月夜のメッセージ




英二の見た目と中身のギャップには常々驚かされるし、また、これが日々の新しい発見であって楽しみでもあったりする。
まずいつも明るくはしゃぎまわっているくせに意外と繊細な心の持ち主だということ。
大石が怪我をしてダブルスを組めなくなった時の落ち込みようは、この僕でもどうすることもできなかった。
結局英二の申し出の通りシングルスをやらせてみて結果、自分で乗り越えることができたのだけど。僕にはただ見守ることしかできなかった。
そして意外とメカオンチだということ。
スポーツジムでマシンの使い方はおろかビデオの予約もできない。
ついでに携帯電話のメールも得意ではない。
だから用事があればメールではなく必ず電話を掛けてくる。


そして今日も新たなる発見がここにひとつ・・・

英二がインフルエンザにかかった。



卒業式を2週間後に控えたその日、僕は4年に1度の誕生日を迎えた。
以前から英二が「不二でも食べられるあんまり甘くないケーキを作る」なんて言っていたからウキウキしながら登校した・・・・・・筈だった。が、その日英二は登校しなかった。
否、登校できなかったというのが正しい。

「今日の欠席者は足立に春日に菊丸に佐藤に津川に橋本に森田か、最近インフルエンザが流行っているから皆きちんとメシ食えよ」

担任の山嵐先生が今日の欠席者は全員インフルエンザだと言った。
インフルエンザは悪性のウィルスだからメシとは関係ないと思うのだけど、この担任は何かあればすぐメシメシと言う。
そんな担任のウンチクは置いておいて
英二がインフルエンザだって!!!!!
あんなに健康そのものの英二が。



よりによって僕の誕生日にインフルエンザにかかることないじゃない!
授業を受けながら僕は内心怒っていた。
僕の予定では、英二からの愛の祝福を受けてどさくさまぎれに英二にあんなことやこんなことを強要して・・・と脳内ドリーム炸裂だったのが全て水の泡だ。

おのれインフルエンザめ!

とは思っていたものの午後になると高ぶっていた気持ちも幾らか落ち着いてきて、今のうちにインフルエンザにかかっていたら卒業式には無事出席できるとか少しは前向きな方向に物事を考えることができてきた。
とりあえず今は英二が早く回復するように祈るしかない。



ごく普通に学校生活を終え、まっすぐ家に帰って家族に夕食で誕生日を祝福されて自室に戻ると携帯電話のメール着信を知らせるランプが光っているのに気が付いた。
誰からだろうとメールを開いた瞬間、意外な人物からの発信に僕は一瞬固まったけど、やがて内から込みあがる嬉しさに思わず顔がほころぶのが自分でも分かる位だった。

発信元:菊丸英二
件名:ハピバ!
本文:不二、誕生日おめめとう!
    直接祝えなくてメンゴ。
    風邪が治ったら約束どうりケーキ妬くかんね。
    んじゃ!


「おめめとう・・・」
気が付けば口に出していた。
メールが苦手なのに僕の為に無理して打ってくれたと思うとそれだけで胸が熱くなる。
きっと熱もあるだろうに僕の為に。
短い文章だし、おめめとうだし、ケーキに妬いていたりしているけど、それでも僕にとっては十分過ぎるものだった。
文章の内容だとかそんなの関係ない。
英二が僕の為に行動を起こしてくれたということが嬉しいのだ。

そして僕はまた新たに英二の思いやりを発見した。





僕は素早く返信ボタンを押した。


件名:Re:ハピバ!
本文:今日はメールの苦手な英二からのお祝いメールというとても
    貴重な体験をさせてもらったよ。
    おかげで嬉しい誕生日になったよ。
    英二こそ無理せずゆっくり風邪を治してね。
    英二が元気に登校して来るのを待っているから。











2008.03.06
今年折角の閏年でしたが29日に間に合いませんでした。
ので36の日にUP



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