「ありがとう、不二」
彼にとっては何気ない一言なのかもしれないけれど、僕にはそれがとても新鮮だった。
#5 言葉
部室で着替えていたら隣で着替えていた英二がタオルを落としたので拾って手渡したら
「ありがとう、不二」
って言われた。
彼にとっては何気ない一言なのかもしれないけれど、僕にはそれがとても新鮮だった。
英二とはクラスも同じで日頃から仲良くしているけど僕たちは黄金ペア程“親友”なわけではない。きっとクラスが違ったら接点なんてなかったハズ。
「不二?どーしたの?ボーっとして」
「え、あ、なんでもないよ」
僕が気になった英二の「ありがとう」の言葉。
同じ場面で手塚だったらきっとこう言っている。
「すまんな、不二」
大石だったらこうだろう
「あ、不二、ごめんごめん」
乾だったらこうかな
「すまない、不二」
タカさんならこうかな
「すまないね、不二」
「すみません、不二先輩」
桃や海堂ならこうくるだろう
越前は・・・
「すみませんッス」
日本語は不思議なもので「すみません」で感謝と謝罪を兼ねてしまってこれひとつで結構片付いて便利なものだ。
六角中のダビデじゃないけど「すみませんではすみません」だよ。(ププッ)
だから素直に「ありがとう」と言った英二がとても新鮮に感じられた。
「すみません」じゃなくて違和感なく「ありがとう」なんてさらっと言える人間なんて今どき少ないんじゃないかな。ファジーな世の中過ぎて言葉までどっちでもとれる便利な使い方になっている。
きっと英二の育った環境がピュアな良い環境だったんだろうな。
こんな素直に「ありがとう」を言葉にできる英二を僕は眩しく感じた。
「ふーじっ!先にコートに行くよ〜!」
「ああ」
笑いながらコートへ向かうクラスメイトの背中を見て僕は思う
「英二ともっともっと仲良くなりたい」
そして僕は彼の背中を追いかけた。
fin
36のお題へ
|