| 〜 ten years after 〜 10年後の日常(番外編)
 
 † はじめてのお正月 †
 
 
 
 
 
 
 「兄貴、風呂沸いたぜ。どーする、先入る?」見ているバラエティー番組の司会者とはまた違った声がどこからか聞こえてきた。
 「おい兄貴!聞いてんのかっ!」
 声のした方をぼんやりと振り返るとベージュのハイネックセーターとユーズドジーンズの上に綿入れ半纏を着た裕太が突っ立っていた。
 「それかわいいね。よく似合ってるよ」
 半纏の袖を摘んで言えば咄嗟に袖を翻して僕の手から離れていく。
 「京都は盆地だから冬寒いんだよ・・・」
 つれない態度の割にちゃんと僕に返事をしてくれるところがまたかわいい。
 「ここは東京だけど」
 「チッ、着る習慣が身についたんだから仕方ねーじゃねーかっ!」
 ムキになるところがまたかわいい。
 「ありがとう、じゃあ先に入らせてもらうけどTVこのままつけておこうか?」
 「消していけよっ」
 「えー何で〜?面白いよこのHGっていう芸人。フォ〜ッ!」
 「うるせえっ」
 
 
 
 
 
 
 ゆったりとした湯船に浸かって目を閉じる。
 僕は年末年始を過ごす為実家に帰ってきている。
 京都で働いている弟の裕太も戻ってきていて約1年ぶりに裕太と再会した。
 裕太は聖ルドルフ学院高等部を卒業後、京都の大学に進学してそのまま京都で就職しているので本当に顔を合わせる機会が少なくなってしまった。
 裕太は5年以上も京都にいる所為か時々変な京都なまりで喋るようになった。一度おじゃる丸みたいだって言ったらしばらく口きいてもらえなくなったけど。
 裕太に会えるのは嬉しいけど・・・やっぱり英二がいないのって何だか物足りない。
 英二も英二で実家に帰っている。
 僕たちの関係はあくまでも極秘でお互いの家族にも知られないようにしている。悲しい事だけど今の日本の社会じゃそうせざるをえない。
 僕たちは表向きあくまでも同居の形だからこうやって年末年始は実家に帰らないといけないのだ。できることならあの家で英二とずっと一緒にいて年越したかったな。
 今になってカウントダウンライブのチケットを取ればよかっただとか年末年始の長期休暇を利用してスキーに行くという名目で二人でどこか遠くへ行けばよかったなんて思えてくる。
 
 そんなこんなで人並みに紅白を見てゆく年くる年を見て僕にとっては至ってつまらない正月を迎えた。
 
 
 
 
 
 
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 「はい、これは周助の分、こっちは裕太のね」
 元旦の昼過ぎ、家族揃って近所の神社へ初詣に出掛けた帰りに郵便受けを見てみると未だ僕や裕太宛の年賀状が実家に届いていてそれを母が選り分けてくれた。
 「こっち(実家)に届くのってDMばっかじゃん」
 裕太の言うとおり実家に届く郵便物は昔利用した事のあるお店からばかりだ。初売りはいつからだとかバーゲンの案内とかの葉書に混じって佐伯からの年賀状があるのに気が付いた。
 『元旦は実家にいる確率100%だと思ってこっちに出してみた』
 いつからデータマンになったんだ…
 「あら、それ佐伯君からなの?周助が帰ってきてるの予測してこちらに年賀状送るなんて気が利くじゃない」
 「そういう佐伯さんも千葉に帰ってるんじゃあ?兄貴は千葉に送ったのかよ」
 母と裕太が言った言葉で僕はハッと我に返った。
 英二に年賀状を出していない!!
 一緒に住んでいるから、一緒に居る時間が長すぎて気付かなかった。お互い実家に帰るってわかってたことなんだから僕は英二の実家宛に出せば良かったんだ。
 「ちょっと僕家に戻るよ、夜には帰ってくるから」
 「兄貴、いきなり何だよ!」
 「年賀状が気になったからちょっと郵便受け見てくる」
 「明日は由美子も来るんだからちゃんと帰ってきなさいよ」
 「わかってるって」
 英二は4日から出勤だから今から出しても遅いと解ってる。でも書くだけ書いて英二の部屋のドアに挟んでおくのも悪くないと思う。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 郵便受けを開けるとどっさりと年賀状が届いていた。
 それらを抱えて家へ入るとひんやりとした空気が家中に漂っていて誰も居ない時間が長かったというのが身に染みる。
 僕は直ぐにエアコンを入れて部屋を温めた。そしてリビングのソファに座って届いた年賀状の僕の分と英二の分を選り分けていた。
 そうしたら暫らく経って玄関のドアがかちゃりと開く音が聞こえた。
 もしかして……
 「英二!?」
 ダッフルコートにニット帽を被った英二が寒そうに入ってきた。
 「郵便受け見たら何もなくてさ、ひょっとして不二が戻ってきてるのかと思ったらやっぱりそうだった」
 「英二、どうして…」
 「んー、なんか年賀状が気になってさ、ちょっと見に来たんだ。不二はどうしたの?」
 「年賀状を出し忘れていた人がいたのに気付いたんだよ」
 「実は俺も・・・」
 「でももういい、直接年始の挨拶をするから」
 「それって……」
 「そう、英二にだよ。僕ってバカだなあ、一番大切な人に年賀状を出すのを忘れてたよ」
 「じゃあ俺もそうする。実は佐伯が俺の実家の方に年賀状送ってきててそれで不二のこと思い出したんだ。不二って1週間も休みじゃん、だから今から不二の実家宛に出そうかなって思って余ってる年賀状を取りに来たんだ。それに他に出してない奴から年賀状届いていても困るからそれも気になるし」
 「英二…」
 「明けましておめでとう不二、今年もよろしくvv」
 そう言って英二は元気良くVサインをしてきた。
 「明けましておめでとう。こちらこそよろしく」
 僕はVサインをしていた英二の手をとるとその手は氷のように冷たかった。
 大晦日からの寒波の影響で東京の最高気温もまるでスキー場並の気温だ。触れていた手を英二の頬にやるとそこも冷たくて・・・
 「英二、冷え切ってる」
 「……じゃあ温めてよ」
 その台詞に息を飲む。
 「いつからそんな誘い上手になったの?」
 「さあね」
 英二のダッフルコートを脱がせて帽子もとって抱き締めると触れたところから僕の体温が奪われていく。英二の唇にしっかりと自分の唇を合わせるとあまりの冷たさに僕の全身が震えた。
 「いいよ、温めてあげる」
 そして英二をソファにゆっくりと押し倒した。
 
 
 
 英二の躰は冷たかったけど奥まった蕾は灼熱のように熱かった。
 指を突き入れて掻き回し、的確に英二の感じる部分を突いてやると青白かった英二の肌に朱がさしていく。
 「はっ……ふ、じっ………いいっっ……ッッあっ!」
 英二が悶える姿を見て、締め付けられる指の感覚が、耳に入ってくる英二の喘ぎ声が、それら全てが僕を煽り下半身の一点に熱が集中する。
 指を引き抜いて直ぐに堅く熱い楔を深く侵入させてやると、英二は呻きながら背中を仰け反らせた。僕の方も結合部分から湧き上がる疼きと震えが脳天まで突き抜ける。
 「ああっ……ふじっ…ふ、じっ…くっ、あ……」
 僕にしがみついて、僕の名前を呼びながら、僕の動きに合わせて腰を揺らす。
 こんな淫らな英二を去年の今頃は想像もつかなかった。
 そしてこんな英二にしてしまったのは僕。
 英二の前もすっかり勃って、互いの腹の間で擦られて先端からトロトロと蜜を流して絶頂の近さを物語っている。
 僕は英二の中に入れていた楔を引き出して英二のもろとも握り込む。
 そして僕の手の中で二人分の熱塊が弾け、何も考えられなくなった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「よもや“姫はじめ”ができるなんて今年は新年早々ラッキーだな」
 僕は英二の腹に飛び散った二人分の精液をティッシュで拭きながら言った。
 「お前、今すんげー嬉しそうな顔してる…」
 「当たり前じゃないvv」
 「でも偶然だよな、俺が戻ってきた時に不二もいるなんて」
 拭き終ると英二は上半身を起こしてもそもそと足元に散らばった服を着始めた。
 「僕達“赤い糸”で繋がってるから」
 「それくさい、それに寒い」
 「寒いならもう一度温めて…うがっっ」
 台詞を言い終わる前に顔面張り手を喰らわされた。
 「昨日紅白見ててさ、大阪にいる下の兄ちゃんも帰って来ていて久々でそれはそれで楽しかったんだけどやっぱ不二がいないのって淋しいなって思ったんだよ」
 「僕もだよ、1年ぶりに裕太に会えたのに構ってくれないんだ」
 「それはお前が苛めるからだろ」
 ハイネックのセーターを着ながらしれっと返されて僕は事実に反論できなくなる。
 「さてと、じゃあ用事は済んだから帰ろっかな。お前も裕太君苛めるの程ほどにしろよ」
 今まで僕の下であんなに喘いでいたのにもうそんなことは微塵も感じさせないくらいに普通の顔をしている。
 「もうちょっとSEXの余韻を味わっていったら?」
 「俺ん家今晩スキヤキなんだ。食前の“運動”も済んだし丁度いい腹の空き具合だ。さあて今日は久々に兄ちゃん達と肉争奪戦、頑張るぞー!」
 もう何を言っても無駄みたい・・・
 僕は英二にニットの帽子を着せてやるとちゅっと軽くキスをした。
 英二の唇はすっかり温かくなっていた。
 「頑張ってね」
 「おう、任せとけって!」
 コートの裾を翻して玄関へ向かった英二が急にくるりと振り返った。
 「あ、そだ。来年の正月はやっぱ二人で過ごそうよ」
 「来年の事を言ったら鬼が笑うよ」
 口ではそう言ったものの僕の内の奥から温かいものが込み上げてくる。
 新年早々幸せだなと感じた元旦の午後。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 佐伯のお陰だとは気が付いていない二人です。2006.01.03
 
 
 
 
 
 
 
 
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