不二周助君日記(僕のうきうき一週間)



† 月曜日 †

朝錬のランニングの最中に英二がコケた。足がもつれてコケたらしい。
でも英二は持ち前の明るさでニコニコしながら
「にゃはは。コケちゃった」
と笑いながらすぐさま起き上がって再び走り始めた。
ああ、いつ見ても英二の笑顔は最高に可愛い。英二の仕草のひとつひとつがまた可愛いくてたまらない。月曜日の朝からこんな英二の笑顔が見れるなんて僕はラッキーだ。
なのにランニングが終わったあと大石が呼ぶので行ってみたら「試合前なんだから英二に手加減しろ」と注意された。大石曰く休みの日に僕が英二とヤリまくってるから英二の腰に負担がかかって英二がこうやって練習中にコケるのだとのこと。
まったく言いがかりにも程があるよ。
そりゃ大石は英二のダブルスのパートナーだからパートナーが少しでも調子が悪いのが気になってしょうがないのだろうけど、この玉子はいちいち小姑みたくうるさいんだよ。
仕方がないので大石愛用のピルケースの中身の胃薬を
正露丸にすり替えてみた。

夕方大石が部室に現れて何気なくラケットバッグを開けるとたちまち室内にあの正露丸の独特の臭いが充満した。
「何だよ大石、正露丸なんか持ってて臭ぁ〜い!」
真っ先に英二が反応した。
「大石、腹でも壊してるのか?大丈夫?」
タカさんが心配そうに言った。やさしいよねタカさんって。でもその顔は鼻を歪ませてたから本当はあの臭いが嫌だったに違いない。
桃は背中を向けて着替えているが鼻をつまんでいるし、海堂はそそくさと着替えてすぐにコートに出て行った。トレードマークのバンダナもせずに。
「・・・ちぃーっす」
そこへ越前が入ってきたけど3秒ほど黙った後で「教室に忘れ物してきました」と言って回れ右してしまったよ。
「大石ったらよりによってなんでそんなもん持って来るんだよ。どうせなら無臭の腹薬にしろよ〜!」
英二は相変らずぷんすかと怒っている。怒った顔も可愛いなあ。
「違うっ!俺は胃薬を入れてたけど正露丸なんて入れてない!本当だ信じてくれ」
信じてくれなんて言われてもこの臭いの充満してしまった部屋で誰も信用なんかしないよ。
あ〜あ、ラケットバッグに一緒に入れていたタオルやポロシャツにまで正露丸の臭いが染み付いてしまってるよ。ご愁傷様。
この日の部活は誰も大石の半径5m以内に近づく奴いなかったね。

駄目だよ、僕をフリーにしちゃ。





† 火曜日 †

桃が英二と組んでダブルスの練習をしていた。ふーん、結構この二人でもやるもんだね。
というかパートナーが英二だから桃だって上手くやれているんだよ。
なんてったって
僕の英二はダブルスに関しては無敵だからね。
この
天才と言われている華麗な僕だってダブルスをやれば負けてしまって「不二はダブルスでは勝った事がない」なんて言われてしまったけど六角中戦でやっとこさ念願の英二とダブルスを組むことが出来て嬉しくて舞い上がってしまったよ。大石の腕が早く治らないように黒魔術かけておいた甲斐があったよ。
しかし練習中の二人を見ていたらどうも桃の様子がおかしいことに気が付いた。
桃の顔が僅かに赤くなっている。
桃の視線の先にはオーストラリアンフォーメーションの前衛ポジションについている英二。
つまり英二は自然と後衛の桃にお尻を突き出している格好をとっているんだ。
しまった!僕達もオーストラリアンフォーメーションをやるべきだった!
そうしたら僕も英二のかわいいお尻が正々堂々と見放題なのに・・・
でもいいんだ。僕は英二のかわいいお尻が
生で見れる唯一の男だからvv

タオルを忘れたので部室に取りに戻ったら桃のロッカーに購買のやきそばパンが置いてあるのが目に付いた。どうやら部活が終わった後で食べるつもりなんだろう。全く食べ盛りなんだね。僕は微笑ましくなってしまった。
でも人生には刺激も必要なんじゃないのかな。
僕はそのやきそばパンに
MYタバスコを1本分かけてみた。

部活が終わって最近頑張っている一年トリオにちょっとスィングの指導をしていたら部室から怪獣の悲鳴みたいなのが聞こえてきた。一年トリオはびっくりして部室の方を見ていたけど僕はかわいい後輩達が怯えないように「たいしたことないよ」となだめておいた。ああ僕はなんて優しい先輩なんだろう。
どうやら桃にはあのやきそばパンは刺激が強すぎたらしい。

駄目だよ、僕をフリーにしちゃ。





† 水曜日 †

今日は聖ルドルフ学院に行って合同練習をした。
ああなんて今日は素敵な日なんだろう。
右をむけば可愛い僕の英二、そして左をむけば僕のかわいい裕太。まさに僕にとってハーレム状態だよ。
でも聖ルドルフ学院の部室に初めて入ったんだけど
なんて趣味の悪い部室なんだろう
ミッションスクールだからところどころに教会関係の机や椅子が置いてあるのは分かるんだ。けどところどころに置いてある薔薇模様のクッションやカーテンは一体何なんだろう。
「何この
趣味の悪い薔薇のクッション」
って裕太に聞いてみたら裕太ったらなんだか慌てふためいて「それは個人の私物だから」と小声で言ってきた。どうやら裕太の先輩の私物みたいだ。
裕太も大変だね。学校は選べても先輩は選べないからね。

で、合同練習なんだけどあの観月とか言うマネージャーが上手いこと言って青学黄金ペアのデータを取りまくろうとしてるのがあからさまなんだよね。別に大石のデータを取っても使い道なさそうだけど英二のデータは取られるとうざいんだよ。ほら、この前の試合のここの部長のバカ澤とか言う奴がやらかしたみたいに変なブレ球なんかまたやられたらたまったもんじゃないよ。

でもここはルドルフだしあまりでしゃばった行動に出ると裕太に迷惑がかかるから僕もここは大人になってひとつ我慢をしたんだよ。ああ僕って弟の為なら自身を犠牲にもできる素晴らしい兄だ。
それにこっちだって乾があれこれデータを取っていたからね。お互い様だよ。
そんなんで無事合同練習が終わったんだけどやっぱあの部室の趣味の悪い薔薇模様のクッションが気になったので帰り際に
ブーブークッションに摩り替えておいた。

駄目だよ、僕をフリーにしちゃ。





† 木曜日 †

部活が始まるまでの自由時間に英二が越前で遊んでいた。
英二は越前のことを「おチビ」って呼んでいてとてもお気に入りのようだ。
英二はまるで道端で猫に出会った時みたいに越前にちょっかいをかけていてその光景が結構微笑ましかったりするんだよね。
けど今日は違った。
英二が持ってきたお菓子を越前に与えているとどうも越前がそのお菓子を気に入ったみたいで菓子箱を眺め始めたんだ。そこで英二が「にゃにー、おチビこれ気に入ったのなら明日も持ってくるよ」なんて満点の笑顔で言ったらいきなり越前が「ありがとうございます菊丸先輩」と言ってあろうことか英二の頬にチュッと軽くキスをしたんだ。英二が驚いたように頬を押さえて越前を見つめたら「アメリカ式のお礼ですよ」なんていけしゃあしゃあと言ってのけたんだ。
このどチビ、
いい度胸だね。

帰宅途中目の前を猫がうろうろしていた。どうやら迷い猫みたいだ。
どこからやって来たのだろうと思いながらよく見てみるとなんと越前の家の猫のカルピンだった。
可哀想だったのでなんとか家に帰してあげたいと思ったので鞄の中から今日の書道の授業で使った毛筆をとりだしてカルピンの背中に墨で越前の住所と「越前カルピン」と名前まで書いてあげた。カルピンはヒマラヤンなので長毛種だから字が書き辛かったので
木工用ボンドで長い毛を固めてやった。
これで誰が見てもカルピンがどこに住んでいる猫なのか分かるだろう。

駄目だよ、僕をフリーにしちゃ。





† 金曜日 †

大石が「いつでも手塚は俺たちの側にいるんだ」と言って部室に手塚の写真を飾った。
確かに手塚が戦線離脱をした環境に慣れてしまうと僕だって「そういや手塚がいたっけ」なんて手塚がいない日常が当たり前になる錯覚をしてしまう。駄目だな僕も自分が所属する部活の部長の存在を忘れるなんて。ちょっと反省しよう。

めずらしく僕と英二が部活に最後まで残っていたので帰りに部室で着替えるのが二人だけだった。
これはチャンスだと思って早速英二を床に押し倒してポロシャツを脱がしにかかったら英二に激しく抵抗された。
「英二、何で今日はそんなに嫌がるの?」
「だって手塚に見られている感じがするんだもん」
英二に言われて後ろを振り返るとそこには大石が飾った手塚の写真。たしかに押し倒されている英二にしてみれば手塚に見られているような錯覚を起こして恥ずかしくなってしまうのだろう。
でも僕だって諦めないよ。
「手塚って写真じゃないの。本物はドイツにいるんだから関係ないよ」
なのに英二ったら
「写真でも恥ずかしいものは恥ずかしいの!」
と断固として拒否し続ける。

結局僕は英二とヤることが出来なかった。
これもそれも手塚と大石の所為・・・・・・

仕方がないので僕は手塚の写真に
黒いリボンを飾ってみた。

駄目だよ、僕をフリーにしちゃ。






† 土曜日 †

学校は週休二日制で休みなので部活だけだった。
明日は部活も休みだからもちろん僕は今晩英二を連れ込むつもり満々だ。
今晩はどうやって英二を可愛がろうかなあ。あれこれやりたいことだらけで迷ってしまうよ。
それで以前から淫猥作用を起こす飲み物を乾に頼んでいたんだけど乾の奴よりによって「調合を間違えた」なんてぬけぬけと言ってくれた。僕、楽しみにしてたのに……
仕方がないので乾が他校の調査に行った時に、山吹中の花壇に誤って入って花を踏みつけてそのまま逃げ去った。とか、不動峰中に不法侵入しようと塀をよじ登って古くなっていた塀のコンクリを剥がしてしまった。とか、聖ルドルフではどさくさ紛れに教会のパイプオルガンのパイプを一本拝借して帰ってきた。とか、立海大付属で侵入に成功した部室で柳蓮二のジャージの匂いを嗅いで喜んでいた。とか
表沙汰にしたらマズイことをネタにゆすってみたら冷や汗をかきながら慌てて調合をやり直してくれたよ。乾も結構あちこちで色んなことをやらかしているんだね。
でもこれで淫猥剤も手に入ったし。後は英二がやってくるのを待つだけだ。

駄目だよ、僕をフリーにしちゃ。





† 日曜日 †

昨晩は乾のお蔭で無事英二を堪能できて僕も大満足だvvやっぱり持つべきものは友達だ。
それで今日は部活も休みなので英二とお台場にデートしに行ったらなんとお台場の海で無謀にも潮干狩りに挑戦して玉砕している妙な連中がいたので面白がって見ていたら六角中のレギュラー陣だった。あいつら何を思って千葉からわざわざバカな事をしに来ているんだろう。
なんて考えていたら佐伯が僕らを見つけて近づいてきた。そうだ、佐伯も動体視力が良かったんだよね。でも今日は勘弁して欲しい。周囲の観光客に僕らもバカな潮干狩り連中の仲間だと思われてしまうじゃないか。だから他人のフリをしようとしたのに・・・
英二は純粋だから六角中の連中と会って喜んでいる。
あーあ、僕は英二と二人っきりでデートしたかったのに何で千葉のイケてない連中に乱入されなきゃいけないんだよ。
僕はうっとおしそうに「佐伯、大都会の海では貝は採れないよ」と言ってやったら
「俺は採れなかったけど樹っちゃんが大物狙いだから摂れたよ」となんだかやたらでかい貝を差し出された。よく見たらなんと
あこや貝だった。何でお台場の海にあこや貝なんているんだよ!
僕が呆然としていたら樹が貝を開けた。中には見事な乳白色の真珠が出来ていた。
「わあ、すごーいvv」
英二は純粋に喜んでいる。何で喜ぶんだよ!お台場の海でこんなことあってたまるもんか!
僕は眩暈を起こしそうになった。
そうしたら佐伯がその真珠をひょいっとつまみあげてあろうことか英二の掌に乗せて握らせてこう言ったんだ。
「菊丸、これは俺の気持ちだから・・・」

油断も隙もありゃしない!
しかもその真珠は樹が採ったやつじゃん。
佐伯、
僕の目の前でよくもやってくれたよね。

「すごいじゃない、あこや貝を採るなんて!さすが六角中レギュラー陣だよ。でもまだもっと採れるかもしれないよね」
僕は彼らを誉めてみた。そしたら英二も
「ホントだ〜、もっと採ってみてよ」と純粋に大はしゃぎしている。
「そうだなじゃあもうちょっと採ってみるか」
英二の可愛い笑顔に気を良くしたのか佐伯は六角レギュラー陣を率いて再び無謀な潮干狩りを始めた。
ふふっ僕の計算通り。

「僕達は素人だから潮干狩りなんて出来ないからちょっと向こうの展望台から眺めてるよ」
そう言って僕は英二を連れてその場を離れた。
「ええ〜、俺も潮干狩りやりたい」とむくれる英二を「海をなめちゃいけないよ。やっぱり日頃から海の近くで生活していて慣れている人でなきゃ」となんとか丸め込む。
そんな英二も展望台につくと眺めの良さにすぐに機嫌を取り戻した。
頃合いを見計らって僕は英二に「ちょっとトイレに行って来る」と言ってその場を離れ携帯電話を取り出した。


もしもし、警察ですか?今お台場の海で無謀にも潮干狩りをしようとしている危ない集団がいるんですけど子供が真似したら危険なので取り締まってくれませんか?え、僕?僕はただの通りすがりですよ、ええそんな危ない潮干狩りの連中とは面識もありません、赤の他人です。では一刻も早く取り締まりに来てくださいね。」



佐伯、僕に勝つのはまだ早いよ。







fin







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