ドキドキバースディ36(不二編)
「不二のアホー!」
ぐわしゃっ…
罵声と共に自分の視界が白くなった。
同時に鼻に付く甘い香り
「英二、随分な誕生日プレゼントだね。これは何かの余興?」
いまだ僕の顔に生クリームたっぷりのスポンジケーキと共に置かれている英二の手をスポンジケーキごと引き剥がして顔面に残った生クリームを手の甲で乱暴に拭い取る。
僕は今、英二にケーキを顔面に押し付けられた。
まるでバラエティ番組のお笑い芸人みたいに。
2月28日、学校で英二に「不二の誕生日ケーキを作ったから帰りに寄ってよ。今年は閏年じゃないから誕生日は今日にしようよ」なんて言われたからその場でOKして、そしてやってきた途端英二にこんな目に遭わされた。
「で、僕は何故君からのケーキを顔面で受け止めなくちゃいけないのかな?」
クリームにまみれた指で英二の顎を掴んで問いただす。
「自分の胸に聞いてみろ!」
威勢よく言っている台詞とは裏腹に英二の大きな瞳には涙が溜まっている。その姿に何かが心臓に突き刺さった。
自分の胸にと言われても英二に対してやましいことなんて思いつかない。
浮気なんてもちろんしていないしメールには直ぐに返事しているし英二が甘えてくればそっと抱きしめてキスをしたり……
というか誕生日に誰もない家に呼んでおいてこの僕は「さあヤルぞ!」と気合い入りまくりだったのにこの仕打ちなのはどういうことだ。
「僕の胸の内は英二を大切にしたいことしか考えてないよ」
クサい台詞だと思うけどこれが今の僕の正直な気持ちなのでそう言ってみる。
すると英二は困ったような、それでいて悲しそうな表情をした。
「俺はそこまで子供じゃないよ」
その台詞に僕は絶句する。
僕が黙っていると英二はポツリポツリと語りだした。
「お前、手塚と一緒にテニス留学の話が来てたそうじゃないか」
「知ってたんだ。でも断ったよ」
「断る事ねーじゃん」
「僕は青学高等部に進学したかったからね」
すると英二は深い溜息をついた。
「それって俺の為だろ?」
僕は再び絶句する。確かに英二と一緒に居たいのも理由のひとつだけど一番の原因は他にある。
自分を責めている英二をこれ以上追い詰めたくなくて僕はわざとらしく高笑いをする。
「何が可笑しいんだよ」
ムッとする英二に僕は冷ややかな微笑を浮かべて言ってやる。
「何自惚れてんの」
「…………」
今度は英二が絶句する番だ。
「手塚と僕のレベルが雲泥の差だってことぐらい英二にも解ってるでしょ。僕には無我も扱えないしましてその奥の扉なんて血の滲む努力をしてもいつ会得できるかも判らない。そんな僕が手塚と共に進めるなんて本気で思ってんの?」
「でも不二の実力なら……」
「確かに青学内なら僕だって自信があるよ。でも全国となれば話は別だよ。四天宝寺の白石や千歳、それに立海大の三強、僕の前にはまだまだ立ちはだかる壁があるんだ。海外に行く前にまず日本でこいつらを倒さないと、だから僕は日本に、青学に進学するんだ」
英二の曇った顔にみるみる日が差していくのが判る。
「そっか、それで留学を断ったんだ」
「で、英二は僕が英二の為に断ったと思ったんだ。僕って愛されているね。うれしいよ。でも『子供じゃない』ってどういうことかな?」
「…不二が進みたいと決めた道が例え俺たちが遠く離れようとも俺は不二が好きだから、不二に自分が決めた道を進んでほしいから、だから何があっても祝福するってことだよ」
「言うねえ、英二も」
「言うだけタダだし」
「何それ」
2人見詰め合って笑い合う。いつもの日常が戻った瞬間。
僕は英二を引き寄せてゆっくりと顔を近づける……
「ちょっと待った!」
突然の抵抗。
「待てない」
僕も反論する。
「その顔でキスはないだろ」
「あ……」
よくよく考えると僕の顔はまだクリームだらけだ。
「じゃあお風呂貸してくれるよね」
「もちろん!」
湯を入れる為に風呂場へ向かう英二の背中に僕はトドメをさしてやる。
「もちろん英二が洗ってくれるんでしょvv」
その言葉に英二の足は止まって顔だけこちらをゆっくりと向けた。
「お前、洗うだけじゃ済ませないつもりだろ……。てか俺ソープ嬢じゃないし」
むくれる英二に僕は極上のクリームまみれの笑顔で揚げ足を取ってやった。
「英二は『子供じゃない』んでしょvv」
終
英二君は「子供じゃない」ということでオトナの遊びを強要させられてしまいましたとさ(笑)
まあ不二君が誕生日に幸せならそれでいいということで…
とにかく不二君お誕生日おめでとうございます。
2007.02.25
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