越前の決意、不二の策略
六角中の一年生部長の葵剣太郎に懐かれ(?)練習試合をしたリョーマは東京へ戻る電車内で黙り込んでいた。
もちろん葵の「シングルス3で待ってますからね」という台詞が気にかかっていたからである。
自分と同じ一年生レギュラー、そして一年生でありながら部長。
リョーマはふとドイツに行った手塚を思い出しすっかり暗くなった空を見上げた。
「手塚部長ならこんな時どうするのだろう」
しかしリョーマはすぐに首を横に振った。
「部長をあてにしちゃだめだよ。自分で決めなきゃ」
そして意を決めたリョーマはおもむろに座席から立ち上がると後ろの座席に居る大石を見つめた。
「………俺、シングルス3でお願いします」
大石は一瞬驚いたような顔をしたがすぐにリョーマの心の奥が理解できたらしくいつものように優しく微笑んだ。
大石の隣にいた菊丸や向かいの不二と乾も同じ反応だった。
「へえ〜、越前がシングルス3か。じゃあ僕はダブルスね」
「えっ!?」
「ほえ!?」
「・・・・・・・・・・・・」
カリカリカリ…(←ノートに書き込む音)
その場に居たメンバーがそれぞれの反応を示した。
「不二先輩はシングルス1じゃ……」
「ダブルスがやりたいのっ!」
「にゃんでいきなりダブルスなのさ?」
「大石、君の腕はまだ完治してないよね。このまま次の試合に出てまた酷くなったらどうするんだい。手塚の二の舞だよ。だから僕が君の代わりにダブルスに出るんだ」
「心配しなくても殆ど治りかけてるよ。六角中戦までには間に合うと………」
開眼状態の不二に睨まれて大石は最後まで台詞がいえなかった。
「その腕まだ治っていないよね。大石」
「あ、ああ、そういやまだちょっと痛む…か、な?あはははー(滝汗)」
「でしょvv じゃあ次回は大石に十分静養してもらって僕がダブルスをやるよ」
「不二はダブルスで勝ったためしがないというデータだが…」
「英二と組めば無敵だよ!」
「えっ、俺今度は不二と組むの?」
「何?僕とじゃ嫌なの?」
「あわわっ!い、嫌…とかじゃなくて……そのー、以外な組み合わせだにゃー、なんて…」
「ふ〜ん。英二はやっぱり大石と組む方がよかったんだ」
「ち、違うよ!!!!そんなんじゃないって!」
「英二、僕と大石とどっちがいいの?」
「ええっ!?そんな急に言われても……」
「ほう、これは面白いデータが取れそうだな。ダブルスで右に出るものがいない英二がパートナーに誰を選ぶか…」
「もうっ!乾までそんなこと言って!!!!」
「で、英二。まだ答えを出していないよね」
「不二、やめろよ英二も困っているだ……」
「大石は黙っててっ!」
「・・・・・・・・・・・・ ハイ 。」
「じゃあ英二、答えてよ」
菊丸は俯いて先程まで聴いていたMP3プレイヤーとヘッドフォンを手に弄んでいた。
「あのさ、………ダブルスの相手なんだけど………」
不二はそんな菊丸を黙って見つめた。
「・・・・・・・・・・・・・・・ 桃かにゃ 」
その途端車内に絶対零度の空気が流れた。
「え、エージ先輩っ!!!!」
急に渦中に引き摺り込まれた桃城は滝のような冷や汗を流しながら叫んだ。
「ふ〜ん、そうなんだ」
不二は冷ややかな視線を桃城に向けた。
「桃、明日の練習が終わったら体育館の裏に来てよね」
「……え、……は、ハイ」
桃城はただ小さくなっているだけである。
「必ず来るんだよ、来なくてもこっちから行くからね(にっこり)」
「違うよ」
菊丸が呟いた。
「違うよ、桃がパートナーとしてやりやすいとかいうんじゃなくて今青学にはダブルス要因の後輩がいないだろ。だから俺は桃と海堂にはシングルスだけじゃなくダブルス要因にもなってほしいんだ。海堂は乾が以前ダブルス向きのトレーニングをさせてめきめき上達してるけど桃は実践で覚えさせた方がてっとり早そうだから・・・それで・・・」
「ハイハイッ!大石先輩!それなんですけど!」
菊丸の言葉で少し安堵した桃城が大石に向かって挙手をした。
「何だ?桃」
「さっき河村先輩と『俺たちがペア組んだらパワーでは無敵だ』なんて言っていたんですけどどうでしょう?ね、河村先輩」
と河村にラケットを渡す。
「ぬどりゃ〜!!!俺と桃が組めばグゥレイトォォォッ!!!!誰にも負けねーぜっ!!!」
電車内では静かにしましょう。
「へえ〜、タカさんと桃のパワーペアか。確かに無敵だね。いいんじゃないの大石。それで僕と英二が組んで英二の可愛さと僕の華麗さでビジュアル的にも技術的にも無敵だよ」
「(不二、口に税金がかからないからって好き放題言ってるにゃ)」
思っていることが口に出せない菊丸である。
「ふ、不二、たしかに面白そうだけどもうちょっとよく考えてからオーダーを・・・」
「だから君の腕はまだ治っていないんだろ」
「俺はいろいろな先輩とダブルス組んで勉強したいです。だから今度は英二先輩以外と・・・」
「あのー俺パートナーは誰でも良いんだけど・・・」
「ヴァーニィィィングッ!!!六角中を叩き潰すぜぇ!!!」
「これは非常に面白いデータが取れそうだ(カリカリ)」
「あのー、俺のシングルス3は・・・・・・・・・」
リョーマの意見は空の彼方へ追いやられていた。
「手塚、早く帰って来てくれ・・・・・・」
その晩大石が涙を流しながら胃薬を飲んだというのは言うまでもない。
終
リョーマ君の呟き・・・
「学校は選べても先輩は選べないからなー、部長はあの人で良かったケド・・・」
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