#10 客
夜が明ける前、菊丸は尿意で目が覚めた。
隣に寝ている不二を起こさないようにするりとベッドから抜け出したところでそこが不二の家だということに気が付く。
不二と求め合ったまま寝てしまった菊丸の姿は一糸纏わぬ素っ裸でいくら不二の部屋の前にトイレがあろうがさすがにこのままでは、と躊躇ってしまう。
まだ不二の家族も寝ている時間。昨夜は家族がいるからなるたけ声が出ないように求め合った。
この時間ならきっと大丈夫。
菊丸はポジティブに考え、腰にタオルを一枚巻いただけで部屋を出た。
しかし世の中そんなに甘くない。
トイレから出たところで裕太とはち合った。
「き、菊丸さん・・・」
「裕太君・・・」
腰にタオルだけを巻いただけの菊丸を見て硬直しているのが手に取るように解る。
二人の間に気まずい空気が流れる。
裕太のリアクションは硬直というより菊丸と目を合わさないようにしてまるで恥らっている乙女の様だ。
そんな裕太を見て菊丸は腹を決めてにっこりと極上の微笑みを浮かべた。
「男がヤローの裸見て何恥かしがってんだよ」
その言葉に裕太は俯き加減だった顔を上げる。
「いや、裸を恥かしいなんて思ってません。ただ・・・その・・・兄貴が菊丸さんと付き合っているのは知ってたけどホントにその・・・だから・・・・・・あの兄貴とそういう事しているんだなあって」
口ごもりながら言う裕太がいかにもウブで、可愛いものだ。
「お前の兄貴は昼も夜も最高だよ」
軽くウィンクして言ってやると裕太の顔がますます赤くなった。
それを可愛いなあと呟きながら菊丸は不二の部屋へするりと入っていった。
廊下に残された裕太はひとりごちた。
「…てか、ここは俺ん家だっつーの。何で俺が客に対してこんなにキンチョーしなきゃいけねーんだよ」
fin
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