなんて、不二らしくない」
「世間で人を助ける仕事をしている人こそ気をつけるべきだよ。外見に惑わされちゃだめだよ」
「長田さんはそんな人じゃないって!」
「何故今日初めて会った人のことそこまで断言できるの?」
「不二こそ何故最初っから疑ってばっかなんだよ!」
「英二は優しすぎるんだよ。初めは一線置くか様子見るかで信じちゃだめだよ」
「最初っから疑ってかかるなんてそれ失礼じゃん!」
「そんなんだから英二は女に騙されるんだよ!」




「あ・・・」
言葉が出なかった。
否、返す言葉が見当たらなかったのだ。



不二の言葉は俺をダイレクトに貫いた。







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