#25 浮気



久々に高熱を出してしまった。
頭は痛いしぼ〜っとするし体の節々は痛いわで苦しんで唸っていたら同室の兄ちゃんが気が散るらしくって親が1階の客間に来客用の布団を敷いてくれてそこで寝かされることになった。



* * * * * * * * * *


ひんやりした感覚で俺は目が覚めた。
相変らずぼ〜っとした頭でうっすら目を開けると誰かが俺の額に冷たいタオルを乗せてくれていた。
「・・・・・・兄ちゃん?」
タオルを持ったまま俺を見下ろしている人物は学生服を着ていた。
でも・・・視界がぼんやりしているとはいえ・・・兄にしてみればやけに小柄だ。

「菊丸先輩、大丈夫っすか?」
「おチビ!?」
俺は慌てて飛び起きた。
「なんでおチビがここにいるんだよっ!!!!!!つ〜〜〜〜〜っ」
慌てて起き上がった所為で眩暈を起こしてしまい俺はそのまま布団に突っ伏してしまう。
「先輩こんなに熱があるんだから大人しくしてなきゃだめですって」
おチビが俺の体を抱えてちゃんと布団に寝かせてくれた。
「何でお前がいるんだ?」
「お見舞い」
「部活は?」
「サボリ」
「お前ね〜!!!」
「まあまあ、怒ると余計に熱が上がりますよ。ちゃんと水分摂ってます?」
「あんまり食欲ない・・・」
「しょうがないなあ、じゃあこれ飲んで下さい」
おチビは鞄からファンタグレープを取り出した。
「だから・・・飲みたくないって!」
「水分摂って汗かかないと熱下がらないじゃないすか」
そう言っておチビはファンタを口に含んだかと思うといきなり俺に口づけてきた。
「!!!!!!!!!!」
おチビの口伝いに流し込まれるファンタグレープの味はやけに甘いと感じた。
「ちょ、ちょっとおチビっ!何すんだよっ!」
おチビは俺の躰に乗りかかってきて俺の首筋に唇を這わせてきた。
「何って、汗かいたほうが熱がはやく下りるし・・・」
「だからって!・・・ああっ・・・」
「ふ〜ん、先輩って感度いいんだ」
「だ、だめだっておチビ //////」
「大丈夫、おばさん買い物に行って1時間は戻って来れないって言ってたからささっとやっちゃいましょう」
「そんな問題じゃないって!」
俺は迫り来るおチビの躰を押しのけようとおチビの肩を掴んだが熱の所為で全く力が入らずにされるがままになってしまった。
「や、やだよ・・・おチビ・・・」
頭がガンガン痛くなってだんだんと意識が遠のきそうになってくる。ただぼんやりとした頭でもパジャマのボタンをひとつひとつ外されていく感覚ははっきりしていて後輩にこんなことされている自分がだんだんと恥ずかしくなってくる。
「菊丸先輩って思ってたより可愛くて色っぽいや」
「・・・やめておチビ」
「・・・・・・不二先輩にはさせているくせに」
「!!!!!」
俺はぼんやりと天井付近を彷徨わせていた視線をおチビに向けた。おチビは悲しそうな表情をしていた。
「俺だって菊丸先輩のことが好きなんです」
おチビが唇を重ねてきた。
何度も何度も角度を変えて啄ばむ様に唇を重ねてくる。
俺はされるがままになっていた。
不二よりももっと小柄で華奢な躰が俺の上に乗りかかって、不二よりも小さな手が俺の頬を包んで、そして不二よりもぷっくりした温かい唇が俺の唇に触れられて・・・・・・・・・
「ごめん、不二は俺のことが好きで俺も不二のことが好きなんだ」
「俺のことは?」
「おチビのことは好きだよ。後輩の中で一番大好き。でも不二のことを好きだと想う気持ちとはまた違うんだ」
「菊丸先輩が不二先輩のものだってことは知ってます。それでも俺は菊丸先輩を俺のものにしたいです。せめて今だけでも・・・」
おチビが再び唇を重ねてきた。さっきのような軽いものではなく深くすべてを奪われそうになるくらい激しいキス。
舌が差し込まれぴちゃぴちゃと誰もいない家に響いた。
俺は無意識のうちにおチビの頭を抱えておチビのキスを受け入れていた。



それはとても悲しいキスに感じられた。








* * * * * * * * * *







それからのことはよく覚えていない。
熱が上がってきたらしくってぼうっとする頭で訳がわからないままおチビとディープキスをした後パジャマのボタンをすべて外されて露わにされた胸に舌を這わされてくすぐったかったということを遠のいていく意識の中でぼんやりと覚えている。
最後までやられたのだろうか?

目が覚めるとおチビの姿はなく家族が次々と帰ってきているらしくって賑やかないつもの俺の家だった。
まるで何事もなかったようなごく普通の日常。
ひょっとしてあのおチビは夢の中での出来事だったのだろうか?
いくら高熱に侵されて抵抗できなかったからといって、俺はおチビと躰を重ねてしまったのだろうか?
俺は今、昼間と同じようにちゃんとパジャマを着てちゃんと布団に寝ている。
何がなんだか判らなくなってきた。

「英二、調子はどう?」
母親が部屋に入ってきた。
「だいぶ寝汗をかいたようね。これで熱が下がるわね。タオルと着替えを持ってくるから」
気がつくと俺のパジャマは汗でじっとりとしていた。これって・・・・・・
「あ、母ちゃん・・・」
「何?」
「あ、いや何でもない」
部屋を出て行こうとする母親を呼び止めておチビが本当に来てたのかどうかを聞こうと思ったけどなんだか答えを聞くのが怖くなってやめてしまった。
俺って小心者・・・。


タオルで躰を拭いて新しいパジャマに着替えて布団の傍に置かれてあった体温計に手を伸ばそうとして俺は固まってしまった。



体温計の傍にはファンタグレープの缶が置かれてあった。















fin







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