〜 ten years after 〜 10年後の日常(番外編)
† シングルベッド †
どさりっ・・・
背中に感じた衝撃で目が覚めた。
一瞬自分の身に何が起きたか分からず暫らく仰向けのままで闇の中でじっとしていたら目がだんだんと闇に慣れてきてここが自分の部屋で今は夜中で単にベッドから転がり落ちただけなんだと理解できた。
俺は体を起こして再びベッドに入った。
「また落ちたんだ・・・」
すぐ傍から声が聞こえた。
俺のベッドを占領して悠々と寝ている不二周助だ。
俺がベッドから落ちた原因。
「起きてたんだ・・・」
「いや、英二が落ちた音で目が覚めた」
「俺のベッドはシングルなんだから2人で寝るのは無理があるんだよ、だから不二のベッドでやろうって言ってるじゃんか・・・」
不二は俺と同居する前はワンルームで生活していたが殆ど寝るだけの部屋だったらしい。初めてその部屋に入った時に簡素すぎて生活感を感じられなかったのが今でも印象に残ってる。
なのにずっとEUに出張に行っていた所為か『広いベッドでゆったり休むのがいい』とセミダブルのベッドを使用している。
そしてここに引っ越して来た時もそのゆったりとできるセミダブルのベッドを持ち込んできた。
俺はその時は別に何とも思わなかったんだけど色々な事を経て俺と不二が世間に公表できない愛の関係を契る様になってからそのセミダブルのベッドが有り難いことがわかった。
俺のシングルベッドではいわゆる“愛の営み”をするには狭いのだ。特に最近の不二は俺の体が柔らかいことをいいことに変な体位ばっかり強要してくるから。
「英二の匂いの染み込んだここがいいんだ・・・それにベッドから落ちない様に僕にしがみついて寝ればいいじゃない。密着度も上がって一石二鳥だよ」
「何が一石二鳥だよ。今夜だってひよどり越えの逆落としだか壇ノ浦の合戦だかしらないけど変な体位させやがって!こっちは体辛いんだから仰向けでゆったり寝たいのっ!」
「今夜のはセックスにおける48体位のうちのひとつの“ひよどり越えの逆落とし”だよ。受け入れる側の躰を逆さ吊り状態にして持ち上げてアナルやペニスを舐めまわすから受け側は快感で身を捩ろうとしても逆立ち状態だからなかなか暴れる事ができなくて、英二もすごくよがってたけど逆立ちした状態で僕に舐められてるからなかなか身動きとれなくてその分イクのが早かったじゃない。坂の上から攻められた平家の気分が味わえた?」
「バ、バカ!そんなこと言うな////////」
不二のあからさまな台詞に恥かしくなって俺は不二に背を向けて枕に顔を埋めた。
夕べ俺はテレビで源義経特集なる番組を見ていた。それは普通の歴史ドキュメンタリーで義経の生い立ちや源平の合戦の様子を再現していた。
そこで源平の戦いで“ひよどり越えの逆落とし”が出て来て俺は単純に断崖絶壁から馬で駆け下りるだなんてなんと勇気ある行動だろうと感動してたんだけど横で一緒に見ていた不二がくすっと笑ったので「何が可笑しいんだよ」って言ったら「今晩のネタに使えると思って・・・」と含み笑いをしていた。
俺はその時何のことだか解らなかったけど夜、コトに及ぶ前に不二が
「今日は僕が源氏で英二は平家だから」
と言い出したので「???」と首を傾げていたら
「ひよどり越えの逆落としするよ」
と言って俺の両足を掴んで逆立ち状態にさせたかと思うと舌を這わせてきて…
思い出したら余計に恥かしくなった。
不二がエロエロ大魔王だというのはここ数ヶ月で嫌と言う程思い知らされた。
けどこんな不二を何だかんだ言いながら受け入れている俺もやっぱり不二の事を許していて・・・・・・
「俺ってやっぱ不二のこと好きなんだな」
がばっっっ!!!
掛け布団をめくる音がしたかと思うと背中越しに不二に急に抱きすくめられた。
お互いまだ全裸なので不二の体温が直接背中に感じられて一瞬ドキリとした。
「ちょっ、ちょっと何すんだよいきなりっっっ」
「英二が誘い文句を言うからだよ」
あれ?
ひょっとして・・・
俺って思ってたこと口に出してた!!!!
「ゴメン!口に出すつもりなかった・・・」
「でも僕のことを好きだって常日頃思ってくれているんでしょ」
「は、離せって・・・俺もう寝る」
「照れてるんだ。英二可愛い」
「離さない。寝るならこのままで寝ようよ」
俺は絡みつく不二の腕を無理矢理引き剥がそうとした。
「だから俺はゆったりと寝たいって…!!!!!!」
どさっ・・・
どすっ・・・
「痛って〜」
「あはははは、今度はふたり揃って落ちちゃったね」
「だから不二のセミダブルのベッドがいいって言ってるじゃんか」
「じゃあ今度一緒にダブルベッド買おうよ。お互いのベッドはリサイクルショップにでも持ち込んで手放してさ」
「それって毎日ヤルってことかよ!やめてくれよ平日仕事してるんだからキツイよ」
「毎日ヤルなんて言ってないよ。ただ新婚さんみたいにヤらなくても毎日英二と一緒に寝れたらいいなあなんて思っただけ」
「不二が俺と添い寝して何もしないはずないだろっ!」
「あはは、そうかもしれないね。さすが英二、僕のことよく理解している」
「それにそんなもの買って美香姉がご飯作りに来てくれた時に何て説明したらいいんだよ」
「その時は美香さんに“英二君を傷ものにしてしまいました。僕が一生面倒見ます”って土下座するよ」
「そんなことしなくていいって!今のままが一番自然なんだから。それに青学時代の仲間が遊びに来たらどうするんだよ」
「いっそのこと“僕達結婚します”って公表しちゃおうか?明日にでも区役所に婚姻届を出しに行こう」
「そんな書類、区役所が受理してくれないって!それに頭の堅い手塚や大石はびっくりしてもう二度と口きいて貰えないかもしれないって」
「あははは、そうだね。英二の言うとおり今のままが一番自然で違和感ないよね」
最近色々な俳優やタレントがカミングアウト宣言をしてきて男同士の恋愛も徐々に世の中に浸透してきているとはいえ法律上はまだまだ許されていない。
だから不二が土下座するだの区役所に行くだのって言うのは明らかに冗談で俺も冗談と理解した上でかわしていて不二もそのことを理解している。
けど、俺には冗談でも嬉しかった。
時々食事を作りに来てくれる姉は俺たちのことをただの同居人としか見ていないし不二のことは中等部のころからちょくちょく遊びに来ていたから知ってるのでまさか数ヶ月前から俺たちがこんなことしているなんて思ってもいないだろう。青学時代の仲間たちも同じ事が言える。
色々と制約のある関係だけど今の俺にはそれでも満たされている。
ただひとつのことを除いては・・・
「英二、床だとベッド上みたいに場所の制限がないからもっとあれこれ色んな体位ができるよ」
と言うや否や覆いかぶさってきた。
「ちょ、ちょっと!俺はもう寝るって言ったじゃんか」
「英二の誘い文句で僕こんなになっちゃったよ、責任とってくれるよね」
不二がパンパンに膨れて勃ち上がったペニスを俺の太腿にぐりぐりと押し付けてきた。
そうなのだ。俺がたったひとつ閉口してる事…
不二がやたらと盛りまくるのだ。
一回コトを終えて眠ろうとしても第二ラウンド、第三ラウンド突入で眠らせてやもらえない……
「何でお前はそんなに元気なんだよ!」
俺は覆いかぶさる不二の肩を押し返した。
「英二が好きで好きでしょうがないから仕方ないじゃない」
不二が低く囁いた。
不二が本気になった時に出す声。
その声に心臓が高鳴った。
「一回ヤッたら寝させろよ」
俺は不二の下でゆっくりと足を開いて不二を受け入れる体制をとった。
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