#12 接吻
生まれて初めてキスをした。
相手は不二周助。
俺のクラスメイトであり部活仲間であり、親友で・・・・・・そして恋人。
1ヶ月前不二に俺に対して親友以上の感情を持っていると告られて、俺も不二ならいいかなと思ってつきあうことになった。
そして今日の部活で手塚は生徒会の仕事があって、大石は用事があるからと俺と不二が部室の戸締り役の代わりをして二人っきりになったときに不二が言った。
「ねえ英二、・・・・・・キス・・・してもいい?」
俺の心臓がバクバクする。
この1ヶ月付き合うと言っても今までの友達の延長みたいな感じでいわゆるこういう色事(?)的なことはなかったのでいつかこの日がくるだろうとは解っていたけどいざ実際に不二に言われてみると身体が固まってしまう。
「・・・・・・・・・」
覚悟は決めてたけど喉の奥で声が詰まってしまう。
俺は黙って頷いた。
不二がゆっくりと一歩一歩俺に近づいてくる。窓から差し込む夕日に照らされたその顔は今までに見たこともない真剣な顔で・・・・・・
「逃げないで、英二」
俺は無意識のうちに後ろに下がっていたらしい。
背中にコンクリートのひんやりした感じが当たってまるでここで不二を迎えいれろと言われている気分になる。
だんだんと近づいてくる不二。
両肩を掴まれ身体を固定させられる。
俺より少し背の低い不二が背伸びをした。
不二の顔が近づいてくる。
そして
唇にやわらかくて生暖かいものを感じた。
俺はずっと目を開けていた。
それからどうやって帰ったか覚えていない。
心臓がバクバクしっぱなしで不二の顔がまともに見られなくて・・・・・・
気がついたら自分ちの玄関先だった。
俺きっと今変な顔してる。
別に悪いことじゃないけどなんだか罪悪感みたいなものがあって今家族に顔を合わせるのが妙に恥ずかしい。
俺はそおっとドアを開けた。
「あら、英二。黙って入ってきちゃわからないじゃないの」
「ぎゃー!姉ちゃん、にゃんでここにいるんだよ!」
ドアを開けたらいきなり次姉がいたのにびっくりして俺は飛び上がってしまう。
「何よ英二ったら。そんなに驚く事ないでしょ。ほら、おニューの靴なのvv買っちゃったvv」
姉は嬉しそうに俺に靴を見せる。どっかのブランド物らしいけど俺にはよくわからない。
「そ、そう、よかったね・・・あはは・・・・」
俺はあわてて靴を脱いで家の中に入った。すぐに2階の自室に上がろうとしたとき階段の手前にある台所の入り口から母親がひょっこりと顔だけ出した。
「英二も美香も何玄関で大声出しているのよ!」
「ぎゃ〜!!!!母ちゃん!!!」
「何?英二」
「い、いや・・・いきなり顔だけ出てくるとは思わなかったから・・・」
特に母親に対しては不二とキスをしたなんて知られたくないしめちゃくちゃ恥ずかしいし、顔が合わせられなくって逃げるように2階に駆け上がった。
上がりきったところで階段の前にある2階のトイレのドアが急に開いて俺の顔面に直撃した。
「いでー!!!!!」
「あら英二、居たんだ。ごめん」
口ではごめんといいながら態度は飄々とした長姉が中から出てきた。
「・・・・・・ただいま・・・姉ちゃん・・・」
俺は顔を手の平で押さえて呻く様に言った。
「鼻、ぶつけたの?見せてごらん。鼻血出てたら大変だし」
姉が俺の顔を覆っている手をどかして俺の顔を下から覗き込んでくる。
それが先程の不二と重なった。
「だ/////だだだだ、大丈夫だって!ちょっと打っただけだから」
俺は慌てて自室に飛び込んだ。
俺の自室では同室の次兄の他に長兄とじーちゃんとばーちゃんがゴルフのTVゲームをしていて盛り上がっていた。
「おや、英二お帰り」
「お帰り」
「お疲れさん」
「お帰り」
「た、ただいま・・・・・・」
そうだ、この家で一人になって不二とのファーストキッスの余韻に浸ろうなんて考えた俺が馬鹿だった。
「英二、今日はやけに静かだな。具合でも悪いのか?」
黙々と晩飯を食っていたら目の前にいた父親が問うてきた。
「べ、別に悪くなんかないよっ!俺元気だよ」
「そうか?さっき俺たちがゲームで盛り上がってたのに英二のやつ後ろで黙って着替えていたじゃないか。いつもなら真っ先に『俺にもやらせろ』って言うくせに」
長兄まで言ってくる。
たのむから今日の俺には構わないでくれよ。
「明日までにやらなきゃいけないレポートがあるから・・・ごちそうさま」
俺は箸を置いて逃げるようにその場から去ることにした。
自室に入って机の前に座る。
確かに明日までの宿題やらレポートやらあるけど・・・・・・
俺は自分の唇に指をそっと触れてみた。
夕食直後で体温が上昇しているせいか俺の指は熱かった。
それが不二の熱い唇を思い出す。
また心臓がドキドキしてきた。
不二・・・
俺、こんなにも不二のことが好きだったんだ。
明日学校でどんな顔をしたらいいんだろう。
「英二、英二!」
廊下で姉が呼んでいる声が聞こえた。
「何?姉ちゃん」
「不二君が来たわよ。あんた鞄を間違えて持って帰ったんだって!わざわざ届けて来てくれたわよ」
「ええ!?」
俺は鞄を見た。学校指定なんで見た目は変わらないけど汚れやキズも少なく丁寧に扱っていて不二らしいなあと思う。チャックを開けて中を見たらやっぱり不二のペンケースやらノートやらが入っていた。
「英二、早くしなさい!」
「はい、はぁ〜い」
まだ不二に顔を合わせるのは恥ずかしいけど、けどそんなこと言ってられない。きっと俺キスされた後、動転していて間違えて不二の鞄を持ってしまって・・・
なんて整理のつかない頭であわてて鞄を持って飛び出して・・・・・・
俺は階段からすべり落ちてしまった。
英二の家の玄関で英二が出てくるのを待っていたら廊下の向こうで派手な物音が聞こえた。
「ちょっとすいません」
僕は英二のお姉さんの脇をすり抜けて勝手に家の中に上がりこんだ。
すると階段の下で英二が僕の鞄を抱えたまま倒れていた。
「英二!大丈夫!」
「にゃはは、ごめん。ちょっと慌てちゃった」
英二はすぐに顔を起こした。
「ちょっと!英二どうしたの!?」
「大丈夫か、英二!」
「廊下と階段は走るなと言ってるだろ!」
「怪我はない?」
「あら、不二君いらっしゃい」
次々と集まってくる英二の家族達。
ここの家族を見ていたら本当にこの末っ子を大切にしているんだなあとほほえましくなってくる。
「英二、大丈夫って言ってるけど本当は腰を強く打って痛いんでしょ」
僕は2人分の鞄を左肩に掛けて右肩を英二の左脇の下に入れて抱えるように立ち上がらせた。
「ちょっ・・・ちょっと不二!!!」
「無理しちゃ駄目だって」
「でも、不二・・・」
「英二君は僕が部屋まで連れて行きますからご安心なさって下さい」
僕は首だけ英二の家族に向けてにっこり微笑んでそのまま英二を部屋に連れて行った。
部屋に連れて帰ってもらって2人だけの空間に耐えられなくて俺はずっと黙っていた。こんな時に兄ちゃんでも入ってくれれば空気が変わるのに1階で皆でTVを見ているらしくって上がって来ない。
「英二、僕が怖い?」
俺はふるふると頭を横に振った。
「じゃあ何で僕の目を見てくれないの?」
俺はただ黙って俯いていた。
「僕との・・・キス・・・・・・嫌だった?」
俺は咄嗟に顔を上げた。
不二はとても悲しそうな表情で俺の顔をじっと見つめている。
「どうしてそんな風に考えるの?」
「・・・あの後から英二の態度が・・・まるで僕を避けているみたいだから」
え、俺が不二を避けているって?
「そうだよね。男とキスなんて・・・常識で考えるとおかしいよね」
俺の態度って不二にはそんな風に映ってたんだ。
「僕は英二が嫌がることはしたくない。ごめんね」
「なんでそこで謝るんだよ!」
「英二!?」
「俺・・・恥ずかしかったんだよ。初めてだったし。なのに不二ったら余裕たっぷりで。俺、不二のこと考えるだけで心臓がドキドキして、苦しくなって、こんなにも俺・・・不二のことが好きだったんだ。なのに勝手に嫌だとか決め付けるなよっ!」
俺は一気に言ってしまうと大きく息を吸い込んだ。
目の前の不二は細い目を見開いて驚いた顔をしている。
「ごめん、英二」
その途端俺は不二に抱きしめられた。
「僕には余裕なんてないよ。だから英二のちょっとした態度でも嫌われたんじゃないかと心配で心配で堪らなかった。でも英二がそんなに僕のことを好きでいてくれて嬉しい!」
俺を抱きしめる不二の腕に力が入る。
「・・・お互い余裕なんてにゃかったんだね」
俺も不二の背中に腕をまわす。
「ねえ、英二、セカンドキスしようか?」
「うん」
今度はちゃんと返事ができた。
そして俺はゆっくりと目を閉じた。
fin
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