| A Hard Days Night
 
 
 
 
 それは去年の誕生日のことだった。たまたまその日が日曜日だったので家族全員が揃うので母ちゃんや姉ちゃん達がごちそうを作ると昼間からあれこれ仕込んでくれていた。
 そんな時不二から電話が掛かってきた。
 昨日の部活が終わってどうやら俺は間違えて不二の鞄を持って帰っていたらしい。
 学校指定の鞄で見た目分からないし帰ってから今まで開けて中身を取り出していなかったから気付かなかった。
 不二が俺ん家まで届けてくれるなんて言うものだから来たついでに不二も一緒にパーティーに参加するように誘ったら「急に言われてもプレゼント用意してないし…」と遠慮した言葉が返ってきたからそんなのいらないし不二がうちに来たら母ちゃんや姉ちゃん達が喜ぶしついでに泊まって明日は一緒に登校しようと言ったら来てくれる事になった。
 そして俺の鞄を持ってきてくれた不二は「やっぱり手ぶらなのは何だから」とカサブランカと薔薇をアレンジした花束を持ってきてくれた。
 不二を交えた俺の誕生日パーティーは夜遅くまで盛大に盛り上がった。
 
 
 客間に用意された2組の布団。ひとつは俺でもうひとつは不二が寝る場所だ。
 不二が来てるので俺はいつもの兄ちゃんと使っている自分の部屋ではなくて客間に不二と寝る事になった。
 「じゃあ明日も早いからおやすみぃ〜」
 部屋の電気を消して、布団に入って…暫らく経った頃だった。
 「くしゅん!」
 隣で寝ている不二がくしゃみをした。
 「くしゅん!くしゅん!」
 横を見たら不二が丸めて寝ているように見えた。
 「不二、寒いの?」
 「ん、平気だから」
 「って寒そうじゃん。もう一枚掛ける布団を持ってくるよ」
 考えればあと3日で12月なんだ。夜は冷えて当たり前。
 「僕は大丈夫だよ、それに今から布団を出してもらったら寝ているご家族にも迷惑かかるからね」
 「でも不二が風邪ひいちゃう」
 「大丈夫だよ」
 「そうだ!」
 俺は自分の布団を不二に掛けた。そして俺は不二の布団に潜り込んだ。
 「これであったかいにゃ」
 それは不二が寒そうだからもう一枚掛け布団が要るということから思いついた単純な発想。
 他に何も考えてなかった。
 すると不二が
 「ホント、あったかいや」
 といきなり俺の体を抱き締めた。
 「有難う英二、これでよく眠れそうだ」
 と言って目を瞑ったかと思うとスースーと規則的な寝息をたて始めた。
 俺は正直固まっていた。
 日頃俺は誰にでも抱きついていて不二も例外じゃないけど今の状況はよくよく考えるとひとつの布団で抱き合っていることになる。
 俺は単に不二が寒そうだから俺の布団も掛けて…布団の無くなった俺は不二の布団に潜り込んで…というただそれだけの発想。きっと不二も俺を猫か湯たんぽか抱き枕代わりにしているだけなんだ。
 俺は自分にそう言い聞かせたけどよくよく考えると凄い状況の今の状態なのでなんだかドキドキして顔が火照ってきてなかなか眠れそうにない。
 俺、不二にドキドキしている……
 不二に?
 不二は友達だよ……
 
 結局その晩は眠れなかった。
 翌朝の不二は
 「英二のお陰で温かかったよ、ありがとう」
 と言って今までと何ら変わりはなかった。
 俺のこと一晩ひとつの布団で抱き締めていて翌日まるで何もなかったかのような普通の態度。
 何だか分からないけど悲しくなった。
 
 どうして俺は不二にこんな感情を抱いてしまったんだろう。
 
 
 
 
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 「不二、28日って空いてる?」
 「空いてるけど」
 「じゃあ俺んち泊まりに来ない?俺の誕生パーティーやるんで今年も不二に来て欲しくって。姉ちゃんや母ちゃんも喜ぶし」
 「フフ、いい家族だね。じゃあまた行かせてもらうよ」
 「やりい!ありがと不二!」
 俺は不二に抱き付いた。
 多分自然に……できているハズ
 去年のあの件から俺は妙に不二を意識してしまって今まで通り不二に抱きつくのを躊躇ってしまうようになった。今だってはしゃいでいるフリしてるけど本当は心臓がバクバクしている。
 「あはは、重いよ英二。あ、そういやプレゼントは何がいい?」
 「んー、別にいいよ」
 「それは僕も困るよ」
 「今は特に欲しいってものないし気持ちだけで嬉しいよ」
 嘘。
 俺は嘘を言っている。
 本当は欲しくて欲しくて堪らないものがある。
 
 たったひとつ欲しいもの、それを言うと不二はくれるだろうか。
 
 不二が欲しい。
 
 不二に抱き締められて心の奥底に火が付いた。
 それは小さな小さなものだったけど大きく発火する決定的瞬間は不二の誕生日だった。
 俺のときみたいに不二の家に招待されてそのままお泊りになった。
 けど俺は不二のベッドの横に客用布団を用意されてそこで寝ることになった。
 拍子抜けした。
 俺は一体何を期待していたのだろう。
 完璧に空調が完備された部屋故に寒くもないので不二の布団に潜り込む口実も見つからない。
 不二にもう一度抱き締められたい。
 
 不二に抱かれたい。
 想いはだんだん大きくなって俺の中で飽和状態になる。
 
 隣に寝ているのに何も出来ない。
 それがもどかしい。
 消化しきれない想いをモヤモヤと抱えたまま帰宅して直ぐに風呂場に直行した。
 不二への想いがすべて下半身の一点に集中していて熱くなっている。
 俺は昂ぶっている自分の半身を勢いよく扱き始めた。
 不二に触られたい。
 目を瞑って不二に触られているのを想像しながら高めていく。
 空いている片方の手に石鹸をつけてそっと後孔へ伸ばして指を差し入れた。
 「うくっ」
 最初は窮屈で痛かった。
 不二に突っ込まれている事を想像して中を掻きまわした。
 
 不二が欲しい。
 
 
 それから俺は度々不二に抱かれていることを想像しながら一人でするようになった。
 
 でも、もう我慢できない。
 
 
 
 俺は誕生日に本当に欲しいものを手に入れるために一世一代の大勝負をする。
 
 
 
      
 
 
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 「不二君本当にありがとうね。じゃあおやすみなさい」「こちらこそごちそうになってありがとうございます。おやすみなさい」
 そして俺の誕生日当日。宴は賑やかに幕を閉じて去年みたいに客室に俺と不二の布団を敷き終えた母ちゃんが不二に挨拶をして部屋を出て行った。
 
 
 「ねえ不二…」
 「何?」
 部屋の電気を消してお互いの布団に入って暫らくして俺は不二に声をかけた。
 「そっちに行ってもいい?」
 ひょっとしたら声が少し震えていたかもしれない。
 「え?」
 「去年みたいに…そっちの、不二と一緒に寝たい」
 「クスッ、英二って本当に甘えん坊だな。ほら」
 不二は呆れたように笑って自分の掛け布団を開いてくれた。
 俺は迷わずに不二の布団に潜り込んだ。
 「へへっ、不二あったか〜い」
 俺は不二に抱きついたら不二も俺の背中に手をまわしてくれた。
 一年ぶりのこの感触・・・
 たまらない・・・
 ずっとこうやっていたい。
 「英二、震えているけど寒いの?」
 不二が心配そうに言った。
 違う、寒くなんかない。震えているのは不二の体温にドキドキしているから。
 ドキドキして胸が苦しくなって呼吸もままならない。
 「ふ…じ」
 やべ、声が完全に震えている。
 「俺、今は欲しいものがないって言ったじゃん。あれ嘘」
 「それならそうと早く言ってくれればいいのに」
 「今凄く欲しいものがあるんだ。それが欲しい」
 「じゃあ明日一緒に買いに行こうか」
 「……お金では買えないよ」
 「え?」
 俺はぎゅっと不二のパジャマを掴んで大きく深呼吸をした。
 
 
 「不二が欲しい」
 
 
 
 
 
 
 
 「え?」「不二が…不二に…・・・抱かれたい」
 
 
 きっとビックリしてんだろうな。その場が沈黙に包まれる。
 「気持ち悪いんならはっきり言えよ」
 俺は体を起こして不二に乗りかかって顔を見下ろす。
 瞬きもせず俺の顔を見上げる不二の顔は相変らず何考えてんだか判らない表情で、でも俺は構わず続けた。
 
 「俺は、不二の事がスキ・・・」
 
 
 そしてゆっくりと顔を近づけて不二の唇に自分の唇をそっと重ねた。
 柔らかい。
 それしか考えられなかった。
 好きな人とのキスだから宙に飛ばされたような感じなんだけど自分の中で不二の事がいっぱいいっぱいになっていてもう何も考えられない。
 我ながら大胆な行動で心臓がドキドキバクバクしている。
 気を緩めたらきっと放心してしまう。
 
 「本当にいいの?英二」
 唇が離れた途端不二が言った。
 「去年不二と一緒の布団で抱き締められてから俺おかしいんだ。不二の事変に意識しちゃってドキドキしたりして・・・」
 「ホントだ、凄いね」
 「うにゃっっ!!!!」
 いきなり股間を掴まれて声が裏返ってしまった。
 不二の体温を感じて硬くなり始めているソレはパジャマ越しだと形が変形しつつあるのがもうバレバレだった。
 「でも今みたいに声が出たらマズイでしょ」
 「タオル咥えて声が出ないようにするから」
 「そこまでして僕が欲しい?」
 「…・・・うん」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「ん・・・」不二が俺の肌に触れる度に声が出そうになるけどタオルを咥えているので掻き消されてしまう。
 胸の突起を吸われると躰の奥底から快楽が沸き起こり下半身の一点に熱が集中していく。俺は上がりそうになる声を抑えてシーツをぐっと掴んでひたすら堪えていた。
 静かな部屋には二人の吐息のみが聞こえる。俺の家族が寝静まっているのを気にしてか不二はこの行為が始まってから一言も喋らなくなった。
 よくよく考えると俺って凄く大胆!この家には家族がいるのに・・・それなのにタオル咥えて声を殺してまで。父ちゃん母ちゃんじーちゃんばーちゃん兄ちゃん姉ちゃん、ごめん俺今から不二のものになる。どうかこのハシタナイ末っ子をお許し下さい。
 
 するりと不二の指が伸びてきて俺の後ろの孔に辿り着いた。
 狭い入り口が不二の指を咥えこむ。今までさんざん自分でヤッてきたから異物感とか不快感はないけれど不二の指が入っているというだけで俺には扇情的なものだった。
 「く・・・ん・・・」
 不二が指を増やして掻き回しはじめるとさすがにじっとしていられなくて躰が大きく跳ねてしまう。そんな俺の姿を見て不二が声に出さず口元をニッと吊り上げて笑った。
 不二が笑ってる。
 俺が善がる姿を見て楽しんでいるのかな。
 なんだか急に恥かしくなって顔を背けた。
 求めたのは自分からだし今更何を恥かしがっているのだろう。
 そう思ったときふっと不二の両手が伸びてきて俺の両頬を挟んで不二の正面を向かされた。目が合った不二は優しそうな表情で俺に近づいてきた。
 ちゅっ…
 額に軽くキス。
 ちゅっ・・・
 瞼にキス。
 頬にキス、鼻にキス、耳にキス。軽く優しいキスの嵐。口はタオルを咥えているからしてもらえないだろうな〜と思っていたけどタオルの上から軽くキスをしてくれた。そして耳元で小さく囁かれた。
 「もう余裕なんてないから・・・」
 「んぐっ!」
 同時に引き裂かれそうな痛みが下半身に走った。
 不二が自身を俺に埋め込んできたのだ。
 指で慣らされたとはいえ圧倒的に質量が違う。見上げると不二も辛そうな表情をしていた。
 キツくて不二も苦しいんだ。
 「大丈夫?英二」
 なのに不二は俺を気遣ってくれる。その優しさが身に染み渡る。
 やっぱり不二が好き。
 痛くて苦しいけど大好きな人と繋がる事ができて幸福感で一杯だ。
 不二の背に手を回して先への行為を催促すると不二が動き始めた。
 
 不二が深く腰を打ち付ける度にぐちゅぐちゅと結合部分から卑猥な音が聞こえてくる。
 小さく洩れる声と荒い息遣いだけが響く部屋の中でその音は実にリアルで途端に自分達の行為がひどく生々しいものに思えて我に返った。
 「くはっ・・・」
 不二の先端がある一点を掠めたとき躰全体が跳ね上がるような快楽の電流が走った。
 「ん・・・んん・・・・・・」
 今のが前立腺なのかもしれない。タオルを咥えていてよかった。でなきゃきっと大きな声出している。
 刺激が欲しくて俺は空いている手を自分の前へ伸ばした。先程の刺激の所為だろうかいつも自分でシテいる時よりも熱くて大きくなっているような感じがした。
 不二に揺さぶられるタイミングに合わせて両手で上下に扱いているとふいに不二の手が伸びてきて俺の手を握っているペニスごと掴んだ。
 「僕にやらせて、一緒にイこうよ」
 俺は全てを不二に任せることにした。
 「ん・・・」
 後ろと前の両方の刺激は強烈だった。不二は器用に自分のペニスで俺の内部を掻き回すように腰を回して抜差ししながら片方の手で俺の腰をがっしりと固定してもう片方の手で俺のペニスを掴んで更に昂らせる。根本を扱いたかと思うと優しく陰嚢を揉みくだしそして先端のくびれの部分を握りこんで親指の腹で先っぽの敏感な部分を刺激する。自分でスルのとは全く違う快感が次から次へと涌きあがってくる。
 タオルを咥えていて正解だった。
 抑えきれずに洩れる声がタオルで掻き消されていく。
 「んん…」
 太腿が痙攣して絶頂が近づいて来ているのを訴えている。
 「英二…」
 「ぐっ…」
 不二に名前を呼ばれたけどその時俺の目の前は真っ白になっていてどこか遠くて呼ばれたように感じていた。そして同時に不二の手の中で俺は果てた。白い液体は不二の手のひらだけではなく俺の腹も汚していた。そして不二も絶頂を迎えた瞬間に俺の中から引き抜いて俺の腹に熱い迸りをぶちまけた。
 
 
 「大丈夫?」
 不二が俺の口に咥えていたタオルを引き抜いて俺の腹の二人分の精液を拭き取った。
 「ありがとう不二、最っ高ー!の誕生日プレゼントになったよ」
 「フフッ喜んでもらえて僕も嬉しいよ」
 「不二…」
 俺は不二に抱きついて甘える。不二も俺の頭を撫でてくれて至福の時間って感じ。でも肝心な事を言ってない。
 「ねえ不二、俺不二の事大好きだよ」
 「ありがとう」
 「不二さえよければ…だけど」
 何だか顔が火照ってくる。きっと俺の顔は今真っ赤だ。
 「俺の恋人になって!」
 「いいよ、僕も英二のこと大好きだよ」
 「ホント!」
 「ホントだよ」
 そう言って不二は俺の唇にちゅっと軽くキスをしてくれた。
 天にも昇る心地ってこのことかもしれない。
 今日は生まれてきた中で最高の誕生日だ。
 「ありがとう不二」
 俺は幸せに浸りながら恋人になったばかりの不二の胸に顔を埋めて目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 腕の中の菊丸が眠りに落ちたことを確認すると不二は口の端だけを吊り上げて笑みを湛えた。そして愛しい人の頭を撫でた。ゆっくりと、優しく。
 「計算通り…いや計算外だったかな」
 菊丸を好きになってしまったのは不二が先だった。しかし仲間内ではムードメーカーで誰にでも抱きついて仲良くやっている菊丸を自分だけのものにするのは至難の業だと悟った。
 偶然、去年の菊丸の誕生日前に家族に祝ってもらうという話を聞いた不二は部室でわざと自分と菊丸の鞄を入れ替えてお互いが間違って持って帰るように仕向けた。
 まんまと菊丸の鞄を間違ったフリをして持ち帰った不二は菊丸の誕生日当日に電話をして鞄を持って行くと伝えた。お祭り好きの菊丸がそれなら不二も誕生パーティーに参加しなよと言ってくれるのは予想の範疇、そして誕生会に参加とお泊りに成功した。
 布団に入ってくしゃみをしたら人懐っこい菊丸が一緒の布団に入ってくるのも予想の範疇、そして寒いフリをして一晩中ひとつの布団で菊丸を抱き締めることにも成功。
 その後はわざと何もなかったかのような態度を取る。その頃からだろうか菊丸が不二に対してだけソワソワと意識するような態度を取るようになった。
 順調に菊丸が不二に傾いていることを確認して今度は不二が菊丸をお泊りに誘う、しかしわざと客用布団を敷いて普通のお泊り会にしてしまう。
 「君の事だから一度与えられた僕の体温を再び求めてくるだろうと計算した。今夜君が僕の布団に潜り込んで来たら僕の方から君に告白しようと思ってたけど……」
 不二は菊丸の前髪を掻き揚げてちゅっと額に軽くキスをした。
 「まいったな…まさか英二から告白してきてしかもSEXを求めてくるなんて、これは計算外だったよ。尤も嬉しい誤算だけどね」
 不二は改めて腕の中で眠る菊丸の顔を優しく眺めた。眠る菊丸は歳よりも幼く見えて先程までの声を漏らさまいとタオルを咥えて快楽に耐える淫らな姿からは想像もつかない。
 「今度は誰もいない時にヤろうね。君が本能のまま喘ぐ姿も見てみたいな」
 そして不二もその腕に愛しい菊丸を抱き締めながら目を閉じてゆっくりと眠りの淵に落ちていった。
 
 
 
 
 fin
 
 
 
 
 
 菊丸生誕記念SSです。菊ちゃん誘い受けってことですが結局は不二様の画策に踊らされていただけだったので不二の方がイイ思いしてんじゃん!ですね(苦笑)
 2005.11.28
 
 
 
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