| 〜 ten years after 〜 10年後の日常(番外編)
 
 † ジレンマ †
 
 
 
 
 
 
 「お食事券!」
 「英二、そのギャグもう寒いよ・・・ダビデ並に寒いよ」
 「ごめん・・・バネさんみたいな踵落としは勘弁」
 「しないよそんな事・・・でも今ので体の芯まで冷え切っちゃった。今夜は英二の体温で僕の冷えた体を温めてもらうよ」
 「ば、馬鹿!食事中に何てこと言うんだよ///// で、汚職事件がどうしたって?」
 
 「最近商社の不祥事あったよね」
 「あれか?野菜の産地を偽造したってやつ。中国産なのに米国産って書き換えて・・・別に産地なんてどこだっていーじゃん」
 「英二にとってはどうでもいいかもしれないけど一応不正競争防止法違反になるんだけどな」
 「年齢誤魔化しているタレントとかいるじゃん」
 「そーゆーレベルじゃないよ」
 「低レベルで悪かったな。で、野菜の産地がどうしたの?」
 「野菜の産地が問題じゃなくて商社の不祥事とか汚職事件とかよく聞くなーと思ってさ、大手総合商社役員の政治家への賄賂だとか横領だとか○○物産のディーゼル車用排ガス浄化装置のデータ捏造だとか土地への不正入札だとか・・・」
 「あー、そういやそんなことあったな。でも世の中色んな事件が起こりすぎてそんなの忘れた。不二、お前よく覚えてんなー」
 「同じ商社マンとして悲しむべき事件だからね」
 「そっか・・・・・・」
 
 「実はここだけの話だけどね。詳しくは言えないけどうちも似た様な悪どいことやってて会社が上手く世間に隠し通しているんだよ」
 「嘘・・・・・・」
 「内緒だよ」
 「不二は・・・不二は大丈夫なのか?」
 「僕が直接関わっていることじゃないよ。他所の課でやってるんだよ」
 「でも不二の勤め先って一部上場企業だから何かあったら大変じゃん?マスコミは騒ぐだろうし同業者からは蹴り落とされるし株も下がったりするかな?」
 「そこなんだけどね。実はそこの課の人で不正を正そうとした人がいたんだ。でも会社側に圧力かけられて役職からの嫌がらせをうけて、でもその人も頑張っていたんだけど結局体調を崩しちゃって退職しちゃったんだよね。今日」
 「そうなんだ・・・・・・」
 「その人と同じ課の人達も見て見ぬフリなんだよね」
 「なんだよそれ、ひでーじゃん」
 「でも僕もその人と同じ課にいたらきっと見て見ぬフリをすると思うよ」
 「何で・・・?」
 「僕は今こうやって英二と一緒に暮らしている。この生活が大切だから」
 「はあ?訳わかんねー!?」
 「卑怯な考えだと解ってるよ。でも僕は今の商社に勤めているお陰で健康で文化的なごく普通の生活が送れている。悪どいことやっていてもその会社のお陰で今の生活があるんだ」
 「長いものに巻かれろ、だよな」
 「そーゆーこと。確かに不正はいけないよ、でも会社の為だ。なんていうと完璧な企業戦士みたいだけどね。本音を言うとこの不景気のご時世に今と同じ条件での転職は厳しいんだよね。だったら正義感出して会社に反旗を翻して退職に追い込まれるなら見て見ぬフリをして今の生活を維持する方を選ぶよ」
 「会社の不正を内部告発するとかマスコミにたれこむとか監査局とかに報告するとかいくらでも不正を正す方法あるじゃん」
 「確かにね、でもそれで会社の不正が暴かれて法の下に裁かれて会社が正しい道を歩いたとしてもね英雄にはなれないんだよ。“あいつがチクッた”と返って社内で役員どもに煙たがれる存在になってしまう。尤もその前に不正をしている役職の手先にお台場の海に沈められるかもしれないけどね」
 「あー、解った。正義感出して不正を公表して会社を負われて路頭に迷うような目に遭うのだったら会社の不正を見て見ぬフリをして現状の生活を維持する方を選ぶっていうんだ」
 「マスコミにタレコミしてもマスコミが喜ぶだけじゃない。別にそのマスコミが再就職先を紹介してくれるわけじゃないし、何の得もないなら黙っている方がいいよ」
 「・・・・・・不二がそんな弱気な発言をするとは思わなかった」
 「弱気・・・そうだな。弱気というより守りに入ったのかもしれないね。守りたいもの、崩されたくないものがあるとそうなってしまうのかもしれないな」
 「守りに入ったというより大人になったんだよ。学生時代ならこんなことあり得ない」
 「全くもってそうだね。ずるい大人になってしまったと自分でもつくづく思うよ」
 
 「俺、前にも言った事あるけど俺は不二が例え犯罪者になったとしてもずっと味方でいるから・・・」
 「有難う英二・・・・・・ねえ、キスしていい?」
 「駄目!」
 「って速攻で返事しなくてもいいじゃない」
 「今食事中だよ」
 「英二の唇も食べたいんだけどなー」
 「俺の唇はおかずじゃないって!」
 
 
 目の前でむくれながら黙々とポテトサラダを食べている愛しい人の顔を見ながら僕も皿の上で転がっていたプチトマトを口に入れた。
 こうやって一緒に生活し一緒に食事をする。
 これが今の僕にとって一番の至福の時間。
 この時間を守りたい。
 この時間を誰にも壊されたくない。
 
 その為なら僕は何だってするだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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