| はぷにんぐ・ばーすでぃ
 
 
 
 
 「本日の欠席は・・・・・・阿倍、梅本、小野田、後藤、田代、不二、松岡、山本・・・・・・皆風邪か、インフルエンザが猛威を奮っているから外から帰ってきたら手洗いうがいはしっかりするように」
 
 
 青春学園中等部3年6組の朝のHRで担任が本日の欠席者の名前を読み上げた。
 今年はインフルエンザが呼びもしないのに大流行でここのところ毎日クラスの数名がインフルエンザにやられて欠席をしていた。
 クラスメイト達が次から次へとバタバタ倒れていく中で不二と菊丸はすこぶる元気で
 「俺達って風邪ひかないにゃ〜」
 「そういや世間ではインフルエンザが流行っていたね。僕は流行に流されないから気付かなかったよ」
 なんてのん気なことを言っていたのだが・・・・・・
 
 
 その不二がインフルエンザにかかってしまった。
 
 
 菊丸は不二の事態を知って目の前が真っ暗になりそうになった。
 親友であり恋人でもある不二がインフルエンザになったというだけの理由ではない。今日は2月の28日。29日生まれの不二は4年に1度しか本当の誕生日が来ない。故に28日に菊丸が不二のお誕生日を祝おう!と今月始めから計画を立てていたのだが・・・
 「主役がいなきゃしょうがないじゃん・・・・・・」
 菊丸はシュンとしてしまった。大好きな日本史の授業も身に入らない。
 
 
 「そうだ!ガッコが終わったらお見舞いにいくにゃ」
 
 
 2月も後半になると3年生は短縮授業になったりして午前中だけで終わる。しかも殆どが高等部にエスカレーターで進学する上に部活も引退しているのでこの時期の3年生は公立中の同級生に比べてのんびりしている。
 学校が終わるや否や菊丸は不二の自宅に向って直行しようとした。
 「おっといけにゃい、確か今頃不二は一人でいる筈にゃ、何も食べてないかもっつーか何も食べれないかも、不二の好きな林檎をすりおろして食べさせるにゃ」
 菊丸は不二の自宅へ向っていた足を90度回転させて近くの商店街へ向った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「気持ち悪い・・・・・・」
 不二は高熱に侵された身体をだるそうに起こした。
 そういやインフルエンザにかかるなんて何年ぶりだろう。あれは小学校低学年の頃だったかな・・・なんて考えながらベッドのサイドテーブルに置いてあった自室のエアコンのリモコンを手に取りスイッチをOFFにした。
 「空気も入れ替えよう」
 不二はのろのろとベッドから出て自室の窓を少し開けた。
 「氷枕も取り替えなくっちゃ」
 不二はすっかり氷の溶けた氷枕を見つめた。
 
 不二の母親は先週から海外出張中の父親の元へ行っている。弟の裕太は聖ルドルフの寮に入っているので現在は姉・由美子と2人で生活している。しかし由美子も月末なのでどうしても仕事を休めないと青学に弟の病気の旨を連絡した後、職場へと向ってしまった。
 「病気の時に1人ってホント不便だね」
 不二は苦笑して氷枕を持つとふらふらと階下の台所へと向った。
 「久しぶりに高熱を出すと結構辛いね」
 不二は階段をふらふらする足取りで1歩1歩降り始めたその時、突然視界が真っ白になった。そして身体が宙に浮いた感じがした。
 不二の意識はここで途切れた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「不〜〜〜〜二っ!生きてるかにゃっ」
 果物屋で林檎を買った菊丸は不二の自宅のインターフォンを押した。
 「・・・・・・・・・・・・」
 応答なし
 「あり?もう1度。ピンポ〜ン」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「寝てるのかにゃ?それとも病院にでも行ってるのかにゃ?」
 菊丸は不二の自室のある2階を見上げた。
 「・・・・・・窓が開いている」
 悪い予感がした。何故とは理由はよく判らないがいわゆる菊丸の"動物の勘"というヤツで無償に悪い感じがしたのだ。
 「不二・・・・・・」
 菊丸は荷物を門の前に置いて近くの公衆電話まで走った。勢いよくカードを突っ込み不二の家の電話番号をプッシュした。
 「R R R R R R R R R R R R R・・・」
 発信音しか聞こえてこない。菊丸はますます不安になった。
 「R R R R R R ・・・ガチャッ」
 「あっ不二、俺だよ英二だよ・・・」
 「ただ今留守にしております。ピーという発信音がしましたらメッセージをお入れ下さい。FAXの方は送信ボタンを押してください」
 無情にも一方的に流れる電話のアナウンス。菊丸は黙って受話器を置いた。
 
 
 こうなったら最終手段だにゃ
 
 
 再び不二家の門の前に戻って来た菊丸。不二の部屋の開いた窓を見つめる。
 しばらく黙って不二の部屋の窓を見つめていたが意を決したように門柱に足をかけてよじ登った。
 門の屋根の上に登ってそのままガレージの屋根に向う。ガレージの屋根から1階の出窓のひさし部分に足をかけたらなんとか2階の不二の部屋の窓にたどりつけそうだ。
 「不二・・・今行くにゃ」
 菊丸は足を出窓にのせた・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi
 
 
 
 
 けたたましい警報機の電子音が鳴り響いた。
 「不二ぃ〜何があったんだ!大丈夫かっ」
 菊丸は大声で叫んだ。だがもちろん不二の返事はない。
 「早く中に入らなくっちゃ。不二に何かあったんだ」
 菊丸は2階の不二の部屋の窓に手をかけた。
 
 
 「おいっ!そこの君、一体何をしている」
 
 
 菊丸の足元から怒鳴り声が響いた。声の方を見ると警備員らしき大柄の男が3名こちらを睨み上げている。
 「あ〜、おっちゃん達も手伝ってくれよ!不二の身がきっと危険なんだよ」
 「何を言ってるんだ。この不審者め!」
 「・・・・・・へ?」
 「とっとと降りて来いっこの不法侵入者め」
 菊丸はここではじめてこの警報機が自分が不二宅の敷地内に入り込んだ為に鳴り響いたホームセキュリティーのものだということが解った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―――――― 白い
 
 不二は視界の白を見上げた。
 僕の部屋の天井ってこんなに白かったっけ。冷たく生活感の全く感じられない白。
 
 
 
 「周助、気が付いた」
 姉、由美子の声が聞こえた。
 
 「あれ?姉さんどうしたの。それにここは・・・」
 「病院よ・・・・・・」
 由美子は溜息まじりに呟いた。
 左腕に違和感を感じ、腕を上げてみると点滴のチューブが付けられていた。
 「今回のことは私も悪かったわ。あんたを置いて仕事に行ってしまったわけだし」
 「何のこと?」
 「英二君に感謝しなさい」
 そう言って由美子は病室に備え付けの長椅子振り返った。長椅子には菊丸が丸くなって眠っていて由美子が掛けたのであろう毛布が掛けられてあった。
 
 
 
 
 
 由美子の話によれば警備員に捕まった菊丸が激しく抵抗をしてどうしても家の中に入ると言うことを聞かないので警備会社が由美子の職場に連絡をして由美子を呼び出し、菊丸が弟のクラスメイトだという証明をした後、由美子と菊丸が家の中に入ったら階段下で倒れている不二を見つけたということだった。階段の途中にスリッパと氷枕が転がっていたので階段から転落したのだろうと判断をし、頭を打っているかもしれないのですぐさま救急車を呼んで病院に運んだということだった。
 「検査の結果はとくに外傷もなく頭もひどく打っていないので大丈夫ということよ。熱が下がったら家に帰るわよ」
 「うん・・・」
 不二は菊丸を見ながら返事をした。
 「英二君ね、周助が目覚めるまでここにいるって・・・でも疲れちゃったのねイロイロあったから。ついさっき眠っちゃったの」
 「英二・・・・・・」
 「私は1度家に帰るから、また明日来るわ」
 そう言って由美子は病室を出ようとした。ドアノブに手を掛けて振り返る。
 「周助、英二君を大切にしなさいよ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 不二はベッドからそっと降りて点滴を持ったまま(引きずったまま)長椅子に近づいてしゃがんだ。
 眠っている菊丸の頭に手を置いて髪の毛を指に絡める。
 「英二・・・ありがとう」
 不二はそっと唇を近付けて菊丸のそれに重ねようとした・・・が、触れる1歩手前で顔を離した。
 「いけない、だめだったんだ」
 「どうしてキスしてくれないにゃ」
 「!!英二っ!起きてたの!?」
 「今さっきだよ。不二が俺の頭に手を置いて目が覚めたにゃ」
 「今僕は風邪ひいているんだ。キスすると英二に伝染っちゃう・・・」
 「やだっ!せっかく不二の誕生日なのに・・・」
 「英二・・・」
 不二は菊丸の両頬に手を添えてそっと自分の方を向かせた。
 「僕は英二のことが大切だから英二には風邪を伝染したくない。風邪をひいた英二を見るのは僕にとってとても辛いことなんだ」
 「不二・・・」
 「だから、ね。今日はゴメンね」
 
 
 「じゃあ、伝染んなきゃいいんでしょ」
 「へ?」
 「不二の風邪が伝染んなきゃいいんだよ。」
 「英二・・・」
 「俺、不二の風邪は貰わない。だから伝染んない」
 「英二それは・・・」
 「ほら不二、もうすぐ12時だよ。2月28日が終わって3月1日になっちゃう。この瞬間不二の誕生日の29日があるんだ。その瞬間に・・・・・・キスしたい」
 いつもより積極的で不二のことを真っ直ぐ見つめるその大きな瞳に不二は胸が熱くなった。思わず菊丸をぎゅうっと抱きしめる。
 「英二、ありがとう、君を好きでいて本当によかった」
 
 
 
 
 
 11時59分57秒
 
 58秒
 
 59秒
 
 「ハッピィバースディ!不二!」
 二人の唇が重なった。
 軽く触れ合うものからお互いの唇を啄みやがて舌を絡め合った。
 ぴちゃぴちゃという水音が病室に響き二人の唇の端からは溢れた唾液がつうぅーっと流れる。
 不二は菊丸との甘いキスにただでさえ熱のある頭が余計にぼうっとなり菊丸の頭を自分の腕に抱きかかえた。
 「むっ・・・不二、痛い・・・」
 強く抱きかかえてしまったせいか菊丸が腕の中でもがきだした。
 「あ、ごめんごめん」
 不二はあわてて腕を離した。
 「にゃああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・不二ぃぃぃぃ・・・!!!!」
 菊丸が不二の左腕の点滴チューブを掴んで叫んだ。不二が腕を上げて菊丸を抱きしめていた所為で血液が逆流して点滴チューブがまるで献血チューブのようになっていたのだ。
 「不二!腕下げてっ!」
 菊丸は不二の腕を掴んで降ろさせた。逆流していた血液が元に戻り不二の血管に吸い込まれていく。
 「フフッ・・・ひょっとして英二って"血"が苦手?」
 「そっ////そんなことないにゃっ!!」
 「英二、カワイイ」
 不二は再び菊丸を抱きしめた。
 「に゛ゃあああああああ!だから腕上げちゃダメだって!」
 
 
 「ちょっと君達!消灯時間はとっくに過ぎているのよっ!!!」
 
 
 婦長の声のほうが煩いと思ったが口には出せない二人であった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 次の日の朝。不二はすっかり熱が下がって気持ちよく目が覚めた。
 病室の隅を見ると菊丸が既に起きていてリンゴを剥いている。
 「あ、不二おはようにゃvv リンゴ食べる?」
 「うん」
 「じゃあハイ、あ〜んして」
 「あ〜ん」
 器用にうさぎさんの形に切られたリンゴを不二の口に運ぶ。
 「うん、おいしい。食欲出てきたし、熱も下がったみたいだし、もう家に帰れるよ。ありがとう英二」
 「でも無理は禁物にゃ。今の不二は薬と点滴で熱が下がっているんだからにゃ」
 「心配性だね、英二は」
 「不二のことだからにゃ〜。不二の事に関しては心配しすぎてもしすぎることはない!な〜んてね」
 不二は少し困ったような表情をして微笑んだ。
 「オ、俺・・・あん時、不二が倒れていたのを見た時、本当に真っ白になった。このまま不二が目を覚まさなかったらどうしようかって・・・」
 「僕はずっと英二の側にいるよ。そんなに心配しないで、大丈夫だから」
 不二の右手が菊丸の左手に重なる。
 「もっと僕に近づいて・・・」
 軽く重なるお互いの唇。
 
 
 「これ、誕生日プレゼント」
 そう言って菊丸はラッピングされた袋から空色のマフラーを取り出して不二の首に巻き付けた。
 「首が冷えると風邪ひきやすくなるからって聞いたんだけど・・・もうひいちゃったね」
 菊丸が苦笑しながら言った。
 「このマフラー巻いてると体がホカホカしてすぐに風邪なんてどこかへ行っちゃいそうだよ。ありがとう英二」
 「そんなにホカホカするの?」
 「うん、まるで英二を抱いているときみたい。英二の体温を感じるよ」
 「///ふ、不二のエッチ!!!」
 菊丸はそっぽを向いた。
 「フフフ、ありがとう。英二」
 
 
 
 
 
 
 その後、菊丸は宣言(?)どおり、不二のインフルエンザが伝染らなかった。
 不二は改めて菊丸の精神力に感服したのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 終
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 不二様お誕生日SSというより風邪ひきネタになてしまいましたね。
 これは私の友人が風邪ひいてフラフラして自宅階段から転落してしまった実話がベースです。私の友人も無事でした。
 病院で誕生日を迎えるのはあまり色気のない話だな〜なんて思いましたが菊ちゃんがいればラブラブパワーで場所が何所でもこの二人にとってラブスペースになっちゃうんですよね(妄想炸裂)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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