| 太陽を背に浴びて霞む瞳に映るもの
 
 
 
 
 「本気でやってよ」
 コートの中で汗だくで倒れて起き上がってこない先輩を見てつい体が動いてしまった。
 いくら対戦相手が四天宝寺の部長だからってこんな一方的な負け試合はこの人には似合わない。
 
 
 「こら おチビ!不二に何てこと言ってんだよ!!!」
 目の前で怒鳴っている俺の憧れの人。
 「だってこのまま不完全燃焼のままだったら勿体無いじゃん」
 「だからって勝手にコート内に入んなっ!!!」
 「でも、お陰でいい動きしてきたじゃないスか」
 
 コート内の不二先輩が反撃を開始する。
 その途端ふっと緩む菊丸先輩の顔。
 それはいつもの柔和な顔。
 「まあ、そうだけどさ・・・」
 さっきまで悲愴感溢れた顔だったのにもう元気印の笑顔になる。
 ホントに表情がよく変わる人だ。
 
 
 
 
 不二先輩が青学スタンドを見上げた。
 その瞳は真っ直ぐ菊丸先輩を貫いていて……
 そしてその顔にはもう迷いはなかった。
 そして微笑み返す菊丸先輩。
 ふたりの間に距離があっても言葉がなくても充分通じ合っている。
 それを見せ付けられた気がして呼吸経路が塞がれた気分になる。
 不二先輩は視線を異動させ、次に俺と目が合った。
 全身から湧き上がる闘志、華麗なるコート上の戦士。
 その姿に何故だがぞくりと身震いがした。
 
 
 ホントは俺だって恋敵であるアンタを覚醒させることなんてやりたくない。
 けどアンタが勝たなきゃ菊丸先輩の笑顔が見られない。
 俺の力だけではどうしようもないことを思い知らされる。
 
 
 だから100歩譲ってやる。
 
 
 
 
 
 
 終
 
 
 
 
 
 
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