| 3年6組 狂詩曲(ラプソディ) =後編=
 
 
 
 
 
 
 
 
 菊丸家の来客用和室では来客用の羽毛布団が敷かれ、そこで菊丸は“病人として”眠っていた。「英二、少しくらい起きられる?お医者さんが来てくれたわよ」
 めずらしく菊丸が起きてもいられない高熱でうなされているため仕事を休んだ母親が近所の馴染みの内科医に往診を頼んだのだ。
 「んー・・・・」
 菊丸はうっすらと目を開けて部屋に入ってきた医者を眺めた。
 「英二君久しぶり、大きくなったね」
 医者はそう言って菊丸の傍らに座って鞄から聴診器を取り出した。
 聴診器を耳にセットしている医者を見て菊丸はどうして久しぶりに会った大人は皆「大きくなったね」しか言わないのだろうとぼんやりとした頭で思った。
 先月の法事で久々に親戚が集まった時なんて俺の知らない、でも向うは俺の事知っている親戚のオバサン達が次々と近くにやってきては
 「あら〜、誰かと思えば英二君だったのね。すっかり大きくなっちゃって」
 「前に会った時は小母さんの腰くらいだったのにね」
 「英二君にすっかり身長追い抜かされたわね」
 なんて言われたことを思い出す。じゃあ成長期が終わった上の姉ちゃんにはなんて言うんだろうなんて思っていたら
 「あら〜、すっかりキレイなお姉さんになっちゃって」
 だったもんで笑いそうになったのを必死で堪えていた。
 確かに姉ちゃんは短大に入ってから化粧し始めてキレイになったけどな。洗面台占領するのは勘弁だよな。
 そういや不二も不二のところの姉さんのこと同じように言ってたよな。
 
 
 「顔が浮腫んでいるね。気分はどう?」
 他所事を考えていたのでふいの医者の問いかけに菊丸は反応出来なかった。
 「――――― 姉ちゃんて・・・」
 「え?」
 菊丸がか細い声で言ったので医者が耳を近付ける。
 「美香姉ちゃんて最近キレイになったね」
 「えっ、英二っ! いきなり何を言い出すの!」
 医者の後ろで黙って見ていた母親があわてて身を乗り出して言った。
 「もう、この子ったら、普段言わないようなことを・・・熱でもあるのかしら」
 
 
 「お母さん、英二君は熱あるんですけど」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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 雨で部活が中止になった為、不二は菊丸家に向った。
 玄関の呼び鈴を押すと菊丸の母親が出てきた。
 「あら、不二君いらっしゃい」
 菊丸の母親は人当たりの良い笑顔で微笑んだ。その笑顔を見て不二は菊丸の母親に会うたびにいつも「英二はお母さん似なんだ」と思ってしまう。
 「英二君の具合はどうですか?」
 「熱がなかなか下がらなくてお昼過ぎに医者に往診に来てもらって注射をうってもらったから今は少し顔色も良くなってきているわ」
 「そうですか、じゃあ明日もまだ学校には来れないですよね。お大事にと伝えて下さい」
 不二はぺこりと挨拶をして帰ろうとした。
 「あ、待って不二君!」
 「何ですか?」
 「不二君が英二を保健室まで運んでくれたんですってね。ありがとう」
 「あ、いえ・・・」
 「それでね、英二がどうしても不二君に直接お礼が言いたいから不二君が家に来たら中へ入れるようにって言われてるの。さ、入って」
 「でも39度近くの熱で苦しいんじゃ・・・」
 「本人がどうしてもって言うから、まあ病は気からなんていうし不二君の顔をみたら英二も元気になるんじゃないかしら」
 菊丸の母親はケラケラと笑った。それを見て不二は「やっぱり英二は母親似だ」と感じたのだった。
 
 
 いつもの菊丸兄弟の部屋ではなく客間へ通された不二は一瞬部屋の真ん中で寝ているのが菊丸ではなく別人のような錯覚をした。
 枕もとに静かに座る。その気配に気付いたのか、菊丸が瞳を開いた。
 ぼんやりと不二を見つめている。しばらくしてやっと焦点が合ったらしく
 「不二ぃ〜 vv」
 と、嬉しそうに微笑んだ。
 「英二、まだ頭痛いの?」
 「さっき注射うってもらってからだいぶ良くなった。ありがと不二」
 「そういやこの部屋って初めて入る。誰の部屋なの?」
 「ここは客間だよ。親戚の叔父さんや叔母さんが泊まりに来た時に使うんだ」
 「そうなんだ。いつも思うけど英二の家って面白い。だって二世帯住宅なのにお祖父さんたちの家の方との境のドアはいつも開けっぱなしでまるで一軒屋みたいで二世帯住宅の意味ないじゃない」
 「あははは。そうだろ」
 「不二君ごめんね。引き止めちゃって」
 菊丸の母親がお茶を持って部屋に入ってきて不二の側にお茶とお菓子の載ったお盆を置いた。
 「英二、だいぶ顔色よくなってきたわね。お母さんちょっと買物に行かなくちゃいけないからしばらく家に誰もいなくなるけどもうすぐしたら誰か帰ってくると思うから」
 「もう大丈夫だよ。行ってきなよ」
 「おばさん、英二は僕が看てますから大丈夫ですよ」
 「不二君がそう言ってくれると安心ね。じゃあ悪いけどよろしくね」
 菊丸の母親はそう言って部屋を出て行った。
 
 「不二・・・」
 菊丸はか細い小さな声で言った。
 「何?」
 「来てくれると思った。ありがとう。母さんに無理言って頼んでよかった」
 「英二・・・」
 「会いたかった。不二に会いたかった。今日一日会えないだけで心細くなった」
 遠くでガチャリと玄関のドアが閉まる音が聞こえた。母親が買物に出て行ったらしい。
 「不二・・・キスしてほしい」
 「いいよ」
 不二は掌を菊丸の額にあててそっと唇を重ねた。発熱している菊丸の唇はやはり熱かった。
 不二が菊丸の唇を啄むように吸っていると菊丸の方から舌を差し入れてきた。
 「ん・・・」
 侵入してきたそれは不二の歯列をなぞりさらに口腔の奥へ入ってきて不二の舌を捕らえた。舌を捕らえられた不二も負けじと菊丸の舌に絡ませる。
 和室にぴちゃぴちゃと水音が響いた。
 「英二からキスをせがむなんてめずらしいね。やっぱり熱があるせいなのかな」
 不二は唇を解放した後、飲みきれずに唇の端から零れ落ちている唾液をハンカチで拭った。ついでに菊丸の唇も拭ってやる。
 「医者が来たんだ」
 「ああ、注射うってもらったんだよね」
 「胸に聴診器あてられるときに俺その時苦しくってぐったりしてたんだ。そしたら医者がパジャマのボタンをはずしてくれて・・・」
 「ひょっとして僕に服を脱がされている時のこと思い出した?」
 菊丸は発熱で只でさえ赤い顔を余計に赤らめて頷いた。
 「そして聴診器をあてられている感覚を僕が英二の身体にキスしているのと錯覚したんじゃないの?」
 菊丸はこくこくと頷いた。
 「ひょっとしてシたいの?」
 不二は菊丸の耳に唇を寄せてそっと息を吹きかけるように囁いた。
 「や///不二のエッチ!今はだめだよぅ。熱があるから身体の節々が痛いんだ」
 「そっか。残念無念だね」
 「む〜、不二ったら。それ俺の決め台詞だって」
 「あはははは」
 「それでさ・・・」
 菊丸は顔を赤らめて描け布団で目から下を覆って不二を見上げた。
 「お、俺の身体にキスマークなんかつけてないよね。聴診器あてられる時にちょっと気になった」
 「さぁ〜どうだろ?」
 「/////ふじぃ〜。医者の後ろには母さんも居たんだよ〜」
 菊丸は涙目になって不二を見上げた。
 「あははは、嘘。マーキングしたら体育の時や部活の時に着替えるのに大変じゃない。僕はいいんだけどね。英二は僕のものって印だから」
 「やっ・・・///不二、そんなの恥かしいよ」
 「解ってるよ。英二が恥かしがり屋さんだって。だからいつもキスマークをつけないようにしている」
 「ありがとう不二。それに昨日もありがとう、保健室まで運んでくれて。なんか嬉しかった。担架で運ばれるより不二に運んでもらえて良かった」
 菊丸は心に底から嬉しそうに不二に微笑んだ。その微笑を見て不二は学校で流れている自分達の噂話を菊丸に話すのを止めることにした。
 不二は倒れた菊丸を見てつい周りを省みずに抱き上げてしまったことを少し後悔していた。
 別に自分達の関係を隠すつもりはないのだが人前でしかもクラスの皆が見ているところであのような行動をとってしまい菊丸が恥かしがるのではないかと思っていた。
 しかし菊丸は恥かしいとは言わずに感謝の言葉を言ってくれた。
 不二にはそれで十分だった。今後菊丸が何かからかわれるようなことになれば常に自分が護ればいい。
 
 
 
 
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 ケイが菊丸家の前を通りかかった時、丁度菊丸の母親が買物に行こうと中から出てきた。「あらケイちゃん、お帰りなさい」
 「ただいま。おばさん、英ちゃんの具合はどうなの?」
 「注射うってもらってだいぶ良くなったけどまだ平熱じゃないのよ」
 「そうなんだ。めずらしいですよね。英ちゃんがそんな熱出すなんて」
 「数学の授業中に具合が悪くなったって聞いたから知恵熱かしらね」
 「おばさんったら」
 ケイはくすっと笑った。
 「あ、そうだケイちゃん。今不二君が来てるのよ」
 「不二君が !?」
 やっぱり。とケイは思った。昼間の不二の態度からして見舞いに来るのは容易に想像できた。
 「おばさん今から買物に行かなくちゃいけないんだけどよかったらケイちゃんも上がって行く?1階の西の奥の和室にいるわよ。そのうち美香あたりが帰ってくるから」
 「おじゃまします」
 この目で確かめたかった。二人の関係を。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 菊丸家に入ったケイは音を立てないように廊下を歩き、和室の前で止まった。中には菊丸と不二が二人っきりでいる。すぐに入ってもいいものかどうか少し躊躇している間に中から菊丸の声が聞こえてきた。
 「うわっ・・・・・・」
 一体何をやっているのだろうとケイは思った。
 「あ・・・やっ、不二・・・痛い、もうちょっとやさしくしてよ」
 「これでも十分やさしくしてるけど」
 「やんっ・・・」
 ケイはドキドキしてきた。
 ――― キスをしたら恋人なの?セックスしたら恋人なの?
 昼間の不二の台詞を思いだし顔が真っ赤になる。
 え、英ちゃんも不二君も男なのよ・・・・・・。
 でも・・・・・・
 
 昨日の二人、とてもキレイだった。
 
 やっぱりさっきあのまま帰ればよかった。
 ケイは居たたまれない気持ちになって廊下に座り込んだ。体育の時間の座り方で膝に顔を埋める。
 ふいにがらっと和室の障子戸が開かれた。
 「あれっ?鈴木さん?どうしたの?」
 ケイが顔をあげると氷嚢を抱えた不二が立っていた。
 「あ////あの、そこでおばさんに会って・・・不二君も来てるから中に入るように言われて・・・」
 不二はケイの傍にしゃがんで小声で言った。
 「別に僕達はやましいことなんてしてないから、中に入りなよ」
 不二に見透かされれてケイは顔を赤らめた。
 「英二〜、鈴木さんが来たよ」
 不二は和室の中に向かって叫んだ。
 「あ〜、丁度良かった。助かった」
 「助かったですって!」
 ケイは目を丸くした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「あいたたたたっ!ケイちゃんもひどいや」
 「ひどいことした覚えないわよっ」
 「い〜やっ絶対不二とつるんでいる」
 「つるんでないってば」
 「二人して俺のことを・・・」
 「なんなら痛い目にあわすわよ」
 「うぎゃ〜っ!!!!!」
 
 
 
 
 「ほら英二ったら、これで僕がひどいことしていないって解っただろ。英二が痛がりなんだよ」
 不二が新しい氷嚢を持って来て菊丸の額に乗せる。菊丸は涙目で不二を見上げた。
 「俺は病人なんだぞ、もうちょっと労われよ」
 「じゃあ や・さ・し・く してあげようか?」
 「あの〜、私お邪魔みたいなんで帰るわ」
 「バカバカ、不二のバカッ!不二が俺のことイジメル〜。ケイちゃん、不二がイジメないように見張っててよ」
 「あのさー、英ちゃん。身体の節々が痛いから擦ってくれって言ったの英ちゃんなのよ。だから不二君が擦ってくれてるのに文句ばっかり言うんだから・・・私が交代しても痛がって文句ばっかり・・・」
 「だって〜、熱あるし頭痛いし関節も痛いし〜」
 ケイは溜息をついた。
 「英二、今一番痛いところはどこ?」
 そのやりとりを見ていた不二が菊丸に尋ねた。
 「え、ええと・・・頭のてっぺんがガンガンする」
 「ここかい?」
 不二は掌を菊丸の頭にそっと乗せた。そのままじっと手を動かさずにただ手を当てているだけである。
 「不二・・・?」
 「これだけでもちょっとは落ちつかない?」
 「あ、そういえば・・・・・・・・・」
 「患部に手を当てると不思議と落ちつくもんなんだよ。だから“手当て”って言うらしいんだよ」
 「そうなんだ。不二のハンドパワーだにゃ」
 菊丸は嬉しそうに微笑んだ。そして気持ち良さげにそっと目を閉じた。不二もそんな菊丸を優しい眼差しでそっと見下ろしている。
 ケイはそんな二人を静かに見ていた。
 
 満ち足りた恋人達の風景。
 
 いやこの二人を“恋人”と簡単に表現するのは間違いだと感じる。
 お互いを信じ合い、お互いを理解し合い、お互いを想い合い、まるで魂で結びついているような情景に親友だの恋人だのという枠にはめてはいけないようなものを感じた。
 
 ――――― 好きな相手の事は全てを知りたくなるものじゃない。その行為は人によってそれぞれ違うかもしれないけど好きという気持ちの一連の動作じゃないかな
 
 ケイは昼間、不二が言ったことがはじめて理解出来た気がした。何かを言いかけて口を開いたが声は出なかった。それは―――――
 
 余人が口を差し挟むスキなど、どこにもありはしなかったから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 玄関のドアが開く音がして誰かが和室に近付いてきた。
 「やっほ〜!英二、生きてる〜?」
 障子戸を勢い良く開けたのは短大生の姉の美香だった。
 部屋に入るや否や不二とケイに口の前で一本指を立てた「シ〜」という静かにしろポーズを取られる。
 「美香ちゃん、今英ちゃんが眠ったばっかりなのよ」
 ケイが小声で言った。
 菊丸は不二の温もりに安心仕切った表情で穏やかな呼吸をたてて眠っていた。
 「なーんだ。せっかくプリン買ってきたのに。じゃあ3人で食べちゃいましょう」
 美香は都内でも結構有名な洋菓子店の紙袋からプリンを取り出して不二とケイに手渡した。
 「美味しいっ」
 「でしょー。ここの焼プリンって美味しいのよねー」
 「僕の姉さんも好きみたい。よく買ってくるよ」
 「あれ?不二君ってお姉さんいるんだ?」
 「うん、弟もいるよ」
 「へえ〜、そうなんだ」
 3人がプリンを食べて盛り上がっているうちに菊丸の母親が帰って来て続いて家族がぞろぞろと帰って来た。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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 不二とケイが菊丸家を出た時にはすっかり雨も止んでいた。
 二人は並んで歩いていたが会話はない。
 「え〜と、あのね不二君」
 ややして沈黙を破ったのはケイの方だった。
 「昼間はひどいこと言ってごめんなさい」
 ケイは立ち止まって不二に深々と頭を下げた。
 「ひどいこと言われた覚えはないけど」
 「私は言った覚えがあるの!・・・・・・・・・不二君のことおかしいだとか、その・・・何て言うか私、型にはめた考え方してた。英ちゃんを看病している不二君と不二君に頼っている英ちゃんを見てたら不二君の言ってたことが何となくだけど解った。数学みたいな答は出ないわね」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「私、不二君にヤキモチしてたと思うの。私と英ちゃんって小さい時から一緒で兄弟みたいなものなの。私って一人っ子なんだ。だから英ちゃんが、いや菊丸兄弟姉妹とは家族みたいなもので、だから・・・何て言うか・・・・・・・・・」
 「僕も姉さんがはじめて彼氏を家に呼んで来た時にはちょっと複雑な気分になったな」
 「解ってくれてありがとう」
 「でも僕はさっき鈴木さんにヤキモチしてしまったよ」
 「何で?」
 「鈴木さんは英二や英二の姉さん達とは本当の兄弟みたいだったよ。僕の場合は何度菊丸家に行っても“お客さん”だもの。“家族”みたいな鈴木さんが羨ましいと思った」
 ケイは不二の顔を見上げた。不二は少し淋しそうな顔をして微笑んでいるだけだった。
 「不二君って以外と普通の男の子だったんだ」
 「それどーゆー意味?」
 「だって不二君って格好イイし、キレイな顔立ちしているし、それでいてスポーツ出来て勉強だってよく出来て・・・まさに理想の王子様なんだけど何て言うか取っ付き難い感じがするの。用事があって話する時でもなんか硝子一枚隔てた感じがして・・・・・・でも英ちゃんと居る不二君見てたら何の隔たりもなくて、あれが”素”の不二君なのかな?」
 「別に、僕は僕だよ。自分を作っている訳でもないし、鈴木さんは僕の事良く知らないで勝手に僕の人格を作り上げていただけなんだよ」
 「そうね。外見だけで判断したらいけないって良く解ったわ」
 すぐに二人は「鈴木」と表札の付いた家の前に辿りついた。
 「あのー、私の家ここだから、じゃあね」
 「さよなら」
 「不二君!」
 ケイは門扉を開けようとした手を止めて帰り行く不二の背中に向って声を掛けた。
 「あの・・・学校で流れている変な噂、早く治まるといいね」
 「噂?ああそうだね。僕は別に気にしてないからいいよ」
 「不二君って自覚してないかもしれないけど女の子のファンが多いんだよ。今後何か嫌がらせとかされるかもしれないよ。英ちゃんも巻き添えで・・・でも、でも私は不二君と英ちゃんの味方だから。二人を応援してるから。だから・・・・・・・・・」
 
 「だから負けないでね」
 
 「ありがとう鈴木さん」
 不二はケイに向って軽く右手を上げるとすぐに背を向けて歩き出した。ケイは不二の姿が見えなくなるまで家の中に入らずに不二の背中を見ていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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 ニ日後、すっかり熱も下がって元気になった菊丸は学校に登校して来た。
 クラスメイト達は「おはよう」と普通に接するだけで特に不二とのことを言う者はいなかった。
 何故なら ―――――
 
 菊丸の傍には開眼状態の不二が居たから。
 
 軽い気持ちで菊丸に不二とのことをからかおうとしていたクラスメイト達は身の危険を感じ、ただ「熱下がって良かったな」と言うだけであった。
 
 すべてを知ってしまっているケイはそれを見て「くすっ」と心の中で笑った。
 ――――― さすが天才不二周助。
 
 
 その後 「さわらぬ不二に祟りなし」 という噂が流れる事になる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 終
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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