ダブルスの行方




「ゲームセット ウォンバイ 手塚 6−0」
歓声と同時に大石は右手首を押さえた。
怪我が完治していない大石は手塚を全国出場メンバーに入れて自らレギュラーから退いたのであった。



「大石、酷いじゃん、怪我のことずっと隠してるにゃんて・・・」
二人の試合をじっと見ていた菊丸はフェンスを掴んでいる手に力を込めた。
「英二、ごめんな。全国でペア組めなくなった」
「大石・・・」
こらえきれず菊丸の頬を涙が伝った。
「菊丸、辛いかもしれないが大石の決断を解ってやってくれ」
近づいてきた手塚が菊丸にそっと言った。
「うん・・・俺、全国で大石の分まで頑張るから、だから早くその腕治せよな」
「ああ」
口では解った事を言ってみても菊丸の瞳からは後から後から涙が溢れ出る。
「英二・・・」
不二がそっとタオルを菊丸に渡し、菊丸はタオルに顔を埋める。
不二は黙って菊丸の肩を抱いた。
「大石の穴は僕らが埋めるよ。一緒に頑張ろう、英二」
「うん」



「と、言うわけで・・・」
不二は菊丸の肩を抱いたまま大石に顔を向けた。
「青学の誇る黄金ペアは全国で戦えない。となると僕と英二のドリームペア再結成だねvv
不二が勝ち誇ったような微笑を浮かべた。
「ちょっと待ってくださいよ!不二先輩はシングルスじゃ・・・」
「僕はダブルスがやりたいの!」
「え、俺また不二とダブルス組むの?」
菊丸が顔を上げた。
「何?英二そのものの言い方。僕と組むのが嫌なの?」
「えっ!いや、そんな意味じゃないって!不二はシングルスの方が強いじゃん」
「僕は英二とペアが組みたいの!」
「あー酷いっ俺だって英二先輩ともう一度ペア組みたいっす」
「何我侭言っているんだい桃」
不二が氷の刃のような鋭い眼光で桃城を睨み付ける。
「我侭じゃないっすよ!英二先輩みたいな天性のダブルスプレイヤーとペアを組んで俺もダブルスの勉強したいんです」
「だったらダブルスの勉強不足な俺と菊丸先輩が組めばいいじゃないっスか?」
「越前!お前まで何言い出すんだ!」
「そうだよ越前、君はシングルス向きだろ」
「公式戦でダブルス組んだのって桃先輩とだけだから全然勉強にならなかったんですよね。だから俺も一度菊丸先輩とペア組んでみたいっス。男はやっぱダブルスでしょう」
「俺とペアで悪かったな!」
「それに他校の奴らが何て言ってるか知ってます?手塚部長のこと『シングルスでは凄いプレイヤーだがダブルスを見たことが無い。きっとあいつはダブルスが出来ないんだ』だって」
皆が一斉に手塚を見た。そう言えば手塚がダブルスをしているのを見たことが無い。
手塚はコホンと咳払いをするとリョーマに言った。
「・・・越前、それは誰が言っていたのだ?」
「立海の部長」
「・・・・・・あの死に損ないめ」
「手塚相当嫌われてるね」
「俺もそんな風に見られるの嫌っス。だから俺が菊丸先輩とダブルス組みます」
「ちょっと越前!君何考えてるの!全国大会だよ、全国!日本各地から強豪がやってくるんだよ!君のダブルスの練習試合をやっている場合じゃないんだよ!」
「そうだぜ越前!だから氷帝戦で実績のある俺が英二先輩と組めばいいんだ」
「何言ってんだい桃!六角戦での実績のある僕のほうがいいんだよ」


「お前ら!いい加減にしろ!」


「部長・・・」
「手塚」
「手塚部長」

三者三様の反応をする。
「菊丸、お前の意見はどうなんだ?」
手塚は言い争っている三人を無視して菊丸に近づいた。
「そうだ!英二先輩の意見を聞こうじゃないか!」
「え?俺?ペアの相手は誰でもいいけど」
「ならば菊丸・・・」
「ほぇ?」
手塚がいきなり菊丸の腕を掴んだ。
「全国大会では俺とペアを組め、それで王者立海を倒すんだ」
「なんだよ手塚!君まで!」
「王者立海大を倒すためだ。全国では幸村も復帰する」
「何言ってんだよ手塚。君がいなくたって僕らだけで王者立海を倒したんだよ。別に君がいなくても勝てるよ
「・・・立海の幸村部長を倒したけりゃシングルスで一対一で堂々と戦えばいいじゃん」
リョーマもぼそりと呟いた。
「手塚部長、それただの私怨じゃないっスか?」
「しっ私怨なものかっっ(慌) 王者立海を倒す為だ!」
「だからもう倒したって!」
「何だかんだ言って本当は手塚も英二のこと狙ってるんじゃないの?」
「俺はまだ不二に殺されたくない」
「部長、何弱気になってるんですか!?部長も英二先輩狙いなら闘わなくっちゃ!」
「お前らと一緒にするなっ!」






大石は黙って全国大会に向けて闘志たぎるコートを後にした。
その足はまっすぐに水飲み場に向かい、目的地に着くとポケットから徐に胃薬を取り出す。
「手塚、帰ってきてくれてありがとう。俺ではこのチームをこれ以上まとめていく自身がなかった・・・本当に帰ってきてくれてありがとう・・・・・・後は頼む」









「あんなに揉めるなら英二がシングルスやればいいんじゃないの?」
熱くなっている連中を遠くから眺めていた河村が呟いたがそれは当事者達の耳には届かなかった。








小説部屋へ